AKB48の一期生時代から、独自の存在感を放っていたこじはる。今は、実業家の顔を持つ。
撮影:Kanako Okada
こじはること小嶋陽菜。元国民的アイドルグループAKB48の一期生。2005年12月8日から在籍し、29歳となった2017年4月に卒業した。知名度の割に選抜総選挙の最高位は6位と「そこそこ」ながらも、在籍中から資生堂のアイコンや、有名女性誌のカバーモデルを務めるなど、グループでも別格の存在感があった。
グループ卒業後は、アパレルブランド「Her lip to」を立ち上げ、実業家としての一面も見せている。
「こじはるは天才」「こじはるなら許される」グループ在籍中から、独自の立ち位置を築いてきた彼女。ブランド立ち上げにおいても、いわゆる芸能人ビジネスとは全く違う方法で人気を獲得している。
そもそもなぜブランドを立ち上げたのか、そしてブランド成長の裏側は——。
伊勢丹ブース新記録を打ち出す人気ブランドに
AKB卒業後は、自分がメディアになり、発信する側になるビジネスをしたかった。インタビューはHer lip toが利用しているEC運営のBASEオフィスで行われた。
「グループ在籍中、たくさんのメディアに出させてもらいました。卒業後はその経験を活かし 私がメディアとなり、発信する側に周りたいと思っていたんです。作りたかったのはファンに向けてライフスタイルや好きなものを発信するメディア。その中で洋服は、私を表現するために大事なピースです。アパレルブランドを作りたいと思っていたのではなく、発信の一つとして始めたのが「Her lip to」なんです」
今や完売商品も含めると65アイテムがショップに並ぶ。
2018年6月20日にわずか8アイテム からスタートした「Her lip to」。ここまでブランドが大きく展開するとは正直思ってなかったと、小嶋は語る。ブランド立ち上げから1年と少し経ち、「Her lip to」は熱い支持を集めるブランドに成長した。
全てのモデルを本人が務め、ブランドの世界づくりにこだわりを見せる。
出典:Her lip toのホームページ
人気の新作は、販売開始すぐに1万以上のアクセスが殺到し、そもそも買えるかわからない状況。伊勢丹新宿店で開設したポップアップストアの整理券は、伊勢丹同ブース史上では最大数となった。
芸能人がアパレル事業に乗り出す際は、大手アパレルブランドと組むことがスタンダード。 しかし小嶋は、自身の所属事務所でアパレル事業を始めた。納得いくものだけを作りたかったからだ。
「もともとショッピングが好きでしたし、お仕事で質の良い洋服に触れてきたから、自分じゃ着ないなと思うクオリティの商品は売り出したくなかった。私だから作れるものを模索してこの形になりました。現在はECをメインに展開しています。」
めちゃくちゃ大変、でもつらいと感じたことはない
妥協なく挑戦。「自分の手で運営を選択してよかった」。
着実な人気を築く「Her lip to」だが、働くメンバーは驚くほど少ない。最近やっと専業メンバー を採用したが、マネージャーと業務スタッフと小嶋自身でそのほとんどを切り盛りしてきた。
小嶋も毎日ショップの管理画面をチェック。商品構想から洋服の素材選定など、ほぼ全行程を自ら行っている。
「売り上げの推移やいただくコメントも全てチェックしています。良いものは感覚的にわかるので、例えば生地選びのときなども、たくさんある生地の中から、つい高いものを選んでしまうんですよね(笑) 。それによって、価格とのバランスに悩むこともあります。でも妥協なく制約なしに挑戦できています。自分の手で運営することを選択してよかったですね」
商品価格は、ワンピースで2万円超えと、20、30代向けのアパレルECブランドとしては高めだ。ブランド開始当初は高すぎるという声もあったが、質へのこだわりが顧客に伝わり、今では「痩せて見える」「着ていると褒められる」と評判を呼んでいる。
「喜んでもらえるのが嬉しいから、これまでつらいと感じた瞬間はありません。でもアパレルのノウハウはなかったからめちゃくちゃ大変。アパレルECがこんなに利益率が低いことも知 らなかった。売れた手応えがあったのに『嘘でしょ?』って(笑) 」
遊ぶように働くシームレスな生き方がしたい
私に信用がなければ、事務所でブランド運営はできなかった。13年の蓄積に感謝。
「Her lip to」は、アパレルのプロではないメンバーで構成されたチームだ。しかもそれぞれ が別の業務を抱えている。ともすればトラブルが多発して空中分解することもありえただろう。手探りで開始した事業だが、販売開始後1分で即完売するアイテムも登場するなど着実に成長している。
「Her lip to」は、チームメンバーだけでなく、ファッションやECに詳しい友人など、周囲 の人を巻き込み成長している。「巻き込み力」の秘訣は小嶋のマインドにある。
「手を貸してくれるのは仲の良い人たちばかりで、仕事と遊びの境目がないかも。アイドル時代は本当に忙しくて寝る暇もないくらい働いてきたんです。だから卒業後のチャレンジでは 遊ぶように働くシームレスな生き方がしたいと思っていた。そのためにも、一緒に仕事をし たら面白いと思ってもらえる人であるように努力してきました。」
ふんわりしたイメージを持つ人が多い小嶋だが、その言葉は力強く、確固たる意志を感じさ せる。
「私に信用がなければ、事務所でブランド運営はできなかったでしょう。環境に感謝していますが、それはこれまで13年間の結果なのかなって」
多忙なアイドル時代は、つらい経験や悔しい思いにも耐えてきた。
「私全部自責で考えるんです。嫌なことを言われたら、言われやすい自分を変えようって思 うし、マウンティングされないようにもっと上にいこうって思う。ネットを見ていると、人のせいにしたり、人に期待をしすぎている人が多いと感じます。でも自責で考える方が絶対ラクなんですよ。そうした方が、改善策も自分で見付けられますし」
クソリプなんか気にしない
クソリプはすごいが気にしない。アイドル時代に、人からの見え方や、すぐ誰かを叩く人の行動を散々学んできたから。
基本ECのみで展開する「Her lip to」は、SNSを巧みに利用し人気を獲得している。小嶋は Twitter311万人、Instagram246万人のフォロワーを有する、日本屈指のインフルエンサーでもある。サイトへの流入はインスタとTwitter半々という。
多くのフォロワーを抱える彼女の元には心無い誹謗中傷のコメントも集まる。しかし小嶋は 決して炎上しない。その巧みな立ち回りはアイドル時代から称賛されてきた。
「クソリプ(※)がすごくて(笑)でも気にはしないです。
どう立ち回るべきかは自然と身に付きましたね。どう見えるかを客観視してきたことは、『可愛く思われたい』『モテたい』という顧客ニーズに応えることに役立っていると思います」
※クソみたいなリプライ。ネットスラング。
アイドル時代の経験を活かしながら、そして時代のニーズを敏感に察知して成長を続ける「Her lip to」。小嶋は今後の展開にも意欲を見せる。
「中国に行く機会が多いのですが、美的感覚が日本と違うから面白くて、私にとっては行くたびに刺激になる。今後は越境ECにも挑戦する予定です。中国の女の子のメイクも好きなので、コスメなどアパレル以外の商品も展開してみたいと思っています」
固定観念にとらわれるのは好きじゃない。
「芸能人だから、元アイドルだからこうあるべき じゃなくて、自分がやる意味があることを選びたいんです」
※敬称略
(文・井澤梓、写真・Kanako Okada)
小嶋陽菜:1988年4月19日生まれ。埼玉県出身。2005年にAKB48の第1期メンバーとして活動を開始。2017年4月19日AKB48を卒業。 雑誌「sweet」「MAQUIA」「美人百花」などでモデルとして活動する一方、2018年にアパレルブランド「Her lip to」を立ち上げ、プロデューサーとしても積極的に活動している。2019年からYouTubeで配信を開始した「VLOG」は、紹介したコスメが手に入らなくなるなど反響を呼んでいる。