9月13日にオープンした「ワークマンプラストレッサ横浜店」。低価格・高機能でアウトドア初心者などを取り込む。
撮影:神谷武
小売業界で近年にないヒットを飛ばしているのが、作業服専門店チェーンのワークマンだ。
2018年9月に出店を開始した新型店「ワークマンプラス」が当たり、2019年3月期は既存店売上高が前期に比べて14%増と伸び、30%近く営業利益を押し上げた。2020年4~6月期も既存店売上高が前年同期比29%増、営業利益が56%増の47億円と好調をキープ、業績拡大が続いている。
株価は1年前の2倍に上昇。ポスト・ユニクロとの呼び声も上がる。ワークマンの実力は本物なのか。
作業着がライダー向きと評判に
ワークマンプラスで扱う商品は、おもにPB(プライベートブランド)のアウトドア衣料やスポーツ衣料。既存ワークマンの主要客が建設現場などで働く職人であるのに対して、ワークマンプラスは一般客の取り込みを図る。
一般客を取り込む戦略に舵を切った理由は、職人が減少傾向にあり作業服の需要が先細りする見通しだからだ。作業服というニッチで拡大が見込めない市場では、成長のための新たな打ち手が必要となる。
ワークマンは10年ほど前からPBを開発してきたが、これが口コミやSNSで広がり一般客に人気に火が付いた。
まず火がついたのが、レインスーツ。雨天での屋外作業用の防水・防寒ウエアである。SNS でバイク用としての評価が高まり、今ではライダー向けの機能を追加してバイク専用ウエアとなり、毎年新モデルを投入している。
こうした人気拡大を受けて、3年前にPBを用途別にブランド化。アウトドアウエア「フィールドコア」、スポーツウエア「ファインドアウト」、レインスーツ「イージス」という一般客向け自社開発3ブランドを投入。年々売り上げを拡大してきていた。
この“鉱脈”である3ブランドに特化した店舗がワークマンプラスだ。
初心者が試しやすい価格
生産金額にして前年の2.7倍の秋冬向けPBを投入する。
ワークマンは群馬県を本拠とする小売業、いせや(現ベイシア)から分社化した企業。スーパーマーケットのベイシア、ホームセンターのカインズなどを擁する流通グループの一翼を担う。グループで共通しているのは安売り志向で、どの企業も低価格販売を信条としている。ワークマンも同様、創業時から低価格販売を貫いている。
ワークマンプラスが受けている理由の一つもこの安さだ。
アウトドアやスポーツの代表的ブランドと比べて、アウトドアウエアは半額以下、スポーツウエアは3分の1以下という価格。店頭に並ぶ商品を見ると、価格ラインは1900円、2900円あたりが主流。
想定する顧客はアウトドア初心者。アウトドアブランドで登山・トレッキング用ウエアをそろえようとすると、それこそ数万円にもなってしまう。ワークマンプラスならトライアルで着るウエアとして手頃な値段だ。
近年は、アウトドアウエアやスポーツウエアを街着として着用するアスレジャーファッションも広がっている。その入口としても手を伸ばしやすい。商品を購入して失敗したと思っても後悔しなくて済む、そんな割り切りができる価格だ。
売りは安さだけではない。
強く打ち出すのが商品の機能性だ。PB開発では職人のさまざまな要求を満たす機能を盛り込んできた。耐久性、防寒性、防風性、遮熱性、通気性、吸汗性、速乾性、ストレッチ性、耐水性、透湿性、抗菌性……とにかく機能が充実している。
職人向けの防水・防寒ウエアがライダー用として人気になったのは、本来の用途とは異なるが、機能に対する満足度が高かったからである。
特売戦略をとらないワークマン
トレッサ横浜店では女性向けの売り場を1号店の3倍超に拡大した。
ワークマンは安さをどのように実現しているのか。
1つは大量生産による原価低減。ワークマンの店舗数は800店舗強。業界2位、3位は数十店規模で、作業服専門店で断トツだ。作業服という限られた分野でPBをつくるうえで、この規模は大きなメリットだ。ヒット商品ともなれば数十万点という生産量に達することもある。
生産量が増えれば仕入単価が下がり、原価を抑えられる。製造するのは中国やミャンマー、ベトナム。一部は商社を介在させているが、ほとんどが現地に直接出向いてメーカーと折衝することでコスト削減につなげている。
もう1つは「EDLP(エブリデイ・ロー・プライス)」という価格政策だ。米ウォルマートでよく知られるようになった価格政策で、特売などで価格を引き下げて集客を図る価格政策「ハイ・ロー」に対比される。常時、一定の低価格にすることで、価格に対する信頼感を高めるとともに、特売チラシ費用が不要になったり、店舗での特売準備のための作業コストを削減できたりするメリットがある。
アパレルでは、シーズン終盤に「クリアランスセール40%オフ」などと値下げによって商品を売り切ろうとする。値下げするぶん利幅も小さくなるため、最初の価格設定の段階でそのぶん補えるように価格設定をしている。つまり、原価率(販売価格に対する原価の割合)を低く設定しておくのだ。
ワークマンの場合は値下げをしないため、利幅を高めに設定する必要がなく低価格にすることが可能なのだ。
“二毛作店舗”で売り上げ増狙う
ワークマンの専務取締役・土屋哲雄氏。独自の戦略には競合はいない、と言い切る。
ワークマンプラスの成功を受けて追随するライバルは今のところ見られない。
その理由の1つと見られるのが原価率だ。
ワークマンの原価率は64%。例えばユニクロの原価率は35%程度と見られており、ワークマンと同等の価格にすれば機能性に劣るものしかつくれない。機能を同等にすれば価格はアップする。ワークマンと同等の価格と機能を両立しようとすれば、コスト構造が壁になる。
あるアパレル関係者は「この値段と機能性を両立させるのは難しい」と打ち明ける。
ワークマンには原価率を下げて利益をさらに確保しようという考えはない。他企業の参入障壁が低くなるからだ。ワークマン専務取締役の土屋哲雄氏は「競争すると負ける。だから競争させない価格戦略でいく」と言い切る。
6月末時点の店舗数は843店舗(ワークマン814店舗、ワークマンプラス29店舗)。2025年には1000店舗が目標だ。
ワークマンプラスは新店と既存店改装で増やすが、立地状況によっては改装の難しい店舗もある。そこで、2020年3月にはさいたま市の路面店で“二毛作店舗”も実験する計画だ。平日はワークマン、土日は照明やディスプレイを変更しワークマンプラスにするという型破りの店舗である。
少しでもワークマンプラス化を図り売上増を図る狙いだ。
1店舗の平均年商はワークマンが1.1億円。ワークマンプラスとなると、路面店が2億円、ショッピングセンターのテナントが3億円。ワークマンプラスの店舗が増えれば増収効果も高まるわけで、ワークマンプラスを成長ドライバーに当面、業績拡大は続くだろう。
「競争がなく、商品力は強いし、需要もある」と前出の土屋氏。
確かに今のところ死角は見られない。だが、カジュアル衣料の栄枯盛衰は激しく、一世を風靡した米ファストファッション大手でさえ経営難に陥っている。ワークマンプラスが全国に行き渡れば、飽和感も出てくるだろう。ライバル参戦の可能性もある。
ワークマンの真価が問われるのはそのときだ。
(文・写真、神谷武)
神谷武:フリーランスライター。流通専門誌編集者を経て、2019年独立。