写真で見る、アメリカで最も汚染された核施設「ハンフォード・サイト」

ハンフォード核貯蔵所

アメリカのワシントン州にあるハンフォード核貯蔵所。

Jackie Johnston / AP

  • ハンフォード核貯蔵所は、アメリカで最も汚染された地域だ。その地下には、5600万ガロン(約2億1200万リットル)もの処理を必要とする放射性廃棄物が埋められている。
  • この場所で、長崎に投下された原爆「ファットマン」や冷戦中にアメリカが備蓄した核兵器に使われたプルトニウムが作られた。
  • 2019年6月、トランプ政権はその処理にかかる費用400億ドル(約4兆3000億円)を節約するため、一部の放射性廃棄物のレベルを引き下げる考えを示した。
  • 放射性廃棄物の処理を容易にしようとするこの発表は、批判を受けた。
  • トランプ政権は、ハンフォードの予算を4億1600万ドルまで削減したい考えだが、処理にはそれ以上の予算が必要だ

ワシントン州の砂漠にある、広さ586平方マイル(約1500平方キロメートル)のハンフォード核貯蔵所は、アメリカで最も汚染された場所だ

地下には、貯蔵タンクに入った5600万ガロン(約2億1200万リットル)もの放射性廃棄物が埋められている。その多くが地下にしみ出している。

NBCによると、一部の核の専門家たちはハンフォード核貯蔵所を「(事故が)起きるのを待っている、地下のチェルノブイリ」と呼んでいる。

ハンフォードは、第二次世界大戦で長崎に投下された原爆「ファットマン」や冷戦中にアメリカが備蓄した核兵器に使われたプルトニウムが作られた場所だ。

長きにわたり、その汚染に対する懸念を否定してきたものの、1989年には施設の運営側が放射性廃棄物の処理の必要性を認めた。だが、それは簡単なことではない。燃やしたり、埋めることはできないのだ。計画では、放射性廃棄物をガラス化する工場を建設しようとしているが(そうすることで、数千年にわたって保管できる)、それは時間と費用を要するプロセスだ。

デイリー・ビースト(Daily Beast)が報じたように、「ハンフォードは、人類が生み出すことはできても片付けることのできない最悪の厄介ごと」だ。

汚染物質が取り残されている時間が長ければ長いほど、その影響は大きくなる。ハンフォード核貯蔵所をのぞいてみよう。


ハンフォードは、ワシントン州の砂漠に作られた。その広さは586平方マイル(約1500平方キロメートル)を超える。

空撮

AP

建設にあたって、政府は事故の影響を警戒して、東海岸の都市から離れた隔絶した土地を選んだ。だが、この辺りは山火事や地震が起こりやすい場所だ。

最後に大地震が発生したのは1936年のことだが、もし再び大地震が起きれば放射線を放出する可能性もある。

施設に沿ってコロンビア川が流れていて、上流には2つのダムがある。

コロンビア川

コロンビア川。

Elaine Thompson / AP

政府は、電力と原子炉を冷やすための冷却水を確保するため、施設をダムの近くに作りたいと考えた。

環境保護庁は2017年、汚染された地下水が川に流れ込んでいると述べた。

ハンフォード核貯蔵所は1944年9月6日、操業を始めた。

ハンフォードの核施設

Hulton-Deutsch / Hulton-Deutsch Collection / Corbis / Getty

ハンフォードは、政府が極秘で進めていた核兵器の研究・開発「マンハッタン計画」において、重要な役割を果たした。

1943年にこの土地を買い上げると、政府は住民約1500人に30日以内に立ち退くよう求めた

最初の原子炉は11カ月で建設された。現場で働く5万人のうち、その多くが何のために働いているか分かっていなかった。

労働者たち

ハンフォードで働く人々。

Wikimedia

Sources: Court House News, Los Angeles Times

……1945年8月6日、広島に最初の原爆が投下されるまでは。

看板

道路沿いの看板。

Elaine Thompson / AP

Source: Court House News

核施設の秘密を守るため、政府は施設への不法侵入を禁じ、「ハンフォード・リーチ(Hanford Reach)」と呼ばれる緩衝地帯を設けた。

つばめ

Elaine Thompson / AP

開発されることなく、75年にわたって手付かずだったこの土地では、野生生物が増加。2000年には、ビル・クリントン大統領(当時)が19万5000エーカーの土地ナショナル・モニュメント(国定記念物)に指定した。

この地域には、ヘラジカやキングサーモンだけでなく、アナフクロウやアレチノスリ、コクテンシトドモドキといったさまざまな鳥類が生息している。

「B原子炉」は、初めて建設された大規模原子炉だ。これはその制御室。

制御室

Ted S. Warren / AP

アメリカで初めてプルトニウムを生産したのが、このB原子炉だ。初めて作られたプルトニウムは1945年2月2日、陸軍に届けられた。

ハンフォードのプルトニウムは、人類初の核実験「トリニティ実験」や1945年8月9日に長崎に投下された原爆「ファットマン」に使われた。

キノコ雲

Photographer: U.S. Airforce via Wikipedia

Source: Tri-City Herald

第二次世界大戦のあと、生産が一時的に休止したが、1948年にはプルトニウムが再びその優先事項となった。

看板

冷戦期、ハンフォード・サイトに掲げられた看板。

Wikimedia

ハンフォードは冷戦中、核兵器を作るためにそのプルトニウムを供給した。1955年までにさらに5つの原子炉が建設され、1980年代後半までプルトニウムの生産が続いた。

9つの原子炉と5つの再処理工場を使って、ハンフォードはアメリカ政府が使用したプルトニウムの約65%を生産した。

作業員

1954年、ポリエチレン・プラスチックのスーツを着た作業員。

Nat Farbman / The LIFE Picture Collection / Getty

原子炉は一度に全て建設されたわけではなく、1943年から1963年にかけて作られた。

合計で67トンのプルトニウムを生産したハンフォードは、アメリカが1987年までに製造した6万基の核兵器の大部分に貢献した。

作業員

1972年、ハンフォード。

Smith Collection / Gado / Getty

Sources: The Atlantic, New York Times

だが、プルトニウムの生産にはコストがかかる。わずかな量を作るために、大量の放射性廃棄物が出る。

ドラム缶

1988年、低レベルの放射性廃棄物の入ったドラム缶と作業員。

Roger Ressmeyer / Corbis / VCG / Getty

Source: Hanford

固形廃棄物は、汚染された道具から服、壊れた設備まで、さまざまだ。

固形廃棄物

固形廃棄物。

Jackie Johnston / AP

ハンフォードが環境に与える影響は、1960年に体長55フィート(約17メートル)のクジラがオレゴン沖で死亡、ガンマ線を放出した頃から指摘されていた。

ナガスクジラ

ナガスクジラ。

Rob Baer/Alaska Department of Fish and Game via AP

科学者たちは、このクジラがコロンビア川から海へ流れ込んだ廃棄物によって汚染されたプランクトンを食べたのではないかと疑った。

明らかに、これはアメリカにとって新たな領域だった。写真は、作業員が放射能中毒になるのを防ぐため、自身が発明したスーツを着たホーマー・モールスロップ(Homer Moulthorp)氏だ。

ホーマー・モールスロップ氏

エンジニアのホーマー・モールスロップ氏。

Nat Farbman / The LIFE Picture Collection / Getty

このスーツが登場するまでは、作業員は重量のある服を着なければならず、この服は一度使用したら埋めなければならなかった。

放射能中毒をモニターするため、施設で働いていた科学者たちはねずみやねこ、犬、牛、羊、ブタ、ワニなどの動物を実験していた。

羊

羊の甲状腺を調べる科学者たち。

Wikimedia

実験は、放射線が人に与える影響を調べようとするものだった。2007年には、地中から4万トンもの動物の死骸と肥やしが見つかった。

新しい科学だったため、放射性廃棄物の多くはきちんと管理されず、適切に処分されなかった。

コンテナを運ぶ作業員

1979年4月23日。低レベルの放射性廃棄物が入ったコンテナを運ぶ作業員。

Mason / AP

当初、ハンフォードでは汚染された服や道具を場所を記録しないままシンプルに砂漠に埋めていたという。

廃棄物の種類によって、その処理方法も違った。やや汚染された液体は池に捨てられ、固形廃棄物は地中に埋められ、一部のガスは大気中に放出された。

作業

使わなくなった原子炉容器を埋める作業。

Jackie Johnston / AP

ハンフォードには1600カ所以上の処理場があり、堀やトンネル内に2400万立方フィート(約6万8000平方メートル)もの放射性固体廃棄物が埋められている。

だが、最も心配なのは、177基の貯蔵タンク(1基あたり5万5000~10万ガロン)に入った高レベルの放射性廃棄物だ。

貯蔵タンク

地下に埋められた貯蔵タンク。

Wikimedia

初めの149基の貯蔵タンクは一重構造だったが、1968年には当局が二重構造の新たなモデルを開発し、残り28基はそれを採用している。

177基の貯蔵タンクには、合計して1986年のチェルノブイリの原発事故で放出された2倍もの放射線が含まれている。1989年までに、149基のうち68基が漏れた

エネルギー省の元政策アドバイザー、ロバート・アルバレス(Robert Alvarez)氏は2010年、ハンフォードに埋められているプルトニウムは長崎に投下されたものと同じサイズの原爆を1800個作るのに十分な量だと指摘した。

ほかにも、セシウムやストロンチウムのカプセルも水中で保存されている。

カプセル

水中で保存されているセシウム、ストロンチウムのカプセル(2012年)。

US Department of Energy / AP

1989年、環境保護庁とエネルギー省、ワシントン州はこのエリアの除染・解体で合意し、3者協定に署名した。

施設内部

1988年、施設内部を案内する担当者。

Roger Ressmeyer / Corbis / VCG / Getty

当時、ハンフォードではすでにプルトニウムは作られていなかった。原子炉は1960年代半ばから1987年にかけて閉鎖された。

だが、その後の動きは遅く、コストも年間20億ドルかかっている。

ハンフォード

Jeff T. Green / Getty

Source: The Guardian

ハンフォードはもはや核兵器工場ではなく、施設は解体されている。

解体

解体される施設(1999年8月14日)。

Jackie Johnston / AP

Source: Hanford

原子炉は閉鎖され、「すっぽりくるまれた」状態だ。

原子炉

Nicholas K. Geranios / AP

こうした施設は、放射線量が安全なレベルに落ち着き、処分できるようになるまで75年間この状態で維持される

1998年、タンクからの漏洩は大したことがないと50年間言い続けたあと、運営側はそれが事実でなかったことを認めた。

作業員

フェンス越しに話をする作業員と男性。

Roger Ressmeyer /Corbis / VCG / Getty

運営側は、放射性廃棄物が地下水に達するまでに1万年かかると説明していたが、すでに到達しているとも話した。

プルトニウムはもう作られていないものの、周辺地域は放射性廃棄物の影響を感じ続けている。

山火事の痕跡

すぐ近くまで迫っていた山火事の痕跡。

Jackei Johnston / AP

2000年に施設のすぐ近くまで山火事が迫ると、ワシントン州はこの地域のプルトニウムのレベルが、命に危険があるほどではないものの、上昇していると報告した。これは、ほこりや灰が拡散したことによるものだろうと考えられた。被ばくしたハチの巣やハエ、うさぎも問題になった。

2000年代前半には、周辺を転がる被ばくした回転草も問題になった。

放射線量を調べる男性

回転草の放射線量を調べる男性。

Jackie Johnston / AP

2002年、廃棄物処理場「ハンフォード・ビト・プラント(Hanford Vit Plant)」が着工。

建設現場

建設中の廃棄物処理場。

Ted S. Warren / AP

この処理場で廃棄物はガラス化される。そうすることによって数千年間、安全に保管できるという。500億ガロン以上の放射性廃棄物がその対象となる見込みだ。だが、実際にその処理が始まるのは2036年の見込みで、全ての処理を終えるには数十年を要する

2009年、ハンフォードでは有名な「B原子炉」やその他の施設をめぐる見学ツアーが始まった。ツアーは人気で、2016年には1万人が参加した。

ツアーの様子

Shannon Dininny / AP

コロンビア川でカヤックを楽しむ人たちも、見に来るという。

カヤック

Spencer Weiner / Los Angeles Times / Getty

だが、施設は劣化し続けている。2013年には、地中に埋められた複数のタンクから新たな漏洩が見つかった。

作業員

Ted S. Warren / AP

運営側はタンクが1基、年間最大で300ガロンのペースで漏洩していることを認識していたが、調査によってさらに5基が漏洩していることが分かった。

2015年、ハンフォードのエネルギー部門の責任者であるダグ・シュープ(Doug Shoop)氏は、インフラが崩壊しつつあり、放出される放射線量が増えるだろうと話した。

ダグ・シュープ氏

ダグ・シュープ氏。

Nicholas K. Geranios / AP

Source: Business Insider

シュープ氏は正しかった。2017年、放射性廃棄物を保管しているトンネルが崩落した。

穴

トンネルには、直径6メートルほどの穴が開いた。

DOE; Business Insider

同エネルギー部門は、労働者1万人が今もリスクにさらされているという。写真は、1日の仕事を終え、放射線量をチェックしてもらう男性。

放射線量のチェック

Spencer Weiner / Los Angeles Times / Getty

Sources: NBC, Peninsula Daily News

2016年、従業員61人がタンクから漏洩したガスにさらされた。それから2年後、ガスと肺や脳へのダメージの間に「因果関係」が認められた。

安全検査官

処理室に入っていく安全検査官(2005年6月30日)。

Jeff T. Green / Getty

Source: NBC

ハンフォードのエネルギー部門は、地下の放射性廃棄物の全てを2047年までに処理したい考えだが、そうはいきそうにない。

危険を知らせる看板

Elaine Thompson / AP

現時点では、2079年もしくは2102年までかかるだろうと見られている。2019年2月、同部門はそのプロセスにかかる費用について、最新の見通しを公表。その額は、1100億ドルから6600億ドルにはねあがった。

コストがかさむ中、トランプ大統領はその年間予算を4億1600万ドルまで削減したい考えだ。

トランプ大統領

Associated Press/Evan Vucci

トランプ政権はまた、コスト削減のため、高レベルの放射性廃棄物を低レベルの放射性廃棄物として再分類したい考えだ。

環境保護主義者たちは、除染を求めて徹底的に戦う考えだが、監視団体「ハンフォード・チャレンジ」の代表トム・カーペンター(Tom Carpenter)氏は、廃棄物の全てが掘り起こされることはないだろうと話している。

B原子炉

Jeff T. Green / Getty

カーペンター氏は2018年、ハンフォードの放射性廃棄物の多くはどうにもならないだろうと、アトランティックに語った。「ハンフォードは今後、何百年も国の犠牲になった地域であり続けるだろう」と、同氏は言う。

[原文:Inside America's most toxic nuclear waste dump, where 56 million gallons of buried radioactive sludge are leaking into the earth

(翻訳、編集:山口佳美)

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