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- 数十万人の旅行計画を台無しにしたトーマス・クックの倒産は、悲惨な会社の倒産の一例にすぎない。
- リーマン・ブラザーズは世界経済を破綻させ、株式市場を沈没させた。エンロンのスキャンダルは、企業が投資家から金をだまし取ろうとする姿勢を浮き彫りにした。
- ここでは、世界の歴史に残る痛ましい企業倒産の事例を9つ紹介しよう。
イギリスを拠点とする旅行会社、トーマス・クックの破綻により、世界中で数十万人が取り残された。
トーマス・クックの客室乗務員は、フェイスブックを通じて職を失ったことを知ったと述べた。ある男性の報告によると、チュニジアのリゾート地では、トーマス・クックが借りている金を払うまで「人質として」旅行者を拘束したという。
企業の倒産は、従業員や経営者にしばしば混乱をもたらすが、最悪の企業倒産は世界市場全体を揺るがすものだ。
リーマン・ブラザーズの破綻は、世界経済を金融危機に向かわせた。パンアメリカン航空の破産は、アメリカ旅行の世界的シンボルを粉砕した。エンロンのスキャンダルは企業や金融機関が投資家をだまし取ろうとする動きを浮き彫りにした。
メディチ銀行(Medici Bank)や南海会社(South Sea Company)のような初期の破綻は、時代の指標となった。
ここからは世界史上最悪の企業倒産を9件紹介しよう。
1494年:長い間バチカンの資金管理者であったメディチ銀行が、経営者の非効率性と不十分な現金準備のために破綻した。
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ビジネス・インサイダーのアイン・ケインによると、同行はかつてヨーロッパで最大かつ最強の金融機関の1つだった。1434年まで、銀行の収入の半分以上はローマ教皇からのもので、その収益性の高さによって、メディチ家がフィレンツェ共和国を非公式に支配することができた。しかし、銀行はその投資を過剰に伸ばしてしまい、その影響が衰え始めた。その後の腐敗したエピソードには慈善基金詐欺などもあった。
1853年:イギリスの南海会社が、18世紀に経済破綻を引き起こし、結局倒産した。
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アメリカ大陸のスペイン植民地に奴隷や物資を販売した南海会社(South Sea Company)は、元々は1711年にイギリスの国債を管理するために設立された。多くの経験の浅い投資家が同社に資金をつぎ込んで株価が上昇してバブルになったと、『The South Sea Bubble』の著者のヘレン・ポール(Helen Paul)氏はBusiness Insiderのアイン・ケインに語った。
多くの企業幹部がインサイダー取引などの不正に関与した。南海会社の株の乱高下による経済の崩壊は、有名な科学者アイザック・ニュートンにも莫大な損失を与えた。
1911年:アメリカ連邦最高裁判所は、ジョン・D・ロックフェラーのスタンダード・オイルの解散を命じ、アメリカにおける最大の独占企業のひとつが解体された。
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ジョン・D・ロックフェラーは1870年にスタンダード・オイル社を設立し、同社は最終的にアメリカの石油精製事業の90%を支配した。そしてロックフェラーはアメリカ初の億万長者になった。
結局、連邦最高裁判所はスタンダード・オイル社が反トラスト法であるシャーマン法に違反しているので34社に分割するとの判決を下した。この決定は、アメリカの金メッキ時代の終わりをもたらし、「泥棒男爵」から権力を奪った。
1983年:投資会社のキャリアン社が香港史上最大の破産。これは史上最大規模の不正会計によるもので、監査役の殺害や顧問の自殺など、劇的な捜査につながった。
1983年10月にワンチャイ警察署で手錠をかけられている元キャリアン社の会長のジョージ・タン。
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ジョージ・タン・スンジンが1979年に同社を買収し、わずか2年間で数十億ドルの帝国を築き上げた。キャリアン・インベストメンツは1983年、香港の不動産市場で負った10億ドルの負債を返済できず、破産した。
破産の余波で、マレーシアのビジネスマンがキャリーのずさんな融資を調査していた監査役を殺害した。裁判中、彼はタンが殺害を命じたと非難した。
1年後、タンの弁護士らは、詐欺罪で無罪になり、保釈金も無料と、政府の検察官を首尾よく「打ち負かした」とウオールストリートジャーナルは報じている。
キャリアンが解散した時、13億ドルの負債を抱えていたが、これは香港では過去最大の倒産だった。
1991年:世界最大の国際航空会社だったパンアメリカン航空が経営破綻。
Everything Pan Am
パンナムは、象徴的なキャビンアテンダントの制服と豪華な旅行でアメリカを代表するブランドだったが、景気低迷による旅行客の減少、湾岸危機後の燃料費高騰、270人の犠牲者を出したスコットランドでの爆破テロなどの影響で経営破綻した。
ロサンゼルス・タイムズは、この結果アメリカで7500人の雇用が失われ、「1950年代にジェット時代に導いた」アメリカのビジネスの象徴であった航空会社が倒産したと報じた。
1997年:ウールワースは、アメリカで400店舗を閉鎖し、9200人の雇用を失うと発表。
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アメリカとイギリスに展開していた量販店、ウールワース(Woolworths)は、「ドルショップ」というコンセプトを考案し、ユーザーが何かを必要としていなくても来店して店内を見て回ることを奨励した。
しかし、このチェーンの拡大はあまりに急速で、1920年にはイギリスで17日ごとに店舗をオープンした。1997年に2400万ドルの営業損失を計上したが、その年以降、アメリカ国内の400店舗を順次閉鎖し、イギリスの店舗は同国の小売チェーン、キングフィッシャー(Kingfisher)の一部となった。
2001年:テキサス州を拠点とするエネルギー企業エンロンが、長年にわたる不正会計と汚職の末に破産申請。
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かつて米国最大のエネルギー供給会社だったエンロンの経営陣は、会計を粉飾し、投資家に嘘をつくことで、数十億ドルもの企業債務を隠蔽した。その結果、何千人もの従業員が職と退職金を失った。
エンロンの破産は当時、アメリカ史上最大のものだった。
2006年、共同謀議、証券詐欺、インサイダー取引、監査役への虚偽でCEOのジェフリー・スキリング(Jeffrey Skilling)は有罪となった。彼は24年の禁固刑の判決を受けていたが、2019年初めに13年で刑期を終えて釈放された。
Source: Business Insider
2008年:リーマン・ブラザーズが連邦破産法第11条の適用を申請し、リーマン・ショックを引き起こした。
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サブプライムローン問題に関与した後、リーマン・ブラザーズの経営陣は退陣し、当時4位だった投資銀行は破産申請を行った。資産価値ベースで最大の倒産となり、ダウ平均は一日で500ポイント下落した。安全な投資先と考えられているマネーマーケット・ファンドの価格が1ドルを割り込んだのは史上2度目で、年末までに260万人以上のアメリカ人が職を失った。
連邦準備制度理事会(FRB)は保険大手のAIGを破産から救い、その他の救済措置に合計2兆2500億ドルを費やしたが、リーマン・ブラザーズは救済しなかった。ウォール街の「悪党」として知られる元CEOのディック・ファルドは、現在、富裕層向けの投資アドバイザーをしている。
2019年:イギリスの旅行会社トーマス・クックが倒産を発表、世界中で数十万人の旅行客が足止めされた。
破産発表後のトーマス・クックの旅行客。スペイン・マヨルカ空港。
REUTERS/Enrique Calvo
創業178年の旅行会社、トーマス・クックは9月23日、貸し手への緊急返済金として2億ポンド (約2億4900万ドル) を確保できなかったことから、破産を発表した。トーマス・クックの乗客に世界的な混乱をもたらし、数十万人が旅先に取り残された。
従業員らはソーシャルメディアを通じて職を失ったことに気付き、4万ドルのブライダルプランが台無しになり、ある男性はチュニジアのリゾート地でトーマス・クックがホテルに代金を支払うまで「人質にされた」と語った。
(翻訳、編集:Toshihiko Inoue)