1人のスウェーデンの16歳から始まった気候変動への行動は、9月20日、世界中に広まった。
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「気候問題に関するデモでは、過去最大です」
16歳の環境運動家グレタ・トゥンべリさんが9月20日、ニューヨークの公園でこう宣言すると、大歓声が起きた。ニューヨークやロンドン、ベルリン、東京ほか世界各地で行われた「グローバル気候マーチ(欧米ではClimate Strike)」は、気候関連では過去最大と米メディアも報道している。
デモを呼びかけたトゥンべリさんはスウェーデン出身。2018年8月にスウェーデン議会前で1回目の気候変動問題のための学校ストライキを行ったことで一躍有名になった。
トゥンべリさんの呼びかけに賛同した今回のデモの参加者は子どもと若者が中心で、ほかのデモの年齢層よりはるかに若く、一部の米企業や自治体も参加を支援した。環境運動の流れを変えて、弾みがつくとの期待が高まっている。
「これだけ大規模な若者の動きはなかった」
ニューヨークのデモに参加した小学生。
撮影:津山恵子
さらに9月23日には、トゥンベリさんを含む12カ国16人の子どもたちが原告となり、環境汚染大国としてドイツ、フランス、ブラジルなどが子どもの権利を侵害したとして裁判を起こした。
デモは、過去になかった広がりを見せている。
9月20日のデモの夜、トゥンベリさんはこうツイートした。
「163カ国で400万人が#Climatestrikeに参加し、まだ参加者数をカウントしています。私たちを脅威だと思っている少数派の人には、悪いニュースがあります。これは始まりにすぎません。変化は近づいています。好むとも好まざるとも」
アメリカのメディアもこう伝えた。
「過去最大の気候デモの可能性」(USA トゥデー)
「これだけ大規模で広範囲で、貧富の差を超えて、共通の、しかしまだ初期段階の怒りで結ばれた若者の運動を、現代の世界では滅多に見ることがなかった」(ニューヨーク・タイムズ)
約1年前、トゥンベリさんがたった1人で始めた抗議行動は世界約400万人の子どもや若者らを立ち上がらせた。以下は、トゥンベリさんのスピーチ内容とUSAトゥデー記事を参考にした各都市の参加者数だ。
- ニューヨーク 25万人
- メルボルン 10万人
- ベルリン 27万人
- ドイツ全体 150万人
- ロンドン 10万人
- 東京 5000人
東京都も含めて、生徒がデモ参加するために学校を休むのを許可しなかった自治体は少なくなかった。それでも高校生や大学生など若者を中心にこれだけの参加者がいたことは、歴史に残る。
NY市長は公立校を休みに
アマゾン本社では、社員が職業放棄してデモに参加した。
Reuters / Lindsey Wasson
こうした若者たちの動きは米企業や行政も動かした。
アメリカ最大の公教育システムを持つニューヨーク市のデブラシオ市長は、公立校の9月20日の授業を休みにし、生徒は親の同意書か大人の同伴があれば、デモに参加できるとした。この日、ニューヨークのダウンタウンでは、仕事を休めた親に連れられた児童や生徒であふれかえった。
また、持続可能な成長を目指すビジネスモデルを追求するスポーツ用品のバートン(Burton)などが、デモに連帯を示すため、ウェブサイトを1日シャットダウンしたり支援のメッセージを載せたりした。
ワシントン州シアトルに本社があるアマゾンでは、社員が職場放棄してデモに参加した。ニューヨーク・タイムズによると、同社と社員グループは2040年までに10万台の電気トラックを購入し、地球温暖化ガスの排出をゼロにすることで合意したばかり。さらに社員らはデモで、アマゾンのクラウドコンピューティング・サービスであるAWSをエネルギー企業に対し提供するのをやめることを会社に要求した。
環境運動家が子どもにとってのスター
気候行動サミットで、呼びかけ人のグレタ・トゥンベリさんは「空っぽの言葉でわたしの夢や子ども時代を盗んだ」と涙ながらに訴えた。
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これだけの広がりと過去最大のデモとされたのは、10代のトゥンベリさんのリーダーシップが同世代を刺激したためだ。
ニューヨークの公園で、ピンクのワンピースを着たトゥンベリさんがステージに立つと、炎天下で5時間に及んだマーチと集会で座り込んでいた子どもたちが一斉に立ち上がり、「グレタ、グレタ、グレタ」と叫んだ。集会後、地下鉄に向かったトゥンベリさんにも歓声が上がり、エスカレーターではなく階段を使う彼女を追いかけた。トゥンべリさんは子どもらにとってはスターであり、ロールモデルだ。
彼女の呼びかけが世界中に広がり、これだけの規模のデモに発展したのは、ソーシャルメディアのお陰だ。トゥンベリさんが学校を休んでデモに参加しようと呼びかけたメッセージは全世界に広がり、先進国だけでなく、多くの途上国の子どもたちも動かし、世界同時多発のデモを可能にした。
「私の将来はもう破壊されている」
「君ら大人は老衰で死ぬけど、僕は気候変動で死ぬだろう」という看板を作った小学生/ニューヨーク。
撮影:津山恵子
ニューヨークのデモで、子どもや若者が作ったプラカードには、切迫した言葉が並んでいた。
「将来のために勉強しろと言うが、私の将来はもう破壊されている」
「大人は老衰で死ぬけど、僕は気候変動で死ぬ」
「シロクマの気持ちになったことがあるか」
「地球を冷やして!」
さらにトゥンベリさんは9月23日、国連の「気候行動サミット」に参加した60カ国以上の首脳を前に、顔をしかめて厳しく糾弾した。
「なぜこんなことができるのですか?あなた方は、私の夢と子ども時代を、空虚な言葉で奪いました」
その中で、18歳以下の16人の子どもたちが原告となり、ドイツやフランス、ブラジルなど5つの環境汚染国家を国連の子どもの権利条約を犯したとして、訴訟を起こしたと発表した。ギズモードによると、最大の環境汚染国家であるアメリカと中国は、子どもの権利条約の一部を批准していないため、訴えを逃れた。
「私は大臣になったばかりです」
環境問題は「セクシー」であるべきと語った小泉進次郎環境相。具体的な政策がない、という批判も受けている。
Reuters / Issei Kato
こうした中、「気候行動サミット」のためニューヨーク入りした小泉進次郎環境相は、ステーキ店を訪れた。欧米では畜産業は環境汚染業界として批判が相次いでいる中、閣僚として国際舞台ではありえない失態だ。
9月22日の記者会見では、環境運動は「楽しく」「カッコよく」「セクシー」であるべきと発言。
ロイター通信によると、東京のグローバル環境マーチに参加した若者は、日本が火力発電に頼り、地球温暖化ガスの削減が進んでいないことを批判した。しかし、小泉氏は記者会見で、日本のパリ協定目標に対する姿勢も示さず、こう述べるに止まった。
海外メディア「どうやって二酸化炭素や火力発電を減らしますか?」
小泉環境相「私は先週大臣になったばかりです。スタッフと話し合っています」
23日の気候サミットではマクロン仏大統領、モディ・インド首相、ジョンソン英首相などが次々に登壇したが、小泉環境相は登壇の機会を得られなかった。また、日本は削減目標の前倒しなど具体的な政策変更も表明していない。
共和党支持者も気候変動に懸念
地球の気候変動により、アマゾンの植物、動物たちは悲鳴をあげている。
Reuters / Ueslei Marcelino
一方トランプ大統領は、「気候変動などない」と2016年の選挙戦を通して訴え、人類が気候変動を生み出しているという考えに懐疑的な保守派市民の支持を得た。2017年にはパリ協定からも脱退。ニューヨークで9月23日、60カ国以上の首脳を集めた「気候行動サミット」では、トランプ氏は14分だけ入場するにとどまった。
しかし、共和党員でも若い世代は、気候変動に懸念を示していることが分かった。Huffpost/YouGovが9月22日発表した調査結果によると、18歳〜45歳未満の共和党員の69%が「やや懸念している」と答えた。45歳以上では、38%にとどまった。
調査に応じた1000人のうち共和党員は52%、民主党員は88%が「やや、あるいはとても懸念している」と答えた。また、無党派層も入れた全体の61%の人が「アメリカは気候問題でリーダーシップを取るべき」と答え、「取るべきではない」と答えた20%を大きく上回った。
中国と並ぶ環境汚染国家のアメリカ、そして経済大国の日本の政界が、子どもや若者の声を注視していない様子が浮き彫りになっている。
(文・津山恵子)