先週、発表会場で撮影したiPhone 11。
撮影:西田宗千佳
同じく、悩みのタネ(?)の上位モデルiPhone 11 Pro。
撮影:西田宗千佳
今年のiPhoneは買いなのか? 毎年聞かれる疑問だが、今回については「かなりオススメ」とまず答えておきたい。
日常での使い勝手をあげるアップデートが行われたために、購入した多くの人が利点を感じられるだろうこと、2018年よりも若干だが価格が下がったこと、そして、iPhone XRの後継機といえる「iPhone 11」のコストパフォーマンスがぐっと上がったことが理由だ。
iPhone 11とiPhone 11 Pro Maxの実機を使い、価値の本質がどこにあるのか? 11とProを選ぶポイントはどこなのかを考えてみた。
迫力の「超広角」撮影。Proとの違いは「望遠」の有無
iPhone 11の最大の魅力は「写真」だ。
論より証拠。まずは次の3つの写真をごらんいただきたい。これは、iPhone 11 Pro Maxの3つのカメラをつかって撮影した写真だ。
iPhone 11 Pro Maxの3つのカメラで比較。画角の違いで迫力はこれだけ変わる。
撮影:西田宗千佳
iPhone XSまでは、35mm換算で26mmと52mmのカメラが使われており、2番目と3番目だけが撮影できた。しかし、最新世代の「iPhone 11 Pro Max」では「13mm」の超広角カメラが追加されたので、こんな風にバンと開けた風景を撮影することができるようになった。
サンプルをもうひとつ。
以下は、横浜・桜木町の夕方の風景。iPhone 11で撮影したが、13mmが追加されたことで広がりのある風景を撮れるようになった。
iPhone 11で最も広角な13mmで撮影した写真。
撮影:西田宗千佳
iPhone 11の26mmで撮影した写真。
撮影:西田宗千佳
こちらはより広がり感がわかるんじゃないだろうか。
iPhone 11は13mmと26mm、iPhone 11 Pro(およびPro Max)は13mm・26mm・52mmのカメラを搭載している。13mmと26mmは、双方の機種とも同じカメラモジュールを採用しているので、「使い勝手も同じ」と考えていい。
iPhone 11 Pro Maxは、背面に3つのレンズをシリーズで初めて搭載した「3眼」仕様。
撮影:西田宗千佳
iPhone 11は2眼。どちらもガラスに一体成形された四角い台座のような部分に配置されている。
撮影:西田宗千佳
応用範囲の広い「超広角」、カメラ知識不要の簡単さがポイント
発表会で使われたカメラ機能の特徴をまとめたスライド。
出典:アップル
カメラといえばズーム性能、という印象が強い人も多いかもしれない。だが日常生活の中では、実際には「広角性能」が求められる場面が多い。
記念写真を撮ろうとして入りきれずに後ろに下がっていくとか、料理の写真を撮ろうとして入りきれずにのけぞって写真を撮るとか、そういう経験は誰にでもあるはずだ。これらは撮影できる画角が狭いから起きていること。広角レンズがあれば解決できる。
今回のiPhone 11では、どちらの機種を買っても、そういうトラブルを回避できるのだ。
最近のスマートフォンでは、「自撮り」ニーズの拡大もあり、広角性能が重視される傾向にある。iPhoneが「超広角」を打ち出すのは、ある意味で「後追い」といえる。他社が16mm前後であるのに対し、13mmとさらに「超広角」に攻めてきた。
ただ、そこが大きな差別化点か、といわれるとそうではない、と思う。
発表会後のハンズオンは世界中からやってきたプレス関係者で賑わった。
撮影:西田宗千佳
では差別化点はなにか? 「使い勝手」だ。
カメラの知識がある人にはどうということもないことだが、ほとんどの人にとって、「画角に応じてカメラを切り換える」といっても、その作業はピンと来ないものだ。ズームは「拡大」だとわかるが、「超広角」となると、まだ体験したことがない人の方が多いのではないだろうか。
一般的なカメラに「超広角」がないのは、レンズが暗くなり、周辺歪みが大きくなるからだ。一眼レフカメラ用のレンズにはあるが、それらも使い方を知っていないと撮影しづらいものだ。
スマホのカメラは、撮影後に内部で明るさや歪みを補正し、最終的な写真にする。だから、超広角が組み込まれても比較的扱いやすい。とはいえ、一般的にはスマホでも「超広角」を使う場合にはいろいろと気を遣う部分もある。
たとえば、「歪み補正」にモード切り替えが存在していたり、超広角と他のモードでは撮影できる写真の解像度設定が変わったりする機種すらある。
iPhone 11の良さは、そういう難しいことが一切ないことだ。
表面上は「0.5x(13mm)」「1x(26mm)」「2x(52mm、iPhone 11 Proのみ)」という表記だけで、切り替えもワンタッチ。画像解像度も変わらないし、歪みが増える感じもない。色の一貫性も保たれている。動画撮影中に切り換えることもできるので、ちょっとしたエフェクトのように扱うことだってできる。
iPhone11 Proでズーム倍率を動的に切り替えて撮影。52mm・13mm・26mmと切り替えながら撮影。単に切り換えただけだが、なかなか効果的だ。
モデル協力:Caoさん
iPhoneのカメラは、他社のものに比べ設定が少ない。それが不満、という声もあるが、その場合にはサードパーティー製カメラアプリを使えばいい。「誰でも新機能の美点をすぐに享受できる」のがiPhoneの利点であり、今回もその方針に変わりはない。
これらのこだわりはとてもマニアックなもので、スペック表だけを見てもわからない。
なぜアップルがここにこだわるのか? おそらくは「これまでiPhoneを使っていた人が、まったく戸惑うことなく使えるように」ということなんだろう。
誰でも使える、特にiPhoneユーザーに違和感なく新機能を使ってもらえることが、顧客満足度となって帰って来る……アップルはそんな風に考えているのではないか。
アップルらしい、見えない部分で駆使される「広角カメラ」の存在
出典:アップル
「2つ以上」になったカメラのうまい活かし方として感心した機能がある。
以下の画像は、iPhone 11 Pro Maxで撮影中のスクリーンショットだ。中央の「フレームの外」にも、ぼんやりと映像が映っていることがわかるだろうか? 実際に写真や動画に映るのはもちろんフレーム内なのだが、その
外も見えるので、「どのくらい動かせばいいアングルで撮影できるのか」がよくわかる。
iPhone 11のカメラアプリ画面。撮影する「フレームの外」まで映像が透けて見えることに注目。実はこれ、今撮影に使っていない「広角側」のカメラで撮影した映像が合成されたものだ。
撮影:西田宗千佳
なぜこのようなことができるのか? センサーが撮影した映像をわざわざ小さくし、フレームに映し出しているわけではない。「フレームの外」は、撮影に使っていない「広角側」のカメラの映像を合成したものだ。もちろん、13mmのカメラがないXSまでではできなかったことだ。
「ちゃんとフレーム外の被写体まで認識する」のは、写真撮影に慣れた人なら当たり前にやっていることだ。いままではそんな機能がなかったので、それを脳内でやるのが当たり前だった。だが、撮影に不慣れな人には、フレームの外を意識するのは難しいもの。だから、テクノロジーを使ってうまくカバーすることで、撮影を楽にしているのだ。
こういう工夫を加えてくるところが非常にアップルらしい。
使いやすさ“全自動”。夜を明るく撮る「ナイトモード」
もうひとつ、カメラの機能として重要な進化が「ナイトモード」だ。
こちらもiPhone 11は「後追い」だ。2018年にグーグルのスマートフォン「Pixel 3」が導入し、「夜がまるで昼のように明るく撮れる」ことから、驚きをもって迎えられたものだ。iPhone 11ではキャッチアップしてきたわけだが、画質や操作性の面で洗練を加えてきている。
どのくらい違うのか、一斉に比較してみた。
撮影:西田宗千佳
撮影:西田宗千佳
撮影:西田宗千佳
一番左がiPhone 11のナイトモード。はっきり明るく写っているが、ディテールの再現性や「夜らしさ」はPixel 3 XLより上だ。
別の近景を撮った写真では、iPhone 11とPixel 3 XLの違いがよくわかる。
撮影:西田宗千佳
単純な明るさではPixel 3 XLの方が上だが、照明を炊いたような明るさになってしまっている。iPhone 11のナイトモードは「夜に撮った」自然さが残っている。
ナイトモードは、技術的には一定時間の間に撮影した複数の写真を内部で合成し、より明るい写真を作り出すものだ。手法そのものはiPhone 11もPixel 3も変わらない。iPhone 11の方が自然な写りだと筆者は判断するが、この辺は好みの問題もあるかもしれない。
iPhone 11とPixel3のなにより大きな違いは「使い勝手がまったく異なる」ということだ。
Pixel 3 XLのナイトモードは「特別なモード」なので、撮影時にモード切り替えをしなくてはならない。
一方iPhone 11の方は、周囲の明るさに合わせて自動的にナイトモードになる。なにもわからなくても、シャッターを切りさえすれば明るい写真が撮れる。
実はナイトモードでは、手動で「カメラが自動で撮影する時間」を伸ばせる。暗いところを撮る時に撮影時間を延ばす、というと「露光時間を延ばす」と思いがちだが、ナイトモードはそうではない。違う露光時間で撮影した写真を使う形だ。そのため、撮影時間を無闇に長くしても意味はない。
要は、こだわりがないかぎり「自動」でいい、ということだ。
アップル公式サイトのナイトモードの説明文。
出典:アップル
テストしてみたところ、街中の屋外や間接照明の場所なら1秒から2秒、相当暗いところでも5秒以上の表示になることはほとんどなかった。
手動設定ではもっと長い撮影時間を設定できるが、この長さも、周囲の明るさと「iPhoneのブレ方」で自動的に決まる。
アップルによると、設定可能な最長時間は「28秒」だそうだが、人間がじっと耐えられるのはせいぜい、ほんの数秒。だから「自動」では短い時間しか出てこないようになっている、という。
自宅で夜の室内を、一切照明をつけずに撮影しようとした時ですら、「オート3秒、設定可能時間10秒」にとどまった。周囲にほとんど明かりのない場所で三脚を使った時なら28秒といった表示も出てくるようだが、テスト中は確認できなかった。
なお、暗い場所で三脚を立て、撮影時間が十数秒を超えるような長い時間に設定すれば、「夜の星」でも撮れるという。今回は時間の都合でそこまでのテストはできなかったが、いつか試してみたい。ただそういう長い設定では、手持ちでの撮影は不可能だ。
なお、ナイトモードが効くのは26mm・52mmの時だけ。13mmのカメラはレンズが暗いことなどもあり、ナイトモードが使えない。これが「13mmのカメラのほぼ唯一の制約」といっていい。
参考までに、iPhone11のナイトモードが使えない「13mm」で撮影。映像そのものもかなり暗くなる。
撮影:西田宗千佳
実はガラス強度に自信あり? Proと処理性能で並んだ「11」はお買い得
iPhone11のPVには、猫があやまって机から本体を落としてしまう(でも大丈夫)という演出すらある。「ガラスの強さに自信がある」というあらわれなのだろう。
出典:アップル
iPhone 11シリーズの大きな変化は、ここまで説明してきたように「カメラ」に集中している。プロセッサーも性能向上しているし、ディスプレイも質が上がっている。だから「全体的に良くなっている」のだが、特にわかりやすいのは、やはりカメラである。
カメラだけでは……と思うかもしれない。
だが、前出のように「超広角」の価値は大きい。「ちょっと明るくなった」「解像度が増した」といった変化とは違う、利用シーンを変える大きな変化なので、単純な画質向上よりも大きな価値を感じられるだろう。
また、アップルは「ガラスの強度が上がった」とも主張している。iPhoneの両面をカバーするガラスはコーニング社とのコラボレーションによって製造されており、毎年強度を上げている。だが、iPhone Xで有機ELにディスプレイが変わってから、どうもちょっと傷が付きやすくなったのではないか……と思っている。液晶と有機ELでは、まったく同じガラスを使うわけではないからだ。
「ガラスが強い」を複数回アピールするPV。
どのくらい強度アップしたのか、アップルは数値を公開していない。今回の機材は借り物なので、ガリガリとこすりつけてテストをするわけにもいかなかった。「強度アップはしているがどのくらいかわからない」というのが答えになるだろう。
一方で、アップルはiPhone 11のプロモーションビデオの中で、床に落ちたりカバンの中でこすれ合ったりする姿をアピールしている。わざわざそんなシーンを入れるということは、相当に自信がある、ということなのではないだろうか。
このビデオを信じて「壊れにくくなった」と判断して買うのもいいだろう。
買うべきなのは「iPhone 11」なのか「11 Pro」なのか
撮影:西田宗千佳
撮影:西田宗千佳
問題は、「11なのかProなのか」だ。
この点は、先週掲載した現地レポートでの説明からまったく印象は変わっていない。
やはり、Proは「こだわりのある人向けの付加価値」がある端末だ。ディスプレイの画質やバッテリー駆動時間にこだわる人にはProを勧めるが、それ以外の大多数の人にはiPhone 11を勧める。
いくつかのベンチマークソフトで確認してみたが、iPhone 11と11 Pro Maxの間での動作速度差は、誤差レベルでしかなかった。
また、スマートフォンに詳しい人がこだわる「メインメモリーの搭載量」も、ともに4GBと同じだ。
iPhone XSは4GB、iPhone XRは3GBだったので、XRの後継であるiPhone 11はスペックアップした、といえる。
それでいて価格は下がっているのだから、iPhone 11は、今回とてもお買い得な製品になっていると断言できる。
(文、写真・西田宗千佳)