翌日配送支える超過酷労働。アマゾン物流センターに再潜入取材したジャーナリストに聞く

アマゾンのボルチモアの物流センター

アマゾンのボルチモアの物流センター。アメリカでもアマゾンで働く人の賃金などが問題になった。

REUTERS/Clodagh Kilcoyne

今やAmazon(アマゾン)は多くの人にとって欠かせない便利なサービス。だが、「翌日配送」など“便利すぎる”サービスの裏をどんな労働環境が支えているのか想像する人は少ない。

世界各国でその過酷な労働環境の問題だけでなく、サービスを展開する国での「税逃れ」なども批判の対象になっている。

アマゾンを批判する声が世界的に高まる中、日本ではなぜか誰も正面から批判しようとしない。15年越しで2回目潜入取材を行い、『潜入ルポamazon帝国』を著したジャーナリスト、横田増生さんに聞いた。

翌日配送を支える「非人間的」な労働

プラハの近くのアマゾン物流センター

アマゾンの生命線とも言える物流センター。その完全自動化は可能だろうか。

REUTERS/David W Cerny

BI:横田さんがAmazonの倉庫に潜入取材をしたのは今回が2度目ですね。1回目は15年前に『潜入ルポ アマゾン・ドット・コムの光と影』を執筆されたとき。今回は2017年のクリスマスセール前の繁忙期に小田原の物流センターに潜入されたんですよね。15年前と比べて、物流センター(アマゾンではフルフィラメントと呼ぶ)での、働く環境はどう変わっていましたか?

横田:体力的には今回もつらかったです。注文された商品を広大な倉庫を歩き回ってピッキングする仕事だったんですが、倉庫内を歩く距離は15年前と今回はほぼ同じ1日約20km。50歳を超えた体にはこたえました。

それでも働いている人の中には自分より年上の人もいて……男子トイレの個室には「おむつを流さないでください」という張り紙があったので、何らかの事情で大人用のおむつをしている人も働いているんだとわかりました。

人間がどんどんロボット化している

BI:精神的にはいかがでしたか?

横田:ピッキング作業の際はハンディ端末を持たされます。商品をピックすると「次のピッキングまであと何秒」と表示が出る。近くだと30秒、遠くになると1分30秒というように、距離に応じた制限時間が出る。制限時間内にピックできないことが増えると、アルバイトを管理するリーダーやスーパーバイザーとの面談が待っています。常に追い立てられる感覚です。

市川塩浜のアマゾンの物流センター

横田さんが今回「潜入」したのは小田原の物流センター。写真は市川塩浜のアマゾンの物流センター。

撮影:横田増生

自分の行動データは全てアマゾンに把握され、見張られている感じも気持ち悪い。

15年前はハンディ端末でなく、紙でした。端末になりミスはなくなったが、人間はどんどんロボット化しているようにも思います。

BI:アマゾンは物流センターの自動化を進めていると言われています。実際働いてみて、物流の工程を完全にロボット化できると感じましたか?

横田:「倉庫作業はすぐにロボット化される」という人も多いですが、それは単純すぎる。1番ロボット化したいのはアマゾンのはずなのに、創業以来、25年かけてもできていない。それがあと10年ぐらいできるとは考えにくい。

完全ロボット化を阻む要因は商品の種類の多さでしょう。

「人よりも規則が重視される社風」

BI:横田さんの著書で、作業中に複数の方が亡くなっていることが明かされていました。横田さんが働く直前に起きたアルバイトの方の死亡事故では、倒れて救急車が来るまでに1時間もかかったと書かれてますね。

横田:アルバイトが倒れたときの連絡系統が厳格に決まっていて、発見者からリーダー、スーパーバイザー、その次はアマゾン社員です。その上で、センター内にある安全衛生部やセンターのトップであるサイトリーダーに報告して、初めて救急車を呼べる。もしリーダーやスーパーバイザーがアマゾン社員に報告することなく救急車を呼べば叱責されます。

2回の取材で感じたのは、アマゾンという企業は人より規則が重視される社風だということ。取材した元社員も「人命救助よりアマゾンの決めた手順を守る方が大事」と言っていました。

遺族も取材したのですが、渡されたのはアマゾンに作業員を派遣する派遣会社からの香典3万円のみで、アマゾンからの連絡は一切なく、お悔やみの言葉すらなかったということです。

持続可能な仕組みと言えない物流網

デリバリープロバイダ

横田さんが自宅付近で撮影したアマゾンのデリバリープロバイダ。アマゾンは中小の宅配業者のネットワークを構築する戦略を進めている。

撮影:横田増生

BI:物流網の取材もされています。アマゾンの配送料が安いため、佐川急便は手を引き、ヤマト運輸は値上げやサービス縮小を決めた中、アマゾンは独自に中小の業者による配達網を構築してます。

横田:アマゾンはデリバリープロバイダと呼ぶ中小の宅配業者をつなぎ合わせ、1つのネットワークを作る方法で、ヤマト運輸が撤退した部分の穴を埋める戦略です。

とはいえ、ヤマト運輸や佐川急便はシステムにも毎年莫大な金額を投じていて、それ以外の物流業者とはシステムの面でも個人のスキルの面でも、プロ野球とアマチュア野球ぐらいの差があります。

あるデリバリープロバイダの下請け業者では、トラックに1日100個の荷物が限界のところを200個積まされ、そのまま失踪したという話を聞きました。実際に配送を担うドライバーの給与水準や労働環境はとても持続可能な仕組みとは言えない。

BI:物流の生命線は「人」のはずなのに、アマゾンはなぜ人を大事にしないのでしょうか?

横田:アマゾンのために働きたい人は無限にいると思っているのかもしれません。人を人とも思わない社風は15年前に潜入取材をしたときから変わっていない印象です。

「9割の文句を言わない顧客」が大事

プラハの近くのアマゾン物流センター

翌日配送、というビジネスモデルを維持するために、物流で働く人にとっては厳しい労働環境になっている。

REUTERS/David W Cerny

BI:小田原の物流センターでは少なくとも5件の死亡事故が発生したということですが、日本のメディアではこうしたニュースは出てきません。

横田:私も今回の取材でアマゾンジャパンの広報に死亡事故に対する見解や、これまで作業中やその前後に亡くなった方の人数などを尋ねましたが、「具体的な回答を差し控えさせていただきます」という木で鼻をくくったような返事しか来ませんでした。事故に対してアマゾンがどう思っているのかすらわかりません。

BI:以前、Business Insider Japanではアマゾンを使った代引き詐欺の記事を報じました。被害者に話を聞くと、お金を取り戻すためのアマゾンとのやりとりに非常にストレスを感じたと。アマゾンが掲げている「顧客第一主義」という建前と、実際の利用者の印象はかけ離れていると感じます。

横田:アメリカの企業全体的に言えることですが、彼らは「文句を言わない9割の顧客」を相手にし、自分たちのアルゴリズム通りに動く手間いらずの顧客だけを大切にするのです。

実際私がアメリカに住んでいたとき、携帯電話の契約に関して明らかに相手に非があったので、認めてもらうために携帯電話会社のカスタマーサービスと電話で話していたら、突然電話がつながらなくなってしまいました。

「最も秘密主義のテクノロジー企業」

BI:メディアにとってもアマゾンは取材が難しい企業の一つです。「顔が見えない企業」という印象なのですが、そんなアマゾンにあって、法人向けクラウドサービスのAWSはまるで別の会社のようです。横田さんの著書を読んでもそう感じました。

横田:先日も大きなシステムダウンを起こしてはいますが、それ以外で悪い話を聞いたことはないです。今回の執筆で一番取材しやすかったのはAWSです。

2018年のAWSサミットに私は3日連続で記者として参加しましたし、初心者向けの講習会にもフリーランスのジャーナリストであることや、「横田増生」の名前を明かした上でも入れました。

BI:AWSとは違って、ECのビジネスには「見せたくない」ものがあるのでしょうか。

横田:そう思います。ビジネス誌の過去の取材でも物流センターの中には入れてくれない、もしくは場所を細かく指定された上で限定された部分しか見せてくれなかったそうです。

AWSの社員はほとんどがエンジニアですから、ECと違って労働問題など「汚い部分」は抱えていないのかもしれません。

ニューヨークタイムズ紙のコラムニストはアマゾンのことを「最も秘密主義のテクノロジー企業」と表現していますが、その通りだと思います。

筋金入りの「税逃れ」

アマゾンのロゴ

アマゾンは「税逃れ」は世界各国で問題になっている。

REUTERS/Pascal Rossignol

BI:アマゾンは今後金融なども含めあらゆる産業に乗り出して来ると予想されますが、本社がアメリカにある上に情報公開が不十分です。日本でしっかり企業活動を監視できるのでしょうか?

横田:アマゾンを含むGAFAに関して、日本で唯一頑張っているのは公正取引委員会(公取委)です。最近はGAFAの情報取り扱いガイドラインを公開しました。それ以外はまだまだ。

そもそもアマゾンジャパンとアマゾンジャパン・ロジスティクスが決算公告を発表したのは2014年の一度きりです。その2カ月後に株式会社から合同会社になり、会社法が定める決算公告の義務を免れています。合同会社になったのは、日本での売り上げなどを公開したくないという意図が働いているのだろうと、アマゾンの税金問題を取材している全国紙の記者は話していました。

「自分たちは顧客の情報を集めるけど、自分たちの情報は出さない」。それは許されるでしょうか?

BI:決算を発表しない限り、日本で得ている利益もわからないので課税できません。

横田:アマゾンの税逃れは筋金入りです。創業時にアメリカで、租税回避の目的で先住民居留地に本社を置くことを試みたという話もあります。先住民居留地のビジネスに税金がかからないのは、歴史的に差別されてきた先住民を雇うことに対する見返りですが、アマゾンがアメリカ先住民だけを従業員とするという事業計画を聞いたことはありません。

こんななりふり構わぬ節税方法を考えるのは同社の創業者であるジェフ・ベゾスぐらいじゃないでしょうか。

「事業継続性は829位」

ジェフ・ベゾス

アマゾン創業者のジェフ・ベゾス。今やアマゾンは時価総額1位となり、ベゾスの個人資産も2年連続で世界一となった。

REUTERS/Katherine Taylor

BI:著書にあった『ハーバード・ビジネス・レビュー誌』のCEO100傑ランキング2018年度版の結果は非常に興味深かったです。「ベゾスは財務指標では1位、事業継続性では829位、CSRでは824位。3つの指標を合計して68位」。

財務が健全でビジネスモデルが成功し、時価総額はアップルを抜いて1位だから、事業の継続性はもっと高いはずなのに、こんなに低い点がついたというのは、「人を大切にしない事業は続かない」という厳しい評価なのでしょうか。

横田:企業は儲かって株価も上がっているけれども、人を大切にしていないことをその数字が端的に表していますよね。私の言いたいことと全く同じです。

ヨーロッパやアメリカではアマゾン批判は大きな声になっている。結果、GAFAに対するデジタル課税を導入や反トラスト法違反での調査など行政が動いている。

日本は“おいしい”市場

BI:今回ヨーロッパにも取材に行かれていますが、アマゾンに対する日本との温度差は感じましたか?

横田:感じました。イギリスでは人権意識が深く根付いています。

イギリスには私と同じようにアマゾン潜入取材をしているジャーナリストが何人もいます。特に租税回避の問題が明るみに出たあたりから増えているので、潜入取材の裏側には税逃れは許さないという空気がある。

横田増生

15年越しに2回目のアマゾン潜入取材を行った横田さん。

撮影:Business Insider Japan

一方日本ではアマゾンの税逃れについて関心のある人がほとんどいません。アマゾン批判もほとんど起きていない。

アメリカでは2018年8月、上院議員のバーニー・サンダースが「ストップBEZOS法」を連邦政府に提出しました。これは大企業の労働者が公的給付金を受け取った場合、税金にかかった費用と同額の税金を企業が収めるという内容。アマゾンの従業員がアマゾンからの給料では生活できず、公的給付金を受け取っている、ということが背景にありました。

これを機にアマゾン・ドット・コムは儲けを労働者に還元すべきとの批判がアメリカ社会に渦巻き、結果、アマゾンは物流センターの労働者の時給を11ドルから15ドルに引き上げることを発表しました。同時にイギリスでも最低賃金を8.2ポンドから10.5ポンドに引き上げています。

政治家の働きかけによって待遇は改善されるので、政治家が動くことは有効でしょうね。

アメリカやイギリスでそれぐらい時給を上げられる余地があるのだから、日本でも上げられるはず。日本でも政治家が動けば変わってくるかもしれない。

BI:もともと日本には巨大な企業に対する“健全な批判精神”がないんですね。

横田:今回、1年以上取材しましたが、日本でアマゾンを正面から批判している人は政治家を含めてほとんどいません。アマゾンは前出の通り、「文句を言わない9割」を相手にする企業なので、5ちゃんねるやSNSで不満をこぼすぐらいでは事業に影響はない。

だからアマゾンにとってみれば日本はとってもおいしい市場なんです。

(聞き手・浜田敬子、構成・一本麻衣)

amazon帝国書影

横田増生:1965年福岡県生まれ。アイオワ大学ジャーナリズムスクールで修士号取得。帰国後、物流業界紙記者、編集長を務め、1999年フリーランスに。主な著書に『潜入ルポ アマゾン・ドット・コム』『評伝 ナンシー関「心に一人のナンシーを」』『中学受験』『ユニクロ帝国の光と影』『仁義なき宅配 ヤマトVS日本郵便VSアマゾン』など。

ソーシャルメディアでも最新のビジネス情報をいち早く配信中

あわせて読みたい

Popular

BUSINESS INSIDER JAPAN PRESS RELEASE - 取材の依頼などはこちらから送付して下さい

広告のお問い合わせ・媒体資料のお申し込み