【会社更生手続きへ】全米ライフル協会とは何者か。銃規制に反対、500万人という数の力と政治力

リッチモンドの銃規制運動

フロリダ州での銃乱射事件以降、銃規制運動は全米にひろがっている。

REUTERS/Michael A. McCoy

1月15日(現地時間)、NRA (全米ライフル協会)が米連邦破産法11条に基づく会社更生手続きの適用を申請した。

NRAは本拠を置くニューヨーク州で、資金の不正流用などを理由に、同州司法長官から解散を求めて提訴されるなど存続が危ぶまれる状況。テキサス州に本拠を移して再建を図る計画という。

NRAとはいかなる組織なのか、これを機に、以下の分析記事(2019年9月掲載)をぜひ参照されたい。


銃による凶悪犯罪のニュースが毎週のように流れてくるものの、アメリカの銃規制は一向に進まない。銃規制に真っ向から反対するNRAは、日本から見れば、まるで「悪の結社」のようにすら見える。そもそもNRAとは何なのか、考えてみたい。

「殺すのは銃でなくて人だ」がお決まり

NRAのラピエールCEO

NRAのラピエールCEO。トランプ大統領にも何回も面会し、銃規制を阻んできた。

 REUTERS/Lucas Jackson

NRAとは簡単に言えば、銃を持つ権利を擁護するための社会運動を行うための利益団体(interest group)。設立は南北戦争直後の1871年と古い。

利益団体とは特定の目的を実現するために活動する団体で、政府に強い圧力をかけ、政策を捻じ曲げてしまうような団体を想像するだろう。

衝撃的な銃犯罪のたびに、規制強化を避けるためNRAの幹部がメディアに登場し、一般人による銃の所持を規制しないように働きかける。「殺すのは銃でなくて人だ」というのはNRAのいつもの決め台詞だ。

NRAのラピエールCEOは「銃乱射事件から子どもたちを守るため、全ての学校に武装した警官を配置すべき」と説く。ラピエール氏はトランプ政権が発足後、トランプ大統領に何度か面会し、進みそうだった銃規制が骨抜きになったという経緯がある。

NRAの活動がなければアメリカの銃事情は大きく違っていたかもしれないことを考えると、NRAは議会やホワイトハウスに圧力をかける「悪の結社」というイメージそのものかもしれない。

「非営利団体(NPO)」としてのNRA

銃

これだけ銃乱射事件が起きても、アメリカの銃規制はなかなか進まない。

shutterstock

NRAは税法上、非営利団体(NPO)であり、基本的には個人や各種団体、企業からの献金によって運営されている。シエラクラブ、グリーンピース、環境防衛基金などの環境保護団体や、NOW(全米女性組織)などの女性運動の団体、アフリカ系の支援団体NAACP(全米黒人地位向上協会)や、消費者保護団体である「パブリック・シティズン」などの消費者団体と同じだ。世論を代弁して、その世論に支持されることで活動を大きくし、社会や政府に影響を与えていくのが利益団体である。

アメリカでは伝統的に利益団体の活動が積極的であることで知られている。これにはいくつかの理由がある。

まずアメリカが民主主義であるということ。政治は一人ではできず、政府や社会に訴えるには仲間が必要だ。民主主義的な政治参加の手段が利益団体への参加である。そのため利益団体に対する税制的な優遇措置がかなり徹底されている。こうした団体への寄付は税控除の対象となるため、一般国民や企業、財団からの寄付がアメリカの利益団体を大きくしてきたとい ってもいい。

寄付の返礼品にピストルやライフル

NRA のHP

NRAに寄付するとナイフとボストンバックがもらえる。

出典:NRAのHPより

税金の一部を政府に収める代わりに、自分が会員である団体に寄付することがアメリカでは珍しくない。地方税を他の自治体に寄付する日本の「ふるさと納税」のような制度だと思うとわかりやすいかもしれない。

「返礼品」の代わりに自分が望む政策を応援することになる。

加えて、団体から「返礼品」を提供する団体もある。NRAがまさにそうだ。

NRAの場合、同じく非営利団体でも一般から広く寄付を集めるための「Friends of NRA」という団体を作っている。この団体の場合、団体の雑誌やナイフに加え、日本の感覚では驚いてしまうが、寄付額に応じて本物のライフルやピストルの「返礼品」が贈られる。

例えば750ドルを寄付すれば、市価で200ドル前後とみられるピストルが贈られる仕組みだ (ピストルが比較的低価格で売買されている事実にも驚く )。

Friends of NRAは税法上広く献金を集めることができる代わりに、党派的な活動や政治運動はできない。逆にNRA本体は政治運動は可能だが、献金を受けることにはさまざまな制限がある。別団体を作ってそこで資金を集め、この団体からNRAに寄付させるという仕組みだ。

2つのタイプの団体を使い分けて政治活動することは、アメリカの利益団体では常套手段である(最近では一部のシンクタンクも2つの団体を使い分けて、政治活動を行なっている)。

会員数500万人という「数の力」

銃の展示会

2018年に開催されたNRA147周年を記念した銃の展示会。

Harry Thomas Flower/shutterstock

NRAの公式ページにははっきりした記載はないが、2013年のラピエール氏の講演によると会員は500万人に達している という。アメリカの総人口を3億2000万人とすると、人口の1.5%。この数字をどうみるかは意見が分かれるところだ。

例えば上述の女性運動のNOWが50万人 、環境保護団体のシエラクラブグリーンピース がそれぞれ350万人 、環境防衛基金が250万人 と、団体発表の数字だけを比べても突出して大きい(環境保護団体はほかにもあり、総計すれば、NRAよりも圧倒的に大きくはなる。ただ、一人で複数の環境保護団体に参加するケースも多い)。

銃を持つ権利に目的を絞った団体としてはかなりの数だ。それだけの数の銃愛好家や銃販売業者らが加入しているとすると、参加者の「数の力」は強力だ。

支持者の数は寄付額に跳ね返るだけでない。選挙では票に直結する。特に中西部や南部など、広い土地の中、自衛のために日常生活に銃が欠かせない地域の議員ほど、本格的な銃規制には否定的だ。中西部、南部は共和党の地盤でもあるため、NRAの会員となっている共和党議員も少なくない。また、一部ではあるが、民主党の議員もNRAに加盟している。

まさに参加者の数の力が、NRAの政治上の力でもある。「銃規制反対の世論の代弁者」として、NRAは社会や政府に影響を与えている。

サンフランシスコではテロ組織に認定

サンフランシスコの女性運動

サンフランシスコでは全米ライフル協会を国内テロ組織として認定した。

Sheila Fitzgerald/shutterstock

一方で銃規制に積極的なリベラル派が強い地域ではNRAへの反発が目立っている。サンフランシスコ市は9月上旬、全米ライフル協会を国内テロ組織として認定した。議員らへの献金額にも変化が現れている。

例えば、銃規制派団体が活発に献金を呼びかけた2018年の中間選挙に向けた2年間(2017-2018年)のNRAの献金総額は84万ドルだったが、銃規制派団体の筆頭の「エブリタウン・フォー・ガン・セイフティ」はこれを大きく凌駕する385万ドルを献金した 。

この団体や「ギフォーズPAC」や「ブレイディPAC」らは、通販や見本市などでの銃販売規制や、かつて全米規模で導入していた犯罪の前歴のチェックなどの必要性を主張している(「ギフォーズPAC」と「ブレイディPAC」はいずれも命はとりとめたものの、銃で撃たれ、生死をさまよった議員や政府要人の名前を冠した団体だ)。

それでも難しい銃規制

並ぶ銃

NRAは銃規制をより一層複雑化させている。

 Cascadia_J/shutterstock

それでも、現代のアメリカでは抜本的な銃規制はなかなか難しい。日本の25倍の国土の中、南部、中西部など、広大な土地の中でどうしても自衛のために銃が不可欠な地域が少なくない。また、すでに一般に出回っている銃の数は、アメリカの総人口よりもかなり多いとみられている中、規制そのものがかなり困難に近い。規制をするとギャングらが、法の網をかいくぐって銃を独占するような事態も起こるかもしれない。

そもそもアメリカの場合、イギリスの圧政から銃を持って独立した経緯があり、一種の革命権として(つまり、「人権」として)「銃を持つ権利」が存在するという難しさもある。「刀狩り」的な抜本的な摘発をするには、「銃を持つ権利」を認める「憲法修正第2条」そのものを変える必要がある。議会上下両院での修正手続きの後、全50州のうちの3分の2が同意しないといけないという大規模な憲法修正の手続きは、銃規制反対の声も根強い中、不可能に近い。

一連の銃規制の難しさはNRAが長年、広く伝え続けてきたことだ。つまり、抜本的な銃規制の難しさを顕在化させて、さらに規制を難しくさせてきたのがNRAの力でもある。

その意味でも、NRAの影響力はやはり無視できない。


前嶋和弘(まえしま かずひろ):上智大学総合グローバル学部教授(アメリカ現代政治外交)。上智大学外国語学部卒業後、ジョージタウン大学大学院政治修士過程、メリーランド大学大学院政治学博士課程修了。主要著作は『アメリカ政治とメディア』『オバマ後のアメリカ政治:2012年大統領選挙と分断された政治の行方』『現代アメリカ政治とメディア』など。

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