「世界を変えたいという思いでつながっている、クリエイティブで企業家精神にあふれた才能ある人たちのコミュニティに参加できる。その影響は計り知れません」と、スタンフォードGSBの卒業生で、高級ハンドバッグ販売を手がけるSenreveのコーラル・チャンCEO。
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MBAプログラムを受講する人たちは、授業を受けて学ぶことで、よりスマートで利口になり、リーダーシップやマネジメント、ファイナンスやマーケティングの見識をあふれんばかりに吸収できるようになると期待する。
しかしビジネススクールの経験とは、教授から教わることだけではない。
Insiderは、ハーバードとスタンフォードのビジネススクール卒業生に、在学して最も重要と感じたことは何か、そしてどんなメリットや経験を目指してMBAプログラムを受講すべきかを聞いた。
彼らは授業で学ばなかったことをどうやって最大限活かし、キャリアでの業績につなげることができたのか? 5人のMBA取得者から話を聞いた。
コミュニティを利用してコネクションをつくる
GSBの2011年度卒業生で、高級ハンドバッグ販売を手がけるSenreveの創業者兼CEOコーラル・チャン(Coral Chung)は、ビジネススクールでの授業は楽しかったが、授業以外での学びにこそ「間違いなくより価値がある」と話した。
その理由の一つに、長い間培われ確立されたコミュニティの存在があるという。
「クラスメートとの関係や一生モノの絆を築いたり、世界を変えたいという思いでつながっているクリエイティブで企業家精神にあふれた、才能ある人たちのコミュニティに加われることなど、その影響は計り知れません」とチャンは言う。
「気が合う人たちを見つけたと本当に思いました。実際、私たちのクラスのつながりは強くて、世界中のクールな都市で毎年同窓会を開いているくらいです」
リスクの取り方を学ぶ
2019年5月にHBSでMBAを取得したディラン・ゴミー(Dilan Gomih)は、学生たちはリスクの取り方をクラスの内外で学ぶべきだと力説する。
「ビジネススクールに行くことは機会費用ではなくて、チャンスをつくるための投資だと考えるべきです」
現在はIndustriousというスタートアップでCEOのチーフアドバイザーを務めるディラン・ゴミー。
Courtesy of Dilan Gomih
ゴミーはMBAプログラムに参加した経験が、自分のアイデアを検証する役に立ったという。そのため、より大きな自信を持って自分が抱いているキャリアのビジョンに向かって動き出すことができたそうだ。
「HBSに行く前は金融業界で働いていて、かなりハッキリと自分のキャリアパスを予測できていました」と彼女は言う。
「でも当時は、セールス・トレーディング部門でフルタイムで働きつつ、インドア・サイクリングのクラスを教えるほどウェルネスやフィットネスへの情熱があったのに、自分の最大の可能性を解き放てていなかったんです」
普通の人にとってウェルネスがどんな意味を持つのか、また人々にとってウェルネスはどのくらいアクセスしやすいものなのか、という点について、彼女は自分なりのビジョンを確立できていないことに気づいていた。「でもHBSが『とりあえずやってみたらいいんじゃない?』と言える自信を与えてくれたんです」と彼女は言う。
ビジネススクールの学生は、良い影響を与えてくれる、その後の支えとなるような人間関係を築くことに集中するべきだと、ゴミーは力説する。彼女の「クレイジーな」アイデアは実行に移すべき価値があると断言してくれた友人や教授たちに、授業の内外で出会ったからだ。
「HBSに在籍しながら教え続けるということから、HBSのチーフ・ウェルネス・オフィサーとして自分のアイデアのいくつかを実行するという試みまで、そのステップごとに『君ならできる』と応援してくれた人たちがいました」
旅に出ること。学生の間だけかもしれないから
高級ハンドバッグを販売するSenreveの創業者兼CEOコーラル・チャン。
Courtesy of Coral Chung
冒頭で登場したチャンが思いつくもう一つのメリットは、スタンフォードがMBAの学生に提供している旅行の機会だ。
「スタンフォードGSBの入試面接を受けたとき、面接官の女性は、ビジネススクールの学生時代に素晴らしい旅行を経験できる機会をうまく活用しなかったことを一番後悔していると言っていました」とチャンは言う。
「私はそのことを覚えていて、できる限り世界を旅して周りました。インドやブラジル、日本などを訪れて、パリではインターンもしました」
ある外国での経験は、彼女にとって特にかけがえのないものとなった。「Luxury Trek(ラグジュアリー旅行)」に参加してリーダー的役割を果たすというものだ。
ラグジュアリー業界に情熱を持っているチャンやクラスメートたちは、パリやミラノ、その他のヨーロッパの都市を訪れて、グッチやシャネルやエルメスなど主要な高級ブランド、それらを扱う小売業者の経営幹部たちに会いに行った。
その旅行は、彼女が高級ハンドバッグの会社を立ち上げる「直接のインスピレーション」となったと話す。
旅行への参加体験が起業のきっかけに
美容とパーソナルケア商品のレコメンデーション・エンジンHelloAvaのCEO兼共同創設者シキ・モウ。
Courtesy of Siqi Mou
スタンフォードGSBを2016年に卒業し、現在は人工知能(AI)を使った美容とパーソナルケア商品のレコメンデーション・エンジンを手がけるHelloAvaのCEO兼共同創設者、シキ・モウ(Siqi Mou)もGSBの旅行に参加したうちの一人だ。
先述の「Luxury Trek」に最高情報責任者(CIO)として参加した彼女は、旅行を振り返って「最も役に立つ人生経験となった」と答えた。
「学校では毎日たくさんの授業を受けました。でも多くの知識や直感というものは、教科書から学べるものではありません。旅行を通じて、連絡先を交換し合ったり、コネクションをつくったりしたことはこの先長い目で見ると活きてくるし、何よりも役立つたくさんのことを学んだ実務体験となりました」
実際、モウはチャンと同様に美容業界で起業した。彼女はMBAの学生たちに、もしビジネススクールが提供しているのであれば、そうした授業外での学びや旅行の機会を逃さないようにとアドバイスする。自分が関心のある業界についての情報をじかに収集することができるからだ。
リーダーとしてのポテンシャルを自己評価する
現在はボストン・コンサルティング・グループで働くトリストン・フランシス。
Courtesy of Triston Francis
ビジネススクールに通うメリットとしてよく言われるのは人間関係の構築だが、2019年にHBSに在籍したトリストン・フランシス(Triston Francis)は、MBAに通う現役学生たちに、ネットワーキングの水準をもっと上げるためには、キャンパス内でリーダーのポジションに就くべきと提案する。
現在はシンガポールのボストン・コンサルティング・グループでコンサルタントとして働くフランシスは、「クラスメートや教員のことを知る一番の方法は、一緒にプロジェクトに取り組むことだと思います。理想的なのは、自分が情熱を持っている分野のプロジェクトを一緒にやることですね」と語る。
「私にとっては、学生組織の共同社長として定期的な仕事をこなしたことが、それに当たります。結果として、生涯大切にしたい最強の友人関係を築くことができました」
フランシスは、70名のチームと130万ドルの予算を管理した。
「どうしたらメンバーのモチベーションを上げ、HBSのコミュニティに報いるために貴重な時間を費やすことが楽しいと思ってもらえるのか考えることを通じて、大きな学びがありました」
この経験からフランシスが学んだのは、チームを築く際には、一緒に働く人たちにとって素晴らしい経験となって、それぞれが求めているものが得られるような役割を用意するのが大切」ということだ。
「メンバーが自分たちのやっていることに楽しみを覚えるようになったら、自分の目指すより大きなミッションにそれをどう適合させることができるのかをじっくり考えられるようになるんです」
フランシスは仕事でインパクトを与えて、人びとを団結させるのに「社長」といった具体的な肩書きは必要ないと強調する。その代わり、彼はMBAの現役学生たちに、授業外で率先してリーダーとなる経験をもつべきとアドバイスする。
例えば、HBSでの最初の年、彼とクラスメートは参加者がHBSの入学志望書に何を書いたかを共有する夕食会を開催した。
「ルームメートと私は結局、最初の1年を通して約100名のクラスメートが知り合うきっかけを作ったんです」
そして何よりも、フランシスはその幸運な出会いによって、親密な友情関係を築くことができたと話す。「私たちは生涯連絡を取り続けるでしょうね」。