Patagonia
- 「広告らしくない広告」とは、消費者に商品を買わないように言ったり、自虐的なジョークを言ったり、広告自体のコンセプトを皮肉ったりする広告だ。
- パタゴニア、シュプリーム、フォルクスワーゲンといった企業は、こうした戦術を用いてブランドを構築してきた。
- コカ・コーラの失敗したブランド 「OKソーダ」 のようなブランドは、残念ながら熱狂的なファンを集めることができなかった。
消費者に製品を買わせる最良の方法の一つは、購入しないように言うことだ。
アパレルメーカーのパタゴニアは2011年のブラックフライデーに「このジャケットを買わないで」という広告を出した。
このような「広告らしくない広告」のキャンペーンは、自らをからかう、製品をまったく見せない、ブランドに注目を集めるために一見無関係なものを使うといった広告だ。その効果を疑問を抱くかもしれないが、斬新な手法をうまく使うと、特にミレニアル世代やZ世代には効果がある。
ニューヨーク大学スターンスクールのマーケティング担当非常勤教授で、マーケティング企業Metaforceの共同創設者でもあるアレン・アダムソン(Allen Adamson)氏はBusiness Insiderに対し、「若い消費者は懐疑的で非常に洗練されている。そして彼らはよい嗅覚を持っている」と述べている。
最近では、ドリトス(Doritos)がZ世代にアピールするために、袋からすべてのテキストを取り除き、ロゴの代わりに最も抽象的な形の三角形を強調した広告を制作した。
ここでは、シュプリーム(Supreme)のような成功例からOK Sodaのような失敗例まで、8つの「広告らしくない広告」のキャンペーンを紹介する。
ドリトス(Doritos)は無地のパッケージを作った
Dorito's
先月、ドリトス(Doritos)が、広告しない広告を展開する最新ブランドになった。「アナザー・レベル」と呼ばれるキャンペーンビデオでは、10代の若者たちが持つ無地のドリトスの袋とともに、ピラミッドやビリヤード、レトロな漫画など、さまざまな三角形が現れるがドリトスの文字もロゴも出てこない。この広告の背景にあるアイデアは、ドリトスがスナック菓子の象徴的な存在であるため、ラベルやロゴは必要ないということだ。スポットの最後には「ここにロゴが入る」と書かれた三角形が描かれた看板の前を少年が歩いていく。
Hinge(デートアプリ)は削除するように設計されている
Hinge
デートアプリのHingeは、ライバルのTinderやBumbleとの差別化を図り、アプリアイコンの形でマスコットを作った。毛皮とギョロッとした目を持つヒンギー(Hingie)という名のマスコットは、左上隅に削除ボタンが付いていて、すぐに消せる。
Ad Ageによると、Hingeは9月、カップルが愛を見つけた瞬間にヒンギーが破壊されるプロモーション動画を公開した。映画館の客席で押しつぶされたり、スーパーマーケットのピザ売り場で凍りついたり、運の悪いことに車に轢かれたり。しかし、ヒンギーの唯一の目的は、人々がヒンギーを削除するようにすることだ。
フォルクスワーゲンは1959年に最初の広告らしくない広告を制作した
Volkswagen
フォルクスワーゲンは、1959年に最初の広告らしくないキャンペーンを制作したことで知られている。「Think Small(小さく考えよう)」という一連の広告でレモンになぞらえたクラシックな小型車、ビートルに注目が集まった。
この広告は21世紀の基準からすれば現代的ではないかもしれないが、当時の他の自動車広告は、販売することに焦点を当てていた。彼らはその車の特徴、運転手のライフスタイル、その年のモデルのフルカラークローズアップを披露した。結局のところ、1959年はシンプルさへのアンチテーゼとも言えるキャデラック・エルドラドの第3世代の発売年でもある。ビートルとその広告は、自己批判的で、ミニマリスティックで、機知に富んでいた。
専門家たちは今、「Think Small」を史上最高の広告キャンペーンの一つと見ている。
シュプリームはTシャツからレンガまであらゆるものにロゴを付ける
Robert Alexander/Getty Images; Vanni Bassetti/Getty Images
1987年、アメリカ人アーティストのバーバラ・クルーガー(Barbara Kruger)氏は、写真にFuturaというフォントで書かれた消費至上主義を皮肉るメッセージにリンクさせ、芸術作品「I shop therefore I am」を生み出した。
1994年、ファッションデザイナーのジェームズ・ジェビア(James Jebbia)氏によって設立されたスケボーブランド、シュプリーム(Supreme)は、クルーガー氏の作品と同じフォントと配色を使用したロゴのみで構成するブランディングで非常に人気がある。実際、シュプリームは、ハンマーや計算機、さらにはレンガまで、ロゴを載せた一連のオブジェクトを作った。
衣料品ブランドのMarried to the Mobがシュプリームのロゴを使ってパロディTシャツを制作したとき、シュプリームは著作権侵害を主張して訴訟を起こした。一方、Married to the Mobは、シュプリームがバーバラ・クルーガーからロゴを盗んだと主張した。結局、どちらの訴訟も取り下げられた。
一方、クルーガー氏は、もともとは消費至上主義への攻撃だったものをめぐって各企業が互いに訴訟を起こしていることに激怒し、「ばかなまねはよせ」と書かれたスケートボードなど、シュプリームっぽいアイテムを販売する偽のスケートショップの形でパフォーマンス作品を制作した。
OKソーダはコカ・コーラによってアンチソーダとして販売された
OK Soda
1985年に起きたマーケティングの大失敗「ニュー・コーク」に関わったセルジオ・ザイマン(Sergio Zyman)氏は、その8年後にコカ・コーラに再び雇われて、「OKソーダ(OK Soda)」を作り出した。
OKソーダは既存の炭酸飲料に対抗するもので、最低限のロゴだけで、味についての記述は何もなかった。パッケージには「炭酸飲料」としか書かれていなかった。
漫画家がデザインした独創的なパッケージにもかかわらず、OKソーダは消費者の共感を得られず、コカ・コーラは1995年にそのブランドを廃止した。それ以来、ネット上で熱狂的なファンを獲得している。
オートリーの広告は自己言及的だった
Totti/Flickr
スウェーデンのオーツ麦の植物性ミルクブランド、オートリー(Oatly)は、牛乳の代替品を探している人々の間で支持を得ており、型破りな広告キャンペーンを展開している。
最近、アムステルダムやベルリンやロンドンやニューヨークの街を歩いたことがある人なら、彼らの広告を目にしたことがあるかもしれない。ベルリンのあるビルの横には、「この広告をストリートアートのようにしたので、単なる広告よりも気に入っていただけると思います」と書かれている。
ほとんどの人はオートリーの広告を魅力的だと思っているが、そうでない人もいる。2015年、オートリーのデンマーク語の広告はデンマークの酪農家からの訴訟を起こされた。問題のキャッチフレーズは「牛乳のようなものですが、人間のために作られています」だった。その後、オートリーの売上は急上昇した。
セルフリッジズは「サイレンス・ルーム」を設け、商品のラベルを剥がした
イギリスの百貨店、セルフリッジズは2013年、「サイレンス・ルーム」を作った。
Stuart C. Wilson/Getty Images
イギリスの百貨店セルフリッジズは、忙しいホリデーシーズンの後、買い物客に憩いの場をと考え、2013年に「サイレンス・ルーム」が復活した。
ハリー・ゴードン・セルフリッジ(Harry Gordon Selfridge)が1909年にデパートを設立したとき、彼は疲れた買い物客が座ってリラックスでき、買い物の騒音やストレスから解放してくれる部屋を作った。新しいサイレンス・ルームは、その時と同様、21世紀のテクノロジーがまったく入っていなかった(買い物客は靴と携帯電話を入り口に置いておく必要があった)。
「No Noise」 プロジェクトの一環として、セルフリッジズはハインツやリーバイスといったブランドと提携し、パッケージからすべてのラベルを一時的に削除した。象徴的な黄色のセルフリッジズのショッピングバッグにもロゴが入っていなかった。
パタゴニアは消費者に服を買わないように言った
Patagonia
2011年のブラックフライデー直前、アパレルメーカーのパタゴニアは、ニューヨーク・タイムズに「自社の衣類を買わないように」という広告を出した。顧客を怖がらせようとしていたのではなく、彼らが本当に必要としている時にだけ製品を買って欲しいと思っていたのだ。
「企業として消費主義の問題に正面から取り組む時が来た」と広告には書かれている。
この広告は、パタゴニアの衣料品の再利用と修理を目的としたプログラム「コモン・スレッズ・イニシアティブ(Common Threads Initiative)」の一環として行なわれた。
[原文:8 best 'anti-ads' that sold you a product by telling you not to buy it]
(翻訳、編集:Toshihiko Inoue)