Apple Watch Series 5。試用したのは44mm・Wi-Fi+Cellularモデルのスペースグレイアルミニウムに、スポーツループの組み合わせ。
撮影:西田宗千佳
9月20日、アップルは「iPhone 11」とともに、Apple Watchの最新モデル「Series 5」を発売する。
Series 5(シリーズ5)は、スマートウォッチの弱点だった「消費電力を抑えるために盤面が消える」という弱点を解消した「常時表示Retinaディスプレイ」を採用した。そのことは、Apple Watchの使い方にどんな変化を与えたのか。実機をつけて生活して、考えてみた。
5世代かけて「成熟」したApple Watchだが……?
Apple Watch Series 5全機種の主要価格設定。素材の違いやバンドの違いでかなり価格に幅がある。上位モデルは基本的にセルラー回線のない「GPS」モデルが選べない。
編集部作成
Apple Watchに代表されるスマートウォッチは、時計として今の時間がわかるのはもちろんだが、他の国の時間や現在の気温、次の予定、着信したメッセージと、様々な情報を、スマホを取り出すことなくさっと確認できる。そして、歩数や走った距離、消費カロリーなどをある程度正確に把握できる。
こうした「基本的な価値」については、シリーズ5でも変化はない。Apple Watchの登場から5年、その間にこの製品は「時計から情報を得ることの価値」を磨いてきた。
だが、シリーズ5とそれ以前とでは、Apple Watchを使っている時の感覚が大きく異なる。なぜなら、シリーズ5からは「ディスプレイが常時点灯」するようになったからだ。
このことは、Apple Watchの使い方を大きく変えると、実機を前に改めて感じる。
「消費電力を抑える表示」で常時点灯を実現
アップルのPVより。最新型モデルの画面の実装イメージ。
出典:アップル
具体的にどのような動作になるのか?
Apple Watch Series 5で採用されたディスプレイでは、ディスプレイの表示状況を細かくコントロールし、「表示しつつも消費電力は低い」という状況を用意できるようになった。
写真の左は通常時、下は低消費電力時のものだ。一番極端でわかりやすい表示にしたが、全体が暗くなり、文字が縁だけになっている。
上が通常時、下が低消費電力時。表示が暗くなるように最適化されている。
撮影:西田宗千佳
もうひとつ例を。こちらでは白地だった表示が黒地になり、よく見ると秒針が消えている。この消費電力を抑えた表示では、1秒に1回しか画面を書き換えない。そのため、秒より細かい単位の表示は意味が無く、表示がなくなるのだ。
別の文字盤でチェック。白いのが通常時で、黒いのが省電力を抑えた表示。黒くなると秒針が消えている点にも注目。
撮影:西田宗千佳
いままでなら「消灯」していたタイミングで「消費電力を下げた表示」に切り換えることで、表示を消すことなく、全体の消費電力を下げているわけだ。
Apple Watchのディスプレイは、斜めから見ても非常に視認性が高いので、消費電力を下げたモードになっていても時間を読み取ることは十分にできる。他の数字も同様だ。
時計を見る仕草をするとちゃんと見えるが、そうでない時でも斜めから時計の針や数字が見える。
撮影:西田宗千佳
アップルらしい工夫もある。常時表示できるということは、他人に文字盤画面を見られる可能性も増えるということだ。スケジュールやメッセージ、自分が文字盤に設定している家族の写真に心拍数など、Apple Watchで表示できる「他人に見せたくない情報」はけっこう多い。
Apple Watchの「画面表示と明るさ」の中にある「機密コンプリケーションを非表示」をオンにすると、写真やメッセージなどが「省電力表示」ではオフになる。
そうしたものは設定によって、「自分が時計を見る動作をした時以外表示しない」こともできる。これは忘れずに「オン」にしておいた方がいいだろう。
スマートウォッチの弱点は不自然な「しぐさ」
最新Apple Watchについて発表会の壇上で語るアップルのティム・クックCEO。
出典:アップル
Apple Watchを含め、スマートウォッチの大半は、時計としての盤面をディスプレイで表現している。ディスプレイが点灯しているということは、それだけ電力を消費する、ということでもある。
というわけで、多くのスマートウォッチは「時計を見るしぐさをした時だけディスプレイが点灯する」のが基本だった。時計や各種表示を見るには、時計を見る時と同じように、ディスプレイを自分の顔の方に向ける動きをするか、画面をタップするなどの「しぐさ」が必要だった。
個人的には、Apple Watchなどを使い始めると、「ディスプレイが常に表示されていない」ことにはすぐ慣れた。
その結果、手首をちょっと大きめに返したり、通知が来たらスマートウォッチの画面をタップしたり、あえて表示を消すためにディスプレイを手のひらで覆ったりといった「スマートウォッチしぐさ」がくせになってしまった。
今回の試用機ではないが、チタンモデルの人気も高いようだ。店頭には並ぶのだろうか。
撮影:西田宗千佳
「スマートウォッチが嫌いだ」という人は、この「しぐさ」が嫌いだ、という。
ある新聞記者は「インタビューの時にはApple Watch以外の時計を使う」と話していた。
インタビュー中に時間を確認するたびに「時計を見る」しぐさをすると、相手からは「時間が気になっているのか」と思われるからだ。
Apple Watch Series 5では、画面が「常時点灯」する。「スマートウォッチしぐさ」をしなくてもチラ見で時間や情報が確認できるようになったのだ。
この原稿は、Apple Watch Series 5を付け始めて半日ほど経過したところで書いている。正直、この数年で染みついた「スマートウォッチしぐさ」はまだ抜けきっていない。
それでも時計である以上、「いつも必要な表示が見えている」のはあたりまえで、ようやく「スマートウォッチだから」という説明が不要になったのだな、と改めて思い知った。
これが「スマートウォッチがより普通の人のものになる」ために必要なものだったのだろう。
バッテリー動作時間は減少も納得の範囲
では、この仕組みでどのくらいバッテリーを消費するのだろう?
残念ながら、レビュー機材を受け取ってからのテスト時間が短いため、正確なところは分からない。ひとつの参考値として、「ほぼ満充電から使い始めたものが、6時間後には33%分バッテリーを消費していた」という現状の値を示しておきたい。
この間にはApple Watch自体のセットアップも行っており、通常よりも通信が頻繁に行われたはずだ。だが、それ以外は30分ほどの徒歩移動を含む、Apple Watchにとっては一般的な使い方をしていた。
単純計算では、「18時間強の動作」ということになる。これは通信がかなり多めに発生した、ワーストケースに近い状況ではないかと推察できるため、実際には、18時間よりは長くなるのではないか(と期待したい)。
ディスプレイが消えるApple Watch Series 4の場合、使い方によっては2日間バッテリーが持つこともある。だから、単純に比較すると「バッテリーの持ちは悪くなる」ことになる。
とはいえ、朝出て家に戻るまでは持ちそうだし、途中で設定を変えれば消費電力は下がる。利便性とのトレードオフだと思えば、十分納得できる範囲ではないだろうか。
シリーズ5は「初Apple Watch」の人向きと感じる理由
パッケージの内容物。本体・ケーブル・ACアダプターと、これまでと変わっていない。
撮影:西田宗千佳
Series 5は、上位モデルに「チタニウム」や「セラミック」などの新しい素材のモデルが用意されたが、それ以外のモデルは以前とほぼまったく変わらないデザイン・サイズ・素材を採用している。
バンドには新しいデザインが増えているが、デザインの面で大きく変わってはいない。付属するケーブルなども同じだ。
内部的にはディスプレイ以外だと「コンパス」の内蔵が大きい。
これまでのApple Watchにはコンパスが内蔵されておらず、地図を表示しても、Apple Watchの側では「どちらを向いているのか」がわからなかった。iPhoneを取り出さずにナビに使う場合に、有用な機能だ。
Series 5に新たに搭載された「コンパス」。
「マップ」上で自分がどちらを向いているかがわかるようになった。
またトレッキングをする場合などにも、歩くべき方角や緯度経度、標高などがわかるため便利だろう。コンパスはもちろんアプリ開発者が利用可能なので、より便利なナビアプリや山歩きアプリが作られる可能性もある。
また、今回からOSが「watchOS 6」になった。
アプリをダウンロードするための「AppStore」がApple Watch内に登場したのも大きな変化だ。アプリをインストールする時iPhoneを使う必要がなくなり、より気軽に使えるようになった。だが、Apple WatchはiPhoneのコンパニオンであり、使い始める時にiPhoneとペアリングをする必要があって、「iPhoneを持っていない人には使えない機器」である点に変わりはない。
Apple Watchの中に「AppStore」が登場。アプリのインストールを、iPhone側からやる必要がなくなる。
どちらにしろ、常時点灯の効果もあり、Apple Watchは「スマートウォッチだから」という意識をせずとも使える製品になってきたように思う。
画面が消えてしまうというマイナス点がなくなり、プラス点に目を向けやすくなった分、Apple Watch Series 5は、「まだApple Watchを使っていなかった人」向けといえるかもしれない。
本音を言えば、Series 4に満足していた人には、機能面・デザイン面で大きな変化がない。
しかし、もはやあたりまえになっていた「スマートウォッチしぐさ」が実は不自然なものだったことを思い知らされるとともに、半日で「元の操作に戻るのは辛いな」と思うくらいの変化はある。
要は、その体験の良さと、入手するためのコストのトレードオフなのだが。
(文、写真・西田宗千佳)