アメリカ1家庭の負担増は約10万円。トランプ再選に向けた追加関税で市民が犠牲

アメリカのストリート

トランプ氏の強い姿勢は、アメリカの経済と市民の「犠牲」を伴うだろう。米中貿易摩擦は、住宅市場にも影響を及ぼすと見られている。

撮影:津山恵子

米中貿易摩擦が、とうとうアメリカの社会や経済に暗い影を落とし始めた。景気の下振れリスクが上昇し、農家や企業は悲鳴を上げ始めている。

トランプ大統領が中国に対して強い姿勢を続けるのは、2020年に控えた大統領選挙で再選するためだが、そのためにアメリカの経済が「犠牲」になるとの見方が現実のものになりつつあるのだ。

「小売価格がいきなり大幅に上がることはないが、例えば9月に5%、10月に10%という具合に、段階的な値上げは見込まれる」

というのは、世界最大の政治リスク専門コンサルティング会社であるユーラシア・グループのジョシュア・ウォーカー・グローバル戦略事業部長。

1家庭の負担600ドルから1000ドルに

これまで輸入品の関税引き上げ分は、企業努力で小売価格に反映されずにきた。

しかし9月1日に発動された中国に対するの輸入品に対する追加関税にはゲーム機やテレビ、衣料品などの消費財が含まれる。これまでも引き上げ分を合わせると、一部輸入品に対する追加関税率は25%を上回り、もはや企業努力だけではどうにもならないレベルだ。

米中貿易摩擦による最悪のシナリオの基準が25%の追加関税とされてきたが、一部ではそのラインを超えたわけだ。

米メディアによると、ウォルマート・ストアーズなど量販店は、追加関税の対象となった人気商品の値上げをするのではなく、対象外の商品を値上げして収益への影響を避けるなど、苦肉の策で対応している。

CNBCによると、アウトドア用品のコロンビアスポーツウェアは、中国製のフリースジャケットが従来100ドルだったとすると、今回の措置で157ドルになると試算した。値上げに踏み切ってはいないが、議員らに対し、中国との交渉を再開し、追加関税の措置をやめるように要請している。

建設資材なども今回の追加関税の対象。価格が上がれば、今後の新築住宅や改築などの価格に影響が出る。住宅価格が上がれば、購入を控える消費者が出ると分析されている。

米金融大手JPモルガンチェースは8月末、対中関税による家庭への負担増は平均600ドルだったのが、1000ドルに上るという見通しを発表した。さらにトランプ大統領が自分の「功績」の一つとしている税制改革の恩恵の大部分は、対中関税の影響で失われるとしている。

8割の企業が売り上げに打撃

北京にあるアップルストア。

中国を重要な市場のうちの1つとしていたアップル。

REUTERS/Jason Lee

中国と関係がある米企業にも打撃が広がっている。

中国に投資する約200社を会員とする米中ビジネス協会(USCBC)が2019年6月に行なった調査によると、調査に応じた100企業のうち約37%が、中国企業が米企業との取引に対し懸念を強めていることで売り上げなどに打撃を受けている、と回答した。これは2018年調査の約7倍の水準という。

また回答した企業の81%が、米中の緊張関係に悪影響を受けたと回答し、これは2018年の73%を上回った。

追加関税の影響は、利益も圧迫している。回答した企業の約13%は中国以外に拠点を移した、もしくは移す計画だと回答。その最大の理由として貿易摩擦によるコスト増大を挙げている。

調査の対象は中国で10年以上事業展開する米企業だが、米中の緊張関係が増す中で、痛みを感じている企業が少なくないことが浮き彫りになった。

トランプ大統領

通商問題はトランプ氏にとって再選に向けた「道具」。来年の大統領選までトランプ氏による揺さぶりは続くだろう。

REUTERS/Al Drago

トランプ大統領は8月23日のツイートで、米企業が中国の拠点をアメリカ国内か、他のところに移転させることを主張している。

「正直なところ、我々は中国を必要としない。中国なしなら、はるかに繁栄できるだろう」

「我が偉大な米企業は、中国の代替を探すことをすぐに始めるべきだ。“国内”に米企業を取り戻し、アメリカ製品をUSAで生産することも含めてだ」

前出のウォーカー氏は、

「以前から、中国での生産がコスト高になる中、中国以外の国・地域への移転は起きていたが、米中貿易摩擦が、その動きに加速をかける。公表はせずに移転している企業もある」

と指摘する。

再選のためにアメリカ国民が“犠牲”に

あらびきのコーン

農家用のストアで、セールになっていたトウモロコシの飼料。

撮影:津山恵子

また米主要農業団体はこの夏、米国産農産物の輸入を停止するとの中国の決定について、トランプ氏の重要な支持層である米農家への「ボディーブロー」になると指摘した。

これを受け、トランプ氏は9月6日朝のツイートで農家への支援継続を保証し、この2年間に承認した計280億ドル(約2兆9800億円)の農業支援策をさらに拡大することを示唆した。

中国企業が買い付けを再開するとの報道もあるが、トウモロコシや大豆などが長期に安定的に輸入されるかどうかは、見通しがたってはいない。

ただ、米中貿易摩擦による悪影響は、トランプ支持者にはあまり響いていない。支持率は7、8月を通しても40%超と変わらない。

そもそもトランプ氏は、中国との貿易不均衡でアメリカ国民が損害を受けていると主張し、支持者やワシントン政界に対し、貿易戦争を正当化してきた。トランプ支持者にとっては、トランプ氏は中国問題に的確に対処し「アメリカ・ファースト」を守護している存在だ。支持者に浸透したこうした考え方を追い風に、トランプ氏は2020年大統領選挙に再選する賭けに出ている。

米中貿易交渉は継続する見通しだが、トランプ氏が、通商問題を再選に向けた「道具」とみているのは、間違いない。その「犠牲」は、アメリカの経済と市民ということにもなりかねない。

(文・津山恵子)

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