日本各地からアクセスはあるものの、採寸をするリアル店舗がない地域は売り上げがのびづらい。3年半かけて16店舗にしたリアル店舗をこの1年で30店舗まで倍増させ、さらなる事業拡大を計画している。
撮影:伊藤有
オンラインのオーダースーツを展開するECブランド、FABRIC TOKYO(ファブリック トウキョウ)は、サブスクリプション(月額課金)型のビジネスに参入し、リアル店舗も2020年9月までに全国主要都市30店舗へと倍増させる。また2020年以降、社内に海外展開専門部署もつくり、アジア・北米地域をターゲットに世界展開もにらむ。
9月26日、都内で開かれた2020年に向けた新事業戦略発表会で、森雄一郎社長が明らかにした。
国内アパレル業界で頭角を表す「D2Cブランド」
アパレルの同業他社に対し、坪あたりの売り上げは、最も業績のよい新宿店で3倍超の月100万円超。そのほかの店舗でも、概ね8割程度の売り上げがある、森氏。リアル店舗の効率の良さに自信を見せる。
撮影:伊藤有
FABRIC TOKYOは2012年に設立。都市圏に展開するリアル店舗で採寸し、スマホなどから手軽にフルオーダーのスーツやシャツが買えるビジネスモデルで、ここ3年ほどで急速に存在感を示してきた。
Forever21の日本撤退に象徴されるように、アパレル業界は大量生産大量消費のファストファッションの時代から、変わり目に差し掛かっている。そんな中、FABRIC TOKYOのビジネスは好調に伸びているという。
データドリブンでリアル店舗、アプリ、デジタルマーケティング、独自商品のECを活用しながらビジネスを高速に最適化(PDCAをまわす)する「D2C(Direct to Consumer)」業態の特徴を活かして、「(今期含め)3期連続で売上高は3倍を達成する見込み」(森社長)と、売上高の具体値は非公表ながら、ビジネスの堅調さに胸を張る。
これまでの資金調達額は累計25億円。出資者の顔ぶれには、大手ベンチャーキャピタルのほか、デパート大手の丸井グループも名を連ねる。
「D2Cビジネスの先」の目標として、アパレル小売りをサービス化していく「RaaS(Retail as a Sevice)」にしていくと宣言。
撮影:伊藤有
森氏は、これまで進めてきたD2Cブランドとしての事業モデルを進展させる形で、2020年に向けた事業戦略として、「(FABRIC TOKYOを)物販の会社からRaaSに進化」させるとした。
新事業戦略で発表した計画のなかで、戦略上大きな発表は3つある。
1. 洋服をサポートするサブスクリプションの開始
サブスクリプションサービスの名称は「FABRIC TOKYO HUDRED」。発表会当日から会員向けにサービスを開始した。
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その1つがサブスクリプション型の事業モデルへの参入だ。
「既存顧客の体験を深める」意味あいが強いサービスで、まず月額398円で購入した服を何度でもサイズ直しをしてくれるなどの「洋服の保証サポート」から開始する。
サブスクリプションのサービス展開イメージ。服そのものは従来どおりのオーダー販売。そのタッチポイント(節点)を「次に買ってもらうとき」から、「毎月」へと頻度を増やすという目的がある。
撮影:伊藤有
「お直しに月額課金」は使ったことがない人にはイメージしづらいが、実際のユーザーからの実店舗やオンラインでのフィードバックから、「明確なニーズがあると判断」(森氏)して、開始した。今後は、コーディネーターなどによる「日々の着こなしサポート」や「クリーニング・保管サポート」なども順次開始していく見込みだ。
2. 縫製工場をIT化する「スマートファクトリー」稼働開始
10月から稼働を開始するスマートファクトリー。厳密には、FABRIC TOKYO向けの製造ラインのみを、まずITの知見を導入したスマートファクトリー化する。縫製工場の所在地は「西日本」とだけ明かされている。
撮影:伊藤有
2つめは非常にユニーク。FABRIC TOKYOがプロデュースし、オーダー製造を行う縫製工場と協力して実現した「スマートファクトリー」の稼働だ。
IT化が進まない国内縫製工場に協力し、オーダーのプロセスなどをIT化し、ユーザーがオーダーした服がどこまで製造が進んでいるのかをアプリから「見える化」していく。
スマートファクトリーがビジネスにどう寄与するかの解説。この仕組み自体をFABRIC TOKYOの知財とし、B2Bビジネスとして他の縫製工場にも広げていく計画だ。
撮影:伊藤有
さらにゆくゆくは、このスマートファクトリーのモデル自体をFABRIC TOKYOの「知財」として他の工場に展開していくという。
3. 廃棄した服から服を生み出す「サーキュラーエコノミー」
日本環境設計との提携で、回収からリサイクル素材の生地化(アップサイクル生地と呼んでいる)を行う。実際に自社製品への採用も進める。
撮影:伊藤有
3つめは、アパレル業界が抱える「大量廃棄」問題を解決し、廃棄した服から服を生産する「サーキュラーエコノミー」の構築。これは日本環境設計と提携し、他社製も含めた回収衣服から再生生地(アップサイクル生地)を再生成し、FABRIC TOKYOの製品の素材に採用していくというものだ。
2023年以降、すべての自社の洋服にこうしたサステナブル素材を使う方針だという。
サーキュラーエコノミーを事業に取り入れていくロードマップ。
撮影:伊藤有
体型を3Dスキャンし、オーダーメイドのデニムを買える、無人店舗型の新業態「STAMP」も正式発表。10月から一般受付をはじめる見込みだ。
撮影:伊藤有
また、次世代アパレル×テックブランドとして、新宿マルイ本館1階で完全招待制のポップアップストアを展開していた無人店舗型のオーダーデニム「STAMP」も同戦略発表の場で正式発表。10月に正式開始予定とする。
現在はベータテスト的に一部の先行体験者向けに無償提供しているが、正式開始時点ではオーダーデニム販売価格も公開する。
D2Cブランドが縫製工場も変える
FABRIC TOKYOが定義する「D2C」の説明。
撮影:伊藤有
「小売り崩壊」先進国のアメリカでは大成功を収めるD2Cブランドが複数誕生。創業10年未満で年商数百億円のビジネスを生み出したD2Cベンチャーもある。
今回の発表の中で、ベンチャーと産業界の動きとして注目したいのが縫製工場の「スマートファクトリー化」だ。
森氏によると、取り組みの発端はFABRIC TOKYOが取引先の縫製工場向けに、スーツの採寸データをデジタルで直送できるシステムを手がけたことがきっかけだったという。
縫製工場はよくも悪くも昔ながらの体質が色濃く残る業界。IT化したくても知見が少なく、また設備投資も難しいといった側面がある。
そこに、デジタルマーケティングに強くエンジニアも抱える「新興アパレル企業」であるFABRIC TOKYOが協力した。FABRIC TOKYOとの取引が大きくなるにつれ、縫製工場自身の「効率化」の課題解決と、サービスのユーザー体験の向上を目的としたプロセス自体のIT化に取り組んだわけだ。
発表会場に展示されたFABRIC TOKYOの製品。
撮影:伊藤有
2019年10月に初の稼働開始になる「西日本のある縫製工場」(詳細は現時点では非公開)では、当初FABRIC TOKYO向けの製造ラインのみをスマートファクトリー化する。ゆくゆくは工場1つが丸ごと、FABRIC TOKYO向けの製造工場になる見込みだ。
資本業務提携を結び、10億円規模の出資をしているとも報道されるデパート大手の丸井グループ。発表後半のトークセッションでは、丸井グループの青井浩代表も登壇(中央)。両社の親密ぶりを感じる一コマだ。
撮影:伊藤有
森氏はスマートファクトリー化によって、オーダー服の納期を現在の4〜5週間から、最短で2週間程度まで半減させることを目標にしている。これまでのアナログな作業では難しかった、「リードタイムにおけるボトルネックの解消」と「需要予測」を納期短縮の原資としているため、比較的現実的な目標であるようだ。
FABRIC TOKYOでは今後、この事業モデルを自社の知財にし、工場向けのB2Bビジネスとして展開していく方針だ。
(文、写真・伊藤有)