ファストファッション勝ち組のユニクロが目指す場所とは。
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ユニクロがサステイナビリティへの取り組みを進化させている。
親会社のファーストリテイリング・グループでは、国連と連携した難民支援や取引先工場の労働環境改善など「人権」の分野から緒につき、近年では「無駄なものをつくらない、運ばない、売らない」をことや、長く着られる商品を作ることなどをテーマに掲げてきた。
ダウンからダウンへ丸ごとリサイクルも
展覧会会場で公開された、エアリズムの体感の良さをイメージするインスタレーション。
ここにきてユニクロは本丸である商品分野で、地球環境に配慮した、持続可能性に貢献する服の開発を実現。リサイクル・ダウンと、リサイクル・ポリエステルを活用した商品を2020年から発売する。協業したのは、戦略的パートナーで、ヒートテックやドライなどでも実績のある東レだ。
ユニクロはこれまでも自社商品を中心とした古着の回収・リサイクルを行ってきたが、選別したものを難民や被災者支援などに活用する他は、燃料などとして活用してきた。今回のリサイクル・ダウンでは、店頭で回収した「ウルトラライトダウン」を取り出し、洗浄し、新商品の一部に使用する。
一般的には布団やダウンウエアなどの製品リサイクルは解体を手作業で行うが、ウルトラライトダウンは表地が薄く縫製も複雑なため、解体の難易度が高く、手作業では効率的な取り出しが困難だった。
これを、東レが新たに開発したウルトラライトダウン専用の分離機械を使い、ダウンの切断、攪拌(かくはん)分離、回収までを完全自動化させ、手作業に比べて約50倍の処理能力を実現。まずは2020年秋冬からリサイクル・ダウンを素材の一部に使用した商品を販売するが、将来的にはダウン商品からダウン商品へ、丸ごとリサイクルが可能になるかもしれない。
PETボトルなどから作られるリサイクル・ポリエステルは17年近く前から商品化され、最近ではサステイナビリティに注力している「アディダス」や「ナイキ」などでも使用されてきた。ただし、PETボトルには異物が混入しやすく、特殊な断面をもつ繊維や極細繊維などの生産は困難だった。PETボトルの劣化による黄ばみの問題もあった。
東レはこの不純物問題を克服し、リサイクル原料中の異物を除去する独自フィルタリング技術を確立。バージン素材と同様の特殊な断面や多様な繊維の製造を可能にした。
ドライEXはすでに大量生産の準備OK、価格も据え置き
ヒートテックの繊維をイメージしたデジタルアート、ライゾマによるものが、会場に設置された。
まずはユニクロの夏の主力商品で、超吸汗速乾と抗菌防臭の機能を有する「ドライEX」で使用。2020年春夏シーズンものから生産を開始する。
ユニクロは国内で8647億円、世界で1兆7610億円を売上げており、絞り込まれた商品を大量に生産・販売するビジネスモデルが特徴で、1アイテムの生産量はアパレルとしては世界ナンバーワン級だ。
「すでに安定的に大量生産できるめどがついており、状況を見ながら生産量を検討していく」(ユニクロ広報)。往々にしてサステイナブルな商品は価格が高くなりがちだが、「従来アイテムと変わらない価格で提供する」(同)というのもポイントだ。
スポンサー契約を結ぶテニスのロジャー・フェデラー選手や錦織圭選手、ゴルフのアダム・スコット選手らも着用する見通し。来夏に控えた東京オリンピック・パラリンピックでのスウェーデンチームの着用にも期待がかかる。
サステナ先進国のスウェーデン五輪代表に公式服提供
柳井正社長は「特にサステイナビリティは、今日のアパレル業界にとって重要なテーマ。一般の皆さまにお越しいただき、異なる視点からユニクロを再発見していただければ」とコメント。
ユニクロは2019年1月、スウェーデンのオリンピックチームとパラリンピックチームのメインオリンピックパートナーに就任。以来、同チームは国際試合でユニクロのアパレルを公式服として着用している。
とくに北欧・スウェーデンでは持続可能性に対する意識が高く、ユニクロもサステイナブル・ラインを増やして対応する。今回、東レと開発するPETボトル由来のリサイクル・ポリエステル製の「ドライEX」についても2020年からスウェーデンのアスリートに提供する。
ちなみに綿製品は、サステイナブルなコットンの生産を目指すNGOのベターコットンイニシアチブ(BCI)の認定素材を使用。レインウエアについては、すでに販売中の耐雨性商品と同様、フッ素系化合物を含まない環境に配慮したアイテムを提供する。
「スウェーデンのアスリートに持続可能なアイテムを提供するユニクロの取り組みは、サステイナビリティの推進における重要なマイルストーンだ。より持続可能性の範囲を拡大し続ける」とユニクロ。
サステイナブルゾーンを初めて設置。持続可能な成長を実現するための世界的な枠組み作りに参加する国連グローバル・コンパクト(UNGC)や、リサイクル・ダウンやリサイクル・ポリエステルによる商品開発も発表した。
今回のサステイナビリティにまつわる新ニュースを発表したのは、ロンドン・ファッション・ウィーク中の9月中旬、ユニクロのコンセプトであるライフウエアを訴求する大規模展覧会「ザ・アート&サイエンス・オブ・ライフウエア:ニューフォーム・フォローズ・ファンクション」でのことだ。「ザ・アート&サイエンス」は2017年のニューヨーク、2018年のパリに続く3回目。
ロンドンはユニクロが2001年に海外初進出した場所。サステイナビリティに意識の高いヨーロッパで、柳井正ファーストリテイリング社長と日覺(にっかく)昭廣東レ社長がそろって発表したことで、世界に対してポジティブに印象付けられたのも大きな成果だ。
2020年までに店頭プラスチック包装を85%削減
なお、ファストリは2018年秋冬商品からリアルファーの使用を禁止(ユニクロは2005年〜)。2020年までに店頭での使い捨てプラスチック包装を85%削減する。9月から全世界のグループブランド3500店舗でショッピングバッグを環境配慮型紙製に順次切り替えている最中だ。
また、2020年までにアンゴラヤギの毛「モヘア」の使用を禁止。同年までにダウン商品の生産に携わるすべての取引先縫製工場がRDS(Responsible Down Standard)の認証を取得することを目指す。さらに、2025年末までにサステイナブルなコットンの調達比率100%達成を目標としている。
(文・松下久美、写真は全てユニクロ提供)
松下久美:ファッションビジネス・ジャーナリスト、クミコム代表。「日本繊維新聞」の小売り・流通記者、「WWDジャパン」の編集記者、デスク、シニアエディターとして、20年以上ファッション企業の経営や戦略などを取材・執筆。2017年に独立。著書に『ユニクロ進化論』。