撮影:伊藤有
電気通信事業法改正を見据え、携帯大手3社は法改正に対応した新料金プランを相次いで打ち出している。
だが、本当に新料金プランの投入によって料金は安くなったのか? 発売されたばかりの新iPhoneの端末・通信料金をさまざまな角度から比較しつつ、その実態に迫ってみよう。
ドコモ、KDDI、ソフトバンク3社の“端末購入プログラム”の違い
Apple Storeでも独自の下取りプログラムを用意している。
撮影:伊藤有
2019年10月に実施される電気通信事業法の改正によって、スマートフォンの大幅な値引きと、2年間などの「期間拘束を前提とした割り引き」に大きな規制がかけられる。
いま、国内で最も人気のiPhoneシリーズを使う場合の負担はどれくらいになるのか? そこで、9月20日に発売された新機種「iPhone 11」「iPhone 11 Pro」「iPhone 11 Pro Max」を購入した場合に、法改正に対応した携帯大手3社の新料金プランで利用した時の料金を比べてみた。
まず、3社の新iPhoneの価格について、最も安価な64GBモデルをベースに確認する。
大手キャリア3社は法改正に合わせて、高額なスマートフォンを購入しやすくする、いわゆる「端末購入プログラム」をリニューアルした。
NTTドコモは端末を36カ月の割賦で購入し、端末を返却すると12カ月分の残債支払いが不要になる「スマホおかえしプログラム」を新たに導入。KDDI、ソフトバンクも従来のプログラムをリニューアルし、「アップグレードプログラムDX」「半額サポート+」(※)を新たに提供している。
NTTドコモは法改正に合わせて端末購入プログラム「スマホおかえしプログラム」を導入。最初の契約時以外は、通信契約に紐づかない内容となっている。
撮影:佐野正弘
NTTドコモの「スマホおかえしプログラム」は、最初の契約時以外、通信契約に紐づかないこと、KDDIの「アップグレードプログラムDX」とソフトバンクの「半額サポート+」は通信契約に一切紐づかない“物販のプログラム”とすることで、法改正に対応した。
ただし、KDDIとソフトバンクの2つは、販売する端末にSIMロックがかけられており、100日間は解除できない仕組みで、実質的に他社ユーザーが利用するメリットのない、KDDIとソフトバンク専用のプログラムだという指摘もある。
縛りは実質維持、iPhone一括購入なら「アップル直販」が安い
これらのプログラムを適用し、25カ月目で端末を返却した場合の新iPhoneの料金はどの程度となるのか。
執筆時点(2019年9月30日)ではKDDIのみ、新プログラム「アップグレードプログラムDX」での販売価格が明記されていないため、今回は従来の「アップグレードプログラムEX」の価格を記載している。
ただし、新プログラムに移行しても仕組みそのものはさほど変わらないため、大きな価格変動はないと考えられる。価格はすべて税抜き、端数は四捨五入した値を掲載している(以下同様)。
各社の価格は上表の通りだが、実質負担金だけを見るとKDDIが最も安価。NTTドコモはやや高めの設定となり、iPhone 11 Pro Maxでは1万円以上の差がついている。
しかし、それより注目すべきは、Apple直販サイトと比べたときの差だ。一括払いの端末価格を見ると、3社ともにApple直販価格より5000円から、最大で2万円以上値段が高いのだ。
この価格設定には、「端末購入プログラムに誘導したい」という3社の思惑が見え隠れするようにも感じる。
進む大容量プランの充実、中容量は冷遇
では、通信料金と合算した場合の維持費はどうだろう。
今回発表された新料金プランについて、データ通信量が最も少ない1GB、中間の容量(5~7GB程度)、最大容量のプランの3つをベースに、24カ月間利用し続けた場合の料金を計算してみた。
いずれのプランも、キャンペーンなどの各種割引は考慮していないが、2年契約を前提とした料金の割引だけは「あり」で計算している。このため、2年契約を撤廃したソフトバンクが若干不利となる点はご了承いただきたい。
その結果は上の通りだが、見比べてみるとデータ通信量が小容量のプランはKDDIが安く、中~大容量プランでは端末代が最も高かったNTTドコモが、逆に最も安いという結果になった。
ただし、中容量のプランはKDDIが7GBで他社は5GB未満の場合であること、大容量のプランはNTTドコモが30GB、ソフトバンクが50GB、KDDIが無制限と、データ通信量の上限に差があるため、一律に比較するのは難しい。
「4割値下げ」は実現されたのか
次に、これらの料金が1年前と比べて、どの程度安くなったのかを確認してみよう。
2019年の新料金プランとiPhone 11 Pro(64GB)の合計を、実質的な前機種となる「iPhone XS(64GB)」の2018年の発売当時の価格と、当時の料金プランとを合計し、比較した結果が下表だ。
2018年の発売当初における、携帯3社及びApple直販サイトの「iPhone XS(64GB)」の価格。
これを見ると、NTTドコモは「ギガホ」「ギガライト」で料金を引き下げたことで、およそ2~5万円ほど下がっていることが分かる。また、ソフトバンクは料金プラン自体ほぼ変化がなく、一律で微減となった。
KDDIは大容量プランで2018年より割高になっているように見えるが、この理由は2018年の「auフラットプラン25 Netflixプラン」と2019年の「auフラットプラン25 NetflixパックN」との比較ではなく、2019年は「auデータMAXプランPro」との比較になっているため。その年で最も高くて大容量のプラン同士を比較しているため、結果的にこうなっている(そのため参考としている)。
データ通信量が7GBで、一部SNS利用時は通信量をカウントしない「auフラットプラン7プラス」(2019年10月以降は「auフラットプラン7プラスN」を提供)は、大手3社で唯一の中容量ユーザー向けプランだ。
撮影:佐野正弘
料金は下落傾向も「乗り換え意欲」とまではならない?
撮影:今村拓馬
一連の比較結果から見ると、新料金プランで大容量を中心とした「プランの充実」が図られるなどして、以前より料金が下落傾向にあることは確かだ。しかし、結局、「3社間で大きな差がつくには至っていない」というのが率直な印象だ。
もう1つ、今回の比較から、毎月の通信量が5~10GB程度という、中容量のユーザー向け料金プランを提供しているのが、KDDIだけになったという事実もある(比較では苦肉の策として、他の2社は段階制プランを比較対象にした。ただ、いずれも5GB超では大容量プランに匹敵する料金になるため、現実的な選択肢ではない)。
こうした傾向の理由は、
「料金プラン自体をシンプルにしたい」
「大容量の上位プランを安くし、充実を図ることで中容量ユーザーのアップセルを図りたい」
……といったことにあると、これまでの各社への取材で筆者は確認している。
だが、そうした大容量プラン優遇の姿勢によって、「動画は見ないけれど、そこそこデータ通信はする」という人たちの選択肢がなくなり、支払う料金が安くならないと感じる一因となっている側面はありそうだ。
10月からの楽天の「キャリア参入」がスモールスタートすることで、通信業界へのインパクトは薄れた。総務省が狙ったとおりの“4割値下げ”は、正直なところ「まだ道半ば」……というのが今の現実ではないか。
(文・佐野正弘)
佐野正弘:携帯電話ライター。デジタルコンテンツ・エンジニアを経て、現在では携帯電話・モバイルに関する執筆を中心に活動中。