「本当に帰ってる!」内定者もビックリ。味の素は4時30分退社で採用も有利に

午後4時30分終業という、日本企業としては極めて早い「定時」を設けた食品メーカー、味の素。

2017年4月の制度導入をきっかけに、テレワークの普及や本社デスクのフリーアドレス化、ペーパーレス化など、職場の様子も社員の働き方も大きく変化した。

一方で、労働時間の削減を目標に掲げることの、限界や課題も見えつつある。

リモートで出社社員減る

リモートワーク

4時半定時、という働き方はリモートワークやフレックスタイムの導入も相まって定着したという(写真はイメージです)。

Shutterstock/ Alones

同社は2017年4月、午前8時45分~午後5時20分だった本社の就業時間を20分減らした上で前倒しし、午前8時15分~午後4時30分とした。さらに2015年度に年間1976時間だった総労働時間を、2019年度には1800時間まで削ることを目標に掲げた。

同時に、テレワークなど働く時間と場所のルールを大幅に緩和した。

同社もかつては他の多くの企業と同様、出社したらまず喫煙室で一服、やおら仕事を初めて午後9時頃に仕事が終わり、みんなで飲みに行く……といった気風が残っていたという。

制度導入から2年が過ぎ、オフィス内は大きく変わった。

本社では、約4分の3の社員が午後6時前に退社。フレックスタイムやリモートワークを使う人が増えた結果、出社する人数が減り、「在館チェックそのものの意味が薄れている」(人事部労政グループの福永貴昭マネージャー)ほどだ。

デスクのフリーアドレス化によって、隣で働く人の顔ぶれも日々異なる。

入れ子の「ワークライフミックス」

味の素

古賀さん(右)は、4時半定時になって、夕方から夜の時間が充実したという。左は福永さん。

撮影:有馬知子

同社グローバル人事部の古賀吉晃氏は、「一番大きな変化は、『夕方』の時間が生まれたこと」と話す。

例えば以前は、退社後に英会話スクールなどに通うと、帰宅は午後9時以降になることも多く、家族と過ごす時間などを犠牲にする必要があった。

だが定時が繰り上がってからは「夕方、習い事やスポーツジムに行き、夜は家族と過ごすなど、仕事の後に2つのイベントを入れられるようになった」という。

実際、古賀氏は「夕方」の時間を利用して、終業後に若手社員を集めた自主的な勉強会などを開いている。

育児のために在宅勤務も駆使している。午前6時に起きて7時半まで仕事をし、朝食後に3歳の娘を保育園へ送る。午前9時半ごろ出社、午後5時半~6時に帰宅して家族と夕食を共にする。娘が寝た後の午後9時以降、必要ならまた仕事をすることもある。

「ワークライフバランス(WLB)というより、仕事と育児・家事を『入れ子』にする『ワークライフミックス』という方が当たっている。『夜も家族そろって食事ができるのがいいね』と、妻も喜んでいる」(古賀氏)

娘が急に熱を出した時も、病院へ連れて行くのはたいてい古賀氏。「妻は看護師で、勤務先を途中で抜け出すのは難しい。僕は娘を看病しながら、自宅で仕事もできる」からだ。

「本当に帰ってる!」驚く内定者

就活

4時30分定時は内定者の辞退率低下にもつながっているという(写真はイメージです)。

撮影:今村拓馬

同社の2018年度の総労働時間はリモート勤務も含めて1820時間に減り、目標達成まであと一歩のところまで来た。会社側はリモート勤務の際、社員に貸与したパソコンのログイン状況を把握し、労働時間を管理しているという。

労働時間を減らすため、交通費の紙精算など400余りの業務も「仕分け」した。

本社では、「オフィスに書類があるから、出社せざるを得ない」という事態を避けるため、社員が保管できる書類の量をボックス4個分に制限。紙の印刷量が1年間で約3割減った。メールよりも手軽に意思疎通ができる、チャットツールの導入も進めている。

さらに福永氏は「『4時30分退社』のインパクトは、採用でもポジティブに働いている」という。

2018年に内定を得たある学生は、「味の素の社員は、本当にそんなに早く帰っているのか?」と疑問を抱き、本社前で「張り込み」を決行。夕方、社員が続々と帰宅する様子に「本当に帰っている!」と驚き、他社を断って入社した。

味の素は2018年、50人程度に内定を出したが、「内定辞退率はそれ以前に比べて、明らかに低下した」(福永氏)という。

ミレニアル世代は事業を通じて社会貢献をすることや、適正な働き方、働きがいなどを年収よりも重視する傾向が強い。特に女子学生の多くは企業を選ぶ際、結婚・出産などのライフイベントを経て、長く働ける会社であることを重視している。

2019年7月まで、人事で採用を担当していた福永氏は「近年、勤務時間や働きやすさを、面接で正直に質問する学生が増えた」と話す。

一方、現場にいる古賀氏によると、働く時間が短い分、就業時間内の仕事の密度は高まり、忙しくなったという。「早く帰宅できる、WLBが充実しているといっても、決して日常の仕事が楽なわけでないことを、学生は肝に銘じてほしい」とくぎを刺す。

課題は成長への意識とコミュニケーション

夜のオフィス街

労働時間の削減が成長の阻害要因となれば、本末転倒だ(写真はイメージです)。

撮影:今村拓馬

ただ、2年経って見えてきた課題もある。「1800時間」の目標達成ありきで、成長に対する社員の意識が鈍っているのではないか、との懸念だ。

同社は制度導入時、2020年度に総労働時間を1750時間へ抑制する目標も掲げていたが、現在は撤廃している。

「海外の競合他社は、我々より生産性が高い仕事をしている。『1800時間』が達成できても、企業や社員個人の成長が停滞しては本末転倒だ。社員一人ひとりが、やるべきことはまだたくさんあるという危機感を共有する必要がある」(福永氏)

想定外のトラブルなどで、職場が「修羅場」になることもある。それなりの時間、仕事に打ち込むことが、若手のスキルアップには有効なこともある。福永氏は「社員には、業務の量や内容に応じて労働時間にメリハリをつけ、成長につながる仕事をしてほしい」と話す。

一方、リモートワークを推進している企業での共通の課題が社員間のコミュニケーションだ。

味の素でも働く時間と場所が多様化する中、社員間の十分なコミュニケーションをどう確保するかが重要な課題になってきているという。

フリーアドレス化や在宅勤務の導入で、上司や同僚と顔を合わせる機会が減り、「口頭で話したい場合は、相手の1、2週間先の予定をあらかじめ把握し、話すべきことを前もって準備する」(古賀氏)といった工夫が必要になった。

働き方改革を始めた当初は、ベテラン社員を中心に「喫煙室や飲み会も、仕事のヒントを得る場の一つだ」といった声もあったという。

古賀氏も「リアルでの接触が減ることで、何気ない会話から生まれる予想外の発想や発見が失われるという、悩ましさもある」と認める。

ただ対面の意見交換を重視しすぎると、職場全体が長時間労働に逆戻りしかねない。非喫煙者や、飲み会に参加できないワーキングマザーらが情報から疎外される弊害もある。

古賀氏は「若手も飲み会が嫌いなわけではないが、毎日同じ部署の同僚と飲むよりは、社内外の多様なコミュニティーに参加したい人が増えている」と話す。その上で、コミュニケーションの在り方について、「普段はチャットツールやSNSで緩くつながり、時折会う時『意識的に』話すというやり方が、現時点ではベストではないか」と提案している。

(文・有馬知子)

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