衛星写真でテスラを“分析”する「センシングファイナンス」は金融を救うか

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センシングファイナンスという造語の生みの親、NTTデータ金融事業推進部デジタル戦略推進部山本英生部長。

撮影・大塚淳史

「センシングファイナンス」という、まだ聞き慣れない言葉がある。センシングデータ(さまざまなセンサーを利用して量や音・光・温度などを計測したデータ)をいかした金融サービスを意味する造語だ。まだ身近に感じていないかもしれないが、センシングファイナンスは、実は身近な存在になってきている。

フィンテックに関するイベント「FIN/SUM」(日本経済新聞主催)の中のセミナー「センシングファイナンス〜データの世紀の新金融サービス」が9月4日、東京都内で開かれた。

センシングファイナンスという言葉を生み出したNTTデータ金融事業推進部デジタル戦略推進部山本英生部長によると「金融機関が今まで利用してこなかったデータを取り込むことで、従来からの金融商品あるいはサービスを高度化していくなど全般を指す」とこの言葉を定義している。

センシングデータ+ファイナンス=センシングファイナンス

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センシングファイナンスの定義を説明するNTTデータの山本部長。

撮影・大塚淳史

さらに定義の中には、二つの系統があるとする。

「一つは、今まであったけど使ってこなかったデータ。スマートメーターや衛星写真など(データとして)実在していたものの、金融商品に使われてなかったデータ

「もう一つは、今までデータとして存在しなかったものを、あえてそのデータを取りに行く。IoT(インターネット・オブ・シングス)と言われるもの」

この2点を含めて、センシングファイナンスと定義している。

銀行の従来のビジネスモデルは、技術の発達によって昔ほど盤石ではなくなってきている。これまで銀行が担ってきていた資金仲介機能は、クラウドファンディング、トークンエコノミーなどでも可能になった。異業種参入もあり、市場競争は激化し、銀行が「稼ぎ」にしてきた領域も浸食されている。

いかに金融としての付加価値をつけるか。そこで顧客のためにより役立つように、稼ぐために、データをいかしたセンシングファイナンスという考え方が生まれていった。これらを用いて預金や資金調達などを強化し、銀行の得意とする「与信能力」を高めていこうとしているという。

「例えば、(銀行は)今までの様な財務分析ではなく、(融資先の会社の)生産設備の稼働状況であったり、設備の耐用年数を見ていきます」(山本部長)

「テスラの生産計画は予定通り?」衛星画像から投資判断

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中国平安保険は画像解析などで保険の審査をする。

海外ではセンシングファイナンスそのものと言える興味深い実例が生まれている。

中国の保険会社最大手である中国平安保険は、融資の審査の際に、借り手である相手の表情を顔認証技術を利用して判断する。また、養豚業者が豚にかけた保険で、豚が死んだ際に養豚業者からスマホで撮った写真を送ってもらい、その画像を解析して(本当に農家が所有している豚なのか)審査するという。

この背景には、中国は広大であり、いちいち現地まで足を運んで確認するということがなかなか難しい。そこでこういったテクノロジーの進化を。

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テスラの量産型モデルの生産計画が、衛星画像などの解析から公表通りではないことがわかった。

また2018年には面白い事例があった。電気自動車メーカーのテスラの量産型モデルの生産が、公表した計画通りに進んでいるのか、機関投資家たちの間で疑念が起こった。

「計画通りにできていれば、安定的に出荷できるので株価も安定します。ただ、機関投資家たちは達成可能か疑問に思い、その事実を確かめるために、テスラの画像が写っている衛星画像を購入しました。

工場から出てくる車の台数を数えて、当初言っている生産計画通りなのか否かを検証しました。検証してみると計画通りではなかった。それを投資行動につなげました」(山本部長)

こうした使い方の先には、将来的には、大規模災害の被災状況をすぐ知りたい保険会社が、災害地域に人が入っていくのは難しい場合に、ドローンを活用して状況確認もありうると紹介した。

「その地域に住んでいるお客さんに対して、保険の申請がある前に『これくらいお支払いできますよ』と提案も可能ではないか」(山本部長)

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技術の発達でさまざまなデータを取ることが可能になり、それらを組み合わせで新たなシステムも生み出される。

東南アジアでセンシングファイナンスに挑む日系企業

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グローバル・モビリティ・サービスはセンシングファイナンスを実践している。

東南アジアを中心にセンシングファイナンスに取り組むのが、Global Mobility Service(グローバル・モビリティ・サービス)。通常であれば、車の購入を決めて、ローンの審査が行われて、審査が通れば融資する。

グローバル・モビリティ・サービスは、車を買うと決めたら、基本的には、なんと「審査をせずに」お金を貸す。ただし、お金を貸す条件なのが、購入者への特殊機器の設置だ。ローンを返済していれば何も起こらないが、支払いが滞ると遠隔操作で車を止めて、場所を特定して、車を換金する。コンビニやキャッシュコーナーで返済分を支払えば、数分内に車にかかったロックを解除できる。審査に時間をかける銀行とは逆転の発想ともいえる取り組みだ。

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グローバル・モビリティ・サービスの中島徳至社長(写真右)。

撮影・大塚淳史

セミナーで登壇した同社の中島徳至社長は、事業のきっかけに新興国ならではの事情があったと明かす。

「新興国に行くと、水道、ガス、携帯電話は全て前金です。入金が滞ると、即座に止まります。それを同様に自動車に持ち込みました。支払いに対するインセンティブを高くした」

「センシングファイナンスによって可能になりました。貧しいけど自分たちの頑張りを見てくれよと言う人たちがたくさんいます。これだけ働いているのに、なんで金融機関はお金を貸してくれないのか。これから、将来を信じて頑張る人たちに車が利用できる権利、自分が車を所有できる価値を与えました」(中島社長)

さらに面白いのが、その真面目にローンを返済している人への、さらなる取り組みだ。

「車両の所有だけではなく、真面目に働くことでその人の頑張りをデータによって価値化しています。貧困家庭の子供さんは大学に行くのが難しい。日本の様に奨学金制度が整っていない。こういったデータをいかすことで、さらに学費ローンや医療ローンも提供できるようになりました」(中島社長)

このように、貧困層であったり、過去にクレジットカードの支払いを延滞した人であったり、破産した人であったりとこれまでお金を借りることが難しい立場の人たちでも、センシングファイナンスという形であれば可能になるとした。

(文、写真・大塚淳史)

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