6月19、20日、南シナ海で行われた日米共同軍事演習の様子。「いずも」と「ロナルド・レーガン」が並走する。
出典:海上自衛隊ホームページ
近く「空母化」される護衛艦「いずも」が、ひと回り大きいアメリカの原子力空母「ロナルド・レーガン」と青い海をゆっくり並走する。「いずも」の艦上に、「レーガン」搭載のヘリが轟音を上げながら着艦した。2019年6月19、20両日、南シナ海で行われた日米共同軍事演習の一コマである。
「いずも」型護衛艦の南シナ海・インド洋への長期航海と共同軍事演習は、2017年以来3年連続。中国に対抗し、日米「共通の外交戦略」になった「インド太平洋(戦略)」に基づく航海と演習は安保法制と連動し、「日米一体化」を強めている。
対中姿勢で異なる5つの「戦略」
日中関係改善を模索する日本。かたや対中圧力を強めるアメリカ。
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アメリカ国防総省は6月1日、トランプ政権の新アジア政策「インド太平洋戦略報告」を発表した。安倍首相も2016年、包括的外交政策「自由で開かれたインド太平洋戦略」を提唱している。
このほかインドとオーストラリア、東南アジア諸国連合(ASEAN)もそれぞれ、「インド太平洋戦略(構想)」を発表している。
これらは共通点も多いが、決定的に異なる点がある。それは対中国姿勢だ。
アメリカの戦略は「(地域における)米軍の軍事的優勢は失われている」との現状認識に立ち、「対中同盟」の再構築を狙う。そのため米中衝突に備えて、日米同盟をはじめ同盟国・友好国との「重層的ネットワーク」形成を提唱した。
一方、インドとASEANの「戦略」は、中国排除には与せず、対中同盟の形成には否定的である。
微妙なのは日本だ。安倍首相は日中関係改善を進める中、2018年秋から「戦略」の二文字を封印し、経済と安保の「政経分離」を図って「中国と敵対する意図はない」と強弁している。
しかしトランプ・安倍両氏は2017年11月の首脳会談で、この2つの戦略を「共同の外交戦略」とうたった。この合意により両国は安全保障面で一体化を進め、相互補完関係を強化する方針を鮮明にしたのである。
日米安保の強化と日中改善の整合性をとるのは難しい。
「自由秩序」と「抑圧秩序」の戦い
米国防総省は、中国を米秩序に挑戦する「修正主義国家」と断じている。
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アメリカ国防総省の戦略はあまり報じられていないから、少し説明したい。
戦略報告は、インド太平洋地域をアメリカの将来にとって「最も重要な地域」と明記。地域における安全保障の対立を「自由な世界秩序を求める」理念と「抑圧的な世界秩序を求める」理念との戦いとし、中国を米秩序に挑戦する「修正主義国家」と断じた。
さらに「中国との衝突」に備え、次の3点を挙げる。
- いかなる戦闘にも対応できるアメリカと同盟国による「合同軍」の編成
- 米中衝突に備え日米同盟をはじめ同盟・友好国との重層的ネットワーク構築
- 中国と対抗する上で台湾の軍事力強化とその役割を重視
興味深いのは、「侵略抑止と安定維持」のためのネットワーク作りだ。地域の同盟・友好国を7グループに分けて「海軍力増強の支援」を挙げる。
米艦防護と地球規模の後方支援
5月に来日したトランプ大統領は、横須賀基地を訪問。安倍首相とともに隊員たちを激励した。
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安倍政権の安保政策と「インド太平洋」との関係を振り返る。
安倍氏は2014年、集団的自衛権の行使を容認する政策に転換、2015年には安保法制を成立させた。2016年に施行された安保法制で、
- 自衛隊による平時の米軍艦船などの防護
- 米軍を地球規模で後方支援
この2点が可能になり、日米同盟の対象地域は「アジア太平洋」から地球規模に拡大された。
同じ2016年、安倍首相はケニアで「自由で開かれたインド太平洋戦略」を発表。経済と安保の二本柱からなり、経済では中国の「一帯一路」への対抗意識をにじませ、安保では「両大陸をつなぐ海を平和な、ルールの支配する海」にするため「日米印豪4カ国」(QUAD)の「戦略的連携を一層強化する」と訴えた。「中国けん制」の狙いは鮮明だろう。
2018年末の「新防衛大綱」は、「いずも」型護衛艦の空母化計画を定め、「いずも」に配備するステルス戦闘機F35Bや地上配備ミサイル防衛システム「イージスアショア」など、米国兵器の大量購入を明記した。
「いずも」は2017年5月、「米艦防護」の任務を初実施した。
防衛省によると、自衛隊が米軍艦などを守る海と空での「武器等防護」活動は、2019年2月末までに16件に上る。安保法制と「インド太平洋」の連動は明らかであろう。
2019年5月28日、訪日したトランプ大統領は、海上自衛隊横須賀基地で空母化が決まっている護衛艦「かが」に初めて乗艦。安倍氏が、両国首脳がそろって両国隊員を激励するのは「史上初めて」と強調したのは記憶に新しい。
かみ合ってきた日米戦略
海上自衛隊のヘリコプター搭載護衛艦「いずも」。
出典:海上自衛隊ホームページ
冒頭に書いた「いずも」の活動は、海上自衛隊の「インド太平洋方面派遣訓練」(2019年4月30日〜7月10日)の一環だった。海自は訓練について「米海軍との相互運用性のさらなる向上を図るとともに、強固な日米同盟を礎に、地域の平和と安定への寄与を図る」と解説する。
日米両戦略が本格的にかみ合ってきたのが「日誌」を読むと分かる。
5月19日、「いずも」はベンガル湾で、日仏豪米の4カ国初の共同訓練を実施。フランス原子力空母「シャルルドゴール」と豪潜水艦など10隻が参加した。続いて5月22日までスマトラ島西方の海空域で、対潜水艦戦や搭載ヘリの相互発着艦の訓練を行い、冒頭の日米合同演習(6月10~12日、19〜20日の2回)へとつながる。
「いずも」には、2018年に発足した日本版海兵隊の「水陸機動団」が初めて乗艦。7月16日、オーストラリア北東部海岸での米海兵隊との共同訓練に初参加。輸送艦から水陸両用車や揚陸艇で上陸し、陸上戦闘を想定した実戦さながらの演習が行われた。
ブルネイ沖では、日本の海上保安庁と異例の合同訓練も行った。尖閣諸島で中国海警局の公船と対峙する巡視船との演習が、中国を想定したものであるのは間違いない。これらの演習は、米戦略の「同盟・友好国を7グループに分け『海軍力増強の支援』」にも当たる。
改善より対立にリアリティ
アメリカが進める対中包囲網に日本はどう対峙していくべきか。
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中国は「いずも」空母化を盛り込んだ防衛大綱に対し、「中国脅威論を助長し関係改善に不利。中国は強い不満と反対を表し、日本に厳正な交渉を提起した」(中国外交部)と批判した。
しかし日本の「インド太平洋」(構想)に対しては、表立った批判は避けている。米中対立の深刻・長期化の中、日中対立はプラスにならないとの思惑もあるだろう。
こうしてみると、首脳の相互訪問に代表される表向きの「日中関係改善」より、水面下で展開される安保対立の方にリアリティを感じる人が多いはずだ。
その日中対立が本格化しかねない「物語」を紹介する。
岩田清文・元海上自衛隊幕僚長は2017年9月、ワシントンでのシンポジウムで「アメリカが南シナ海や東シナ海で中国と軍事衝突した場合、米軍が米領グアムまで一時移動し、沖縄から台湾、フィリピンを結ぶ軍事戦略上『第1列島線』の防衛を、同盟国の日本などに委ねる案が検討されている」と明らかにした(2017年9月16日付共同通信)。
同氏はこの中で「米軍が一時的に第1列島線から下がることになれば、日本は沖縄から台湾に続く南西諸島防衛を強化する必要がある」と述べたとされる。かみ砕いて言えば、米中有事の際は、日台連携して中国軍に対峙する恐れがあるという意味だ。避けたいシナリオだ。
日米安保の強化と日中改善 —— この相反するベクトルの整合性をとるのは難しい。
岡田充:共同通信客員論説委員、桜美林大非常勤講師。共同通信時代、香港、モスクワ、台北各支局長などを歴任。「21世紀中国総研」で「海峡両岸論」を連載中。