トーマス・クック社は、世界で最も古く、最も名高い旅行代理店の1つだった。
Paul Hanna/Reuters
- トーマス・クック社は著名なイギリスの旅行代理店かつ航空会社だったが、9月23日(現地時間)に破産を申請した。
- 2億4900万ドルの資金の確保に失敗し、60万人とも言われる旅行客が足止めされた。同社は、世界で最も古く、最も名高い旅行代理店の1つだった。
- 同社の盛衰の歴史を見てみよう。
トーマス・クック社のサイトを訪れると、簡素な文章を目にする。
イギリスでの営業を直ちに終了し、今後のすべてのフライトと旅行はキャンセルとなります
イギリス最大の旅行代理店として178年の歴史を誇るトーマス・クック社は倒産を申請した。倒産により60万人とも言われる旅行者が足止めとなり、2万1000人の従業員が職を失った。
1841年までさかのぼり、同社の歴史を振り返ろう。
トーマス・クック(Thomas Cook)は19世紀のイギリス、レスターで、バプテスト教会の宣教師であり家具職人だった。彼は禁酒活動を行う一員でもあり、1841年に禁酒運動の大会を開いた。
イギリス、レスターにあるトーマス・クックの像。
Darren Staples/Reuters
トーマス・クックの最初のツアーは、禁酒活動の支援者をレスターからラフバラーまで列車で連れていく、約24kmの旅程だった。
トーマス・クックの像を見上げる女性。2019年9月23日、イギリス、レスター。
Darren Staples/Getty Images
クックは1841年、レスターにいる禁酒活動の支援者を、ラフバラーで開かれる禁酒活動の大会まで連れていくため、ミッドランド鉄道から列車を借りた。彼は485人の乗客に、1人あたり1シリングを請求した。
小旅行は、近郊で行われる他の禁酒活動や日曜学校への参加へと拡大していった。クックは1845年までにこれを商業化する魅力を認識し、リバプールまでの観光ツアーを企画、1200人が予約した。
イギリス、リバプールの街。
Flickr/Beverley Goodwin
ツアーの人気によって、クックは10年のうちにそのサービスを海外旅行まで拡大した。トーマス・クックの息子、ジョン・メイソン・クック(John Mason Cook)が1879年に事業を引き継ぎ、亡くなるまで20年間経営した。その後は彼の3人の息子が、事業を引き継いだ。
出典:Telegraph, CNN
飛行機の出現で、同社の事業内容や取り組みが変わった。
Enrique Calvo/Reuters
そのスローガン「ただ予約するのではなく、トーマス・クックへ!」によって、低予算旅行で誰もが知るブランドとなった。第二次世界大戦を経て国有化され、1900年代後半に再び民営化された後も。
2001年、トーマス・クックはドイツ最大の旅行会社と合併し、2003年にトーマス・クック・エアラインのサービスを開始した。
トーマス・クックは、低予算のパックツアーで知られていた。
トーマス・クックの飛行機。
Reuters
同社は、直近には年間2200万人の顧客と2万1000人以上の従業員を有していた。また550の店舗と4万室のホテル、105機の飛行機も所有していた。
同社はヨーロッパや北米、中東、アジアなど16カ国で事業を行っていた。
スペインのカナリア諸島。
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同社が2019年に発表した報告書によると、トーマス・クックで人気の旅行先はスペイン、トルコ、ギリシャ。パッケージのハイライトとして紹介された内容には、カナリア諸島のバナナ農園訪問やチュニジアでのローカルフード体験などがあった。
2018年の報告書では、最も人気のパッケージは自由にカスタマイズできる7~10泊のツアーだった。
同社は2011年に負債額が12億4000万ドル(約1335億円)に達し、ほぼ倒産状態となった。
Jerez de la Frontera/Reuters
最終的に1億ドル強の必要資金を確保して救済されたと、2011年にガーディアン(Guardian)が報じた。
だが2019年9月、2億4900万ドル(約268億円)の資金の確保に失敗し、9月23日、トーマス・クックは倒産を申請した。
Darrin Zammit Lupi/Reuters
トーマス・クックのブランドは、象徴的な存在としてイギリス人から尊敬された。ライバル企業のヴァージン・アトランティック航空の創業者、リチャード・ブランソン(Richard Branson)でさえ、ツイッターで同社の倒産について言及した。
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「トーマス・クックの倒産を知り、悲しい。178年間旅行ツアーを提供してきた企業だ」と、ブランソン氏は9月23日、ツイッターに投稿した。
出典:Virgin
トーマス・クックの倒産で60万人とも言われる旅行者が世界中の空港やホテルで足止めとなり、「平和な時代にイギリスで起きた最大の本国帰還作戦」とロイターが伝えた事態を引き起こした。また2万1000人の従業員が職を失った。
トーマス・クックが倒産した当日の朝、スペインのマヨルカ島の空港で過ごす同社の旅行者。
Enrique Calvo/Reuters
創業178年のこのブランドが何らかの形で存続するとすれば、予想される買い手は同社の最大株主である中国の複合企業、復星国際だけだ、とBBCは報じた。
(翻訳:Makiko Sato、編集:Toshihiko Inoue)