悪化する「子連れヘイト」。駅でベビーカーを蹴られ、SNSの#放置子#道路族で追い詰められる母親たち

先日、母親が抱っこひもをはずされるのを目撃したというツイートが大きな話題を呼んだ。

他にも「ベビーカーを蹴られた」「怒鳴られた」など、子連れの外出で危険な目にあう母親たちは多い。

電車に「子育て応援車両」を導入する活動をしている平本沙織さんもその1人だ。こうした現実と呼応するかのように、「#子連れ様」などネットにはさまざまなハッシュタグができ、子育て中の母親たちを追い詰めている。

9割が子連れでの電車移動に「危険」

子育て応援車両

平本沙織さん(写真右)と、子育て応援スペースを視察する小池百合子・東京都知事(左)。

提供:子どもの安全な移動を考えるパートナーズ

2019年7月、東京都は都営地下鉄大江戸線の一部の車両に「子育て応援スペース」を導入した。壁一面に「きかんしゃトーマス」が描かれており、通勤ラッシュの時間帯でも、子ども連れやベビーカーでも気兼ねなく利用してもらうのが目的だ。

導入を訴えたのは、子どもが安全に移動できる公共交通機関を求める団体「子どもの安全な移動を考えるパートナーズ」だ。団体が0〜15 歳までの子どもを持つ保護者1000人超を対象にアンケートを行ったところ、9割以上が子どもが電車や地下鉄を利用している際に危険を感じていたことが分かった。

メンバーは、2月に小池百合子東京都知事に面会。要望書を手渡し、子育て応援車両の実現にこぎつけた。

しかし、団体発起人の平本沙織さんには、活動を始めた当時からネットでの誹謗中傷や脅迫が相次いでいるという。そもそも平本さんが団体を立ち上げたのは、以下のツイートがきっかけだった。

私も何度も声を上げた。忘れもしない小田急線で。千代田線で。この時間にベビーカーで乗るなと野次があったから思わず『抱っこ紐だったら子ども死んでるわ!ベビーカーも歪むのに。一番大きいので来て正解』って言ってしまった。無言の車内。そのあと引っ越したけど本当に胸糞悪い」

クソリプ260超。満員電車にベビーカーは非常識?

電車

撮影:今村拓馬

これは「さっき満員電車の中で、ある母親の声が何度も聞こえてきた。赤ちゃんいます。押さないでください。赤ちゃんいます。押さないでください。何度も、何度もだ。それでもさらに乗り込む乗客たち。上がる車内の人口密度。『子育て専用車両』が必要ではないかと感じた」という男性のツイートに対し、平本さん自身のつらい体験をつづったものだ。

1万回以上リツイートされた一方で、多くのバッシングや誹謗中傷が寄せられたという。

「満員電車にベビーカーで乗るなんて非常識だ」

「子どもを危険にさらしている」

「車・タクシーを使え」

「電車に乗らずに保育園に通える場所に引っ越せ」

「母親のくせに言葉使いが悪い」

など「260を超えるクソリプがあって、全てに目を通しました」と平本さんは言う。

中には、平本さんと同じような体験をした保護者たちから「自分も我慢したのに」という意見もあったそうだ。

これが「子連れヘイト」じゃなければ何なのか

ベビーカー

撮影:今村拓馬

平本さんは夫婦で起業している。自営業のため保活の条件が厳しく、やっと入れた保育園は、自宅最寄駅から4駅離れた場所にあった。

「ベビーカーで電車に乗るなというのは、私に自分で待機児童問題を解決しろと言うようなもの」(平本さん)と憤る。

「どんな場所に住むかは私の自由ですし、タクシーなんて言われなくとも月に数万円単位で使ってます。雨の日はほとんど、つかまらないし、ウーバーのレートは倍に跳ね上がるしで、本当に大変です。

それでも都内で車を持つ経済的な負担に比べたら軽い。仮に車で通うとしても、どこに車を停めるのかとか、また違った面倒が出てきます。

言葉使いを注意する人は、母親は礼儀正しくあるべきという価値観なんでしょう。結局どれも『文句を言わずに黙ってろ』と言いたいだけですよね。調べてみると、2000年以降、何度もベビーカーへのバッシングが起きている。私は絶対に泣き寝入りしないぞと、団体を立ち上げました」(平本さん)

平本沙織さん

平本沙織さん。株式会社wip 取締役 。子連れ100人カイギ 実行委員長も務める。

撮影:竹下郁子

しかし団体を立ち上げ、子ども連れでの公共交通機関の利用に関するアンケート調査を開始した頃から、Twitterを中心に平本さん個人への誹謗中傷が始まった。さらに7月に子育て応援車両の運行が開始されたことが報道などで広まると、被害はより深刻になっていったそうだ。

「子持ち様」「特権車両」など子育て応援車両への揶揄(やゆ)、平本さんや平本さんの夫、子どもの容姿などへの中傷、脅迫もあった。こうしたバッシングのツイートには、平本さんたち家族の写真が載せてあることも。

「私の名前のハッシュタグを作り、しつこく中傷を続けているアカウントもあります。自分が被害にあうようになって気づいたのですが、『#放置子』や『#道路族』などで、偶然見かけた他人の子育ての風景、普通に外で遊ばせているようなシーンを写真に撮ってネットに晒す人たちがたくさんいることを知って、驚きました。

『#反出生主義』という、自分が生まれてきたことを恨むあまりに、子育て中の他人を“無責任”だと攻撃する人たちもいます。これがヘイトでなければなんなのか。子育てに対する日本社会の憎悪はあまりにも酷いです」(平本さん)

Twitter社はなぜ誹謗中傷を放置するのか

街

撮影:今村拓馬

その後、平本さんがいくつかの悪質な中傷が掲載されていたまとめサイトやブログに抗議をしたところ、ページはすぐに削除されたそうだ。

一方で、同様のツイートをTwitter社に報告しても「ルール違反に該当しない」という回答も多く、代わりにブロックやミュートを推奨されることが続いている。

「私は1500以上のアカウントをブロックやミュートしていますが、たとえ自分のアカウントから見えなくとも私への攻撃を続ける人たちは数多くいて、根本的な解決になっていません。ネットでの子連れヘイトを野放しにしていることが、現実の被害にもつながっていると思います」(平本さん)

平本さんは冒頭のツイートのように、ベビーカーで朝の通勤時間帯の電車に乗り込もうとして「こんな時間にベビーカーで乗るなよ」と怒鳴られたことがある。他にも、駅でベビーカーを押していたら後ろから蹴られたり、「邪魔なんだよ」と舌打ちされたことも。エレベーターに乗ろうとしているのに扉を閉められたり、乗ったものの「ベビーカーで乗るな」と声を荒げられたこともあったそうだ。

平本さんが立ち上げた団体「子どもの安全な移動を考えるパートナーズ」の調査にも、同様の被害の声が複数寄せられている。

パパや金髪・サングラスのママは被害にあわないワケ

平本沙織さん

撮影:竹下郁子

平本さんはネットでも現実でも、子連れヘイトの根底には女性差別があるのではないかという。平本さんにネットで攻撃するアカウントは、女性専用車両にも反対している人が多く、現実で暴言や蹴られるなどの被害を受けたのは、中高年の男性からだった。そして被害にあうのは決まって、平本さんと子ども2人きりのときだ。

困り果てた平本さんは、髪を金色に染め、サングラスをかけた。案の定、現実で被害にあうことはなくなったそうだ。

「夫に相談すると『トラブル多すぎじゃない? 俺はそんなことないけど』と言われ……。同じ子どもを育てる夫婦なのに、それを受け止める社会の反応がこんなにも違うことに、打ちのめされます。見た目を変えるだけで解決するのも、本当に何なんだろうって。

結局、父親や強そうな母親はターゲットにならないわけです。子連れヘイトは、女性や母親を叩きたくて仕方ない人が、その理由を探しているだけだと思います」(平本さん)

平本さんはTwitterでの被害を弁護士や法務省・人権擁護局、警察に相談している。警察からは自宅付近の巡回警備などを強化すると言われたそうだ。

今後は大江戸線以外にも子育て応援車両を広げるよう、活動を続けていく。中傷や脅迫にひるむつもりは無い。

「電車にベビーカーで乗りたいと主張すると『優遇しろというのはおかしい』『みんなの迷惑を考えろ』という人がいます。その“みんな”に子連れは含まれていないということ。“公共”をどう考えているのでしょうか。また、日本の駅は子連れで移動するには不便なところが多く、優遇ではなくマイナスの現状を少しでも埋めて欲しいだけです。

活動を始めて、子どもと外出することを不安に思っている母親がどれだけいるか、思い知りました。『肩身の狭い思いをする必要ない』『もっと怒っていい』と伝えるために、これからも声を上げていきます」(平本さん)

(文・竹下郁子

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