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人、都市、国を分断する、世界の16の巨大な壁

国境監視員

アメリカの国境監視員。

Gregory Bull / AP

アメリカでは9月、トランプ大統領のアメリカとメキシコとを物理的に分断する巨大な国境の壁の建設がアリゾナ州南部で始まった。ただ、"壁の建設"はトランプ大統領に限ったことではない。

ベルリンの壁が崩壊した後も、"壁の建設"は広く行われてきた。9.11同時多発テロの後は特に顕著だ。北アイルランドのベルファストやペルーの首都リマ、シリアのホムス、キプロスの首都ニコシアといった都市は物理的に分断されている。同じことが、アメリカとメキシコ、北朝鮮と韓国、インドとパキスタン、イスラエルと周辺国の国境でも起きている。

壁の建設は新しい事象ではない。だが、リマの壁を調査した建築家ベレン・デメゾン(Belen Desmaison)氏によると、これは世界的なトレンドの一部だという。コンクリート、有刺鉄線、電流、または監視技術を使って、こうした壁は人々を社会、民族集団によって分断するために作られる。

だが、必ずしも機能するわけではない。シンクタンク「トランスナショナル・インスティテュート」の研究者ニック・バクストン(Nick Buxton)氏は、人間は好きなだけ壁を作ることができるが、ただ物事をより危険にするだけだと、ニューヨーク・タイムズに1月に語っている。「人は壁を越える方法を見つけるだろう」とバクストン氏は言う。

人々を分断する、世界各地の16の壁を見ていこう。


「ベルリンの壁」は、ドイツ分断の象徴。

ベルリンの壁

REUTERS/David Brauchli/Files

1961年、ベルリンは東西の人々の往来をストップさせるため、全長27マイル(約43キロメートル)の壁によって分断された。壁の高さはわずか11フィート(約3.4メートル)だったが、その監視は厳重だった。壁の誕生から崩壊まで約30年の間に、100人以上が壁を越えようとして命を落としたが、5000人がなんとか乗り越えた。

1989年、東ドイツ政府が旅行に関する規制を緩和したあと、ベルリンの壁は崩壊。今でもその一部がベルリンに残されている。

北アイルランドのベルファストでは、今も「平和の壁」が通りを分断している。

ベルファスト「平和の壁」

Peter Morrison / AP

ベルファストにおける暴力と暴動を止めるため、1961年にアイルランドとの統一を求めるカトリックとイギリスを支持するプロテスタントを分断する壁が街中で建設された。今では北アイルランドに約60もの壁が存在する。北アイルランドの統治をめぐっては、1998年に包括和平合意「聖金曜日協定(ベルファスト合意)」が調印されたが、壁の多くは実際、この合意の後に建設された。

これらの壁はもはや暴動を食い止めるために使われてはいないが、2016年まで取り壊されることはなかった。国の分断を終わらせるため、全ての壁を2023年までに壊す計画があるものの、2018年5月までに取り除かれた壁は数えるほどしかない。

ペルーの首都リマでは、「恥の壁」と呼ばれる壁によって富裕層と貧困層が分断されている。

恥の壁

Toupi Group / Youtube

リマの壁は全長6マイル、高さ10フィートで、有刺鉄線が張り巡らされている。富裕層と貧困層のコミュニティーを分けるために、1985年に建設が始まった。ペルー南部で起きた暴動から逃れてきた人々がリマの丘に移住してきたことを受けてのことだった。

富裕層が貧困層を切り離そうとする中、壁は増え続けた。壁の建設は地元当局によって許可されていて、警察はその護衛を担っている。

アトランティック誌で地元住民にインタビュー取材をしたミーガン・ジャネツキー(Megan Janetsky)氏によると、壁の富裕層側に住んでいる人々の中には、壁の存在を忘れている人もいるという。だが、日々数時間をかけて、壁を迂回して通勤している貧困層にとっては、そうはいかない。

シリアのホムスは、政府が建設した壁によって、政府に対して忠実かどうかで分断されている。

ホムスの壁

Shaam News Network / Handout / Reuters

この高さ10フィートの壁が初めて建設されたのは2012年のことだ。建設には2カ月を要したが、全長は1マイル以下だ。この壁は、政府に忠実なイスラム教シーア派の分派アラウィ派と、シリア政府に忠実でないスンニ派を分けるために作られた。

キプロスの首都ニコシアも、壁によって分断されている。

ニコシアの壁

Petros Karadjias / AP

全長120マイルのこの壁は、土嚢、土の詰まった樽、セメントの壁、有刺鉄線でできている。壁を挟んで、キリスト教を信仰するギリシャ系住民と、イスラム教を信仰するトルコ系住民が暮らしている。

壁はトルコによる軍事介入のあと、1974年に作られた。ギリシャ系住民とトルコ系住民は下水システムと電気システムを共有しているが、それだけだ。2003年には壁を越えた往来に関する規制が緩和されたが、往来には今もパスポートが必要だ。

スペイン領メリリャとセウタは、隣接するモロッコと壁で隔てられている。

ゴルフ場

Jose Palazon / Reuters

スペイン領メリリャとモロッコを分断するフェンスは、1995年に初めて設置されブレードやアラーム(かつては催涙ガス)によって守られてきた。壁は不法移民を食い止めるために作られた。スペイン領セウタにも、有刺鉄線で覆われた高さ約20フィートのフェンスがある。壁が建設されてから、流入してくる移民の数は減ったが、今でも問題となっている。

モロッコは、西サハラとも世界最古の壁で分断されている。

モロッコ兵

Zohra Bensemra / Reuters

モロッコと西サハラを分断するこの土壁は1980年、砂と有刺鉄線で作られた。地雷原もあり、西サハラとモロッコ、アルジェリア、モーリタニアとの間を隔てている。

そして、国と国とを分断する壁もある。アメリカとメキシコの国境もその1つだ。

国境パトロール

Charlie Riedel / AP

アメリカとメキシコの国境は、全長約2000マイルにも及ぶ。このうち700マイルには壁もしくはフェンスが設置されている。アメリカ国境警備隊は、熱気球やドローン、カメラを使って常に国境を監視している。だが、「大きく、美しく、頑強な」壁を求めるトランプ大統領にとっては、不十分のようだ。

2019年9月、ホワイトハウスはフェンスの増設を本格化させると発表。2020年末までに新たに500マイルの国境に壁を建設することを目指すとしている。

北朝鮮と韓国の間にも厳重な軍事境界線があり、1953年から両者を分断している。

フェンス沿いに歩く韓国兵

Ahn Young-joon / AP

北朝鮮と韓国を分断する全長160マイル、幅1.5マイルのこの非武装地帯は、1953年に作られた。フェンスの上には有刺鉄線が張られていて、一帯には地雷も埋まっている世界で最も厳重な軍事境界線だ。

イスラエルはヨルダン川西岸に沿って「反テロリズム」の壁を作り、パレスチナと自らを分離している。

ヨルダン川西岸

Nasser Shiyoukhi / AP

イスラエルがこの全長425マイルの壁を建設し始めたのは2002年、パレスチナ人による自爆攻撃を受けてのことだ。一連の攻撃により、1カ月で130人が死亡した。イスラエル側はこれを「反テロリズム」の壁と呼んでいるが、パレスチナ側は「アパルトヘイト」の壁だと言う。

2004年、国際司法裁判所は占領地での分離壁の建設を違法と判断した

イスラエルは近年、レバノンとの国境にも壁を建設。

壁

Sebastian Scheiner / AP

2018年、イスラエルは住民を攻撃から守るためとして、レバノンとの間に30フィートの壁(完成時には全長80マイルになる)の建設を始めた。しかし、壁の一部がレバノンの領土に入っているとして、レバノンは国連に申し立てを行うとした

イスラエルはエジプトとの国境にも壁を作っている。

壁

Wikimedia

イスラエルとエジプトを分ける全長150マイルのフェンスは、2012年に完成した。高さ16フィートのフェンスの上には有刺鉄線が張られ、モーションセンサーも付いている。フェンスは不法移民と軍事攻撃を食い止めるために、イスラエルが作った。素晴らしい出来だとして、インドは視察団を送った。エルサレム・ポストによると、アメリカもイスラエルが使用しているレーダー装置を見ていったという。

エジプトはガザ地区との間に壁を作ったが、武装勢力によって一部破壊されている。

壊れた壁の前でお茶を飲む子どもたち

Majed Hamdan / AP

ガザ地区との間に作られたこの壁は2008年、武装勢力によって破壊された。ガザの住人の約半数がそこから国境を越えたと考えられている。エジプト側はチェーンフェンスと有刺鉄線でできるだけ早く国境を再び閉じようとした

ハンガリーなど、ヨーロッパの国々も壁を建設している。主に移民の流入を食い止めるためだ。

ハンガリー兵

Bernadett Szabo / Reuters

ハンガリーは全長100マイルの壁をセルビア、クロアチアとの国境に作った。フェンスを登ろうとすると、電気ショックが来る。監視装置も付いている。パトロールやトランジット・ゾーンにかかる費用などを含め、ハンガリーは約11億ドル(約1200億円)を負担している。

インドとパキスタンの国境には、血塗られた歴史がある。

印パ国境

Channi Anand / AP

インドとパキスタンの国境には、混沌とした歴史がある。多くの血も流れた。全長450マイルの有刺鉄線のフェンスは「管理ライン」と呼ばれる。厳重に警備されているが、問題もある。2019年には、インド政府が国境を越えて飛んでくる弾から住民を守るため、1万4000ものシェルターを作る計画をスタートさせた。

インドは、バングラデシュとの間にも壁を作っている。

パトロールするインドの国境警備隊

Anupam Nath / AP

1986年に建設が始まったインドとバングラデシュを分断するこの壁は、全長2500マイルで、有刺鉄線が使われている。密輸、不法移民、テロ攻撃を食い止めようと、インドが作った。2003年から2013年の間に1000人がインドの国境警備隊に撃たれて死亡した。

[原文:16 significant walls dividing people, cities, and countries across the world

(翻訳、編集:山口佳美)

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