アメリカで「撃てない銃」を造る日本人。「1人でも多く生きて」毎日100人が銃で亡くなる国で願う

アメリカ銃乱射事件

アメリカでは銃による乱射事件が後を絶たない。

REUTERS/Callaghan O'Hare

アメリカで銃による死傷事件が後を絶たない。

そうした中、1人でも多くの命を救いたいと悪戦苦闘する日本人がニューヨークにいる。

大学で教鞭を執る中村正人さん(47)。センサーによるロック機能などを組み込み、登録された所有者以外は撃てない銃、「スマートガン」の可能性に賭ける。

「その普及だけでは銃による惨劇はなくならないかもしれない。でもきっと減らせる」

中村さんが見据えるのは遠い未来のアメリカの姿。そのために今動き出すことが大切だと力を込め、スタートアップを立ち上げている。2020年末までにスマートガン製造販売に乗り出す考えだ。

素朴な疑問から使命感へ

スマートガン

中村さんのチームが制作したスマートガンの試作機。

中村さん提供

ニューヨーク市立大学工科校准教授でエネルギー工学を専門とする中村さんが、スマートガンの開発を思い立ったのは2016年ごろ。放出されるエネルギーの回収、再利用をめぐり、学生と雑談したのがきっかけだった。

「100年、200年、鉄砲の原理は昔から変わってないんです。極端に言えば、火縄銃の時代からずっと。それはどうしてだろう、もっとコンピュータライズできるんじゃないか、という問いから始まりました」

と着想の背景を説明する。

中村さん

中村正人さん。北海道大学大学院修了後、コロンビア大学大学院で博士号取得。2011年よりニューヨーク市立大学で機械工学・工業デザイン・環境科学の講義を担当、2019年から現職。北海道出身。

中村さん提供

ちょうどその頃、2016年6月に死者50人、負傷者53人の銃乱射事件がフロリダ州オーランドで起きた。近年のアメリカでは最悪の惨事だった。

あまりのむごさに「この現状を何とかしなければ」と中村さんは突き動かされた。その後も死傷者多数の乱射や、幼い子どもの命が奪われる誤射など、痛ましい事件が立て続けに起こっている。

2019年7月にニューヨーク市で銃乱射事件が起きた際はTwitterで即座に反応した。

「僕の勤務している大学の地元ニューヨーク市ブルックリンで銃乱射事件が起こってしまった。スマートガンの研究開発は続けないといけない」

素朴だった疑問はいつしか使命感へと変わっていった。

指紋認証ではなく動作で

転機は2017年6月。ニューヨーク市ブルックリン区で初めて開かれたスマートガンのデザインコンペに出場した時のことだ。

銃の安全性を高める目的で、銃弾を実装できないプラスチック製プロトタイプ(試作機)のスマートガンの機能性、デザイン性を競った。中村さんの研究チームと教えている工業デザインクラスの学生のチームはファイナリスト5組の中に残った。

スマートガン

研究室でスマートガンを手にする中村さん。登録した動作をしないと、動かない仕組みになっている。

中村さん提供

評価されたのは、本人認証とセンサーの仕組みだ。中村さんの考え方は「電話+コンピューター=スマートフォン、ならば銃+コンピューター=スマートガン」という発想で、「スマホでできる機能はスマートガンでも応用可能というアイデアがベースになっている」。

同時に、スマホでの課題はスマートガンの課題でもある。

他のチームの多くはトレンドだった指紋認証を取り入れていたが、中村さんは「指紋認証だと水に濡れた手には反応しない」といった難点を克服しようとした。

代わりに本人認証に採用したのはモーションセンサー。所有者が登録した動きを検知し、ロックが解除できる仕組みにした。例えば、空中に「Z」と描くようにスマートガンを動かすとロックが外れる、といった具合だ。

もう1つの特徴が距離センサーで、例えば対象物から50センチ以上離さないと撃てないように設計することもできる。

こうした点が認められてファイナリストとなった結果、研究開発の奨励金として、中村さんの2チームには2万ドル(200万円強)が授与された。

銃による自殺は毎年2万人超

スマートガン

中村さんたちが開発したスマートガンのプロトタイプ。

中村さん提供

ただこうしたスマートガンの研究開発・製造が進んで世に広まったとしても、銃乱射のような凶悪犯がいなくなるかというと、そう簡単な話ではない。過去の乱射事件を見ても分かるように、犯人は多分に計画的であり、手段を選ばない。いかようにも銃を調達し、犯行に及ぶ懸念を払拭できるわけではない。

中村さんが目下焦点を当てて撲滅しようとしているのはむしろ、そうした計画的、意図的犯行「以外」、すなわち銃による自殺や誤射といった事象だ。

世界的に見て銃犯罪が少ない日本では考えづらいことだが、銃によって死傷する事件・事故はアメリカでほぼ毎日起きている。

「毎日100人のアメリカ人が銃で亡くなっている」(Every day, 100 Americans are killed with guns.)

銃暴力の撲滅を掲げる米団体「エブリタウン」のサイトのトップページにはそんなセンセーショナルな言葉が並ぶ。アメリカで銃によって亡くなったのは2017年に3万9773人。驚くことにその約6割が自殺だった。

同団体のまとめによると、2013~2017年の平均値でも、銃による死者は3万6383人、うち自殺者は2万2274人に上る。全米自殺防止財団(AFPS)による調査でも、2017年の自殺者4万7173人のうち、50.6%が銃によるものだった。窒息死(27.7%)や中毒死(13.9%)を大きく上回っている。

図4

出典:Everytown for Gun Safety Support Fund「GUN DEATHS & INJURIES BY INTENT」https://everytownresearch.org/gun-violence-america/#foot_note_1

スマートガンで救える命

スマートガンが普及すれば、多くの命が救えるはずだと中村さんは言う。

そう信じる根拠の1つに、銃による自殺は衝動的なものが多く、「手近にあること」が銃による死者数を押し上げているとの統計がある。銃保持者の多い州の方が、少ない州よりも自殺率が高いというデータもある。

そしてもう1つ、銃による自殺者が多い原因として、「銃の致死性」があるとされる。前出のエブリタウンは「銃で自殺しようとした人の90%以上は死に至っており、手段別にみると最も致死率が高い」と強調する。中村さんもこの論に沿い、「自殺で銃を使う場合、こめかみや下あごに銃口を押し付けて撃ち抜いている」と説明し、即死する可能性が高いと見ている。

そのため距離センサーを用いて、「例えば『50センチ以上離さないと発砲できない』となれば、自殺しようとする人が使う際に相当なためらいが生じる」(中村さん)と見込まれ、自殺を思いとどまることにつながる。

また、モーションセンサーは誤射や盗難による発砲を未然に防ぐことに役立つと期待される。

中村さんが最も重視するのは、「幼い命が奪われない」こと。

「許せないのは、親が銃をしまい忘れ、見つけた子どもが遊んでいて兄弟姉妹を撃ってしまう事件とか……それは絶対に止めないといけない」

誤射など「意図しない」原因で年487人が亡くなっている(2013~2017年平均、エブリタウン調べ)。

他にも、銃にGPS(全地球測位システム)を搭載することで盗難後の追跡に役立てたり、学校など特定の場所・地域では発射できなくしたりといった機能が強化できる。

思わぬ子どもたちからの逆風

資金を得た2017年、中村さんたちはスマートガンの開発・製造に本腰を入れ始めた。センサーを組み込んだ銃設計の仮特許の取得にも動き始めた。

取り組みが佳境に入る中、国連から大学を通じて声が掛かった。国連の教育プログラムの一環として、世界中から集まる高校生に取り組みを伝えてほしいと。快諾して2018年3月、ワークショップで「持続可能な社会に向けたスマートシティ技術」をテーマに語り、スマートガンについても説明した。

スマートガン

高校生にスマートガンの説明をする中村さん。2018年3月、ニューヨークで。

中村さん提供

質疑に入ると、生徒たちから思いもよらない質問が飛んだ。

「なんであなたたちはそんな銃を造るのか」

「銃社会を助長しているだけではないのか」

批判めいた鋭くも素朴な疑問が、冷たい視線とともに向けられた。

中村さんは、「銃による死傷者を少しでも減らしたい。遅々として進まない銃規制の突破口を開きたい。決して銃が世にある現状をよしとして、スマートガンを広めたいのではない」と説明を尽くしたが、伝わらなかったという。

ワークショップの前月、2018年2月にフロリダ州の高校で起きた生徒ら17人が亡くなる銃乱射事件を受け、銃に対する憎悪が一段と高まっていた時期でもあった。アメリカ各地では、高校生らが追悼とともにデモ行進により銃の撲滅を訴えていた。そうした背景もあり、中村さんのスマートガンの発想は受け入れ難かった。

純真な子どもたちにとっては、マシンガンもスマートガンも同じ銃であり、中村さんは「銃を造る人」と映っていた。

「銃による事件・事故をなくしたい、子どもたちを救いたいという一心でやってきたつもりが、いつの間にか銃メーカー側に立っていた」

はっと気付かされた瞬間だった。

それでも僕は銃社会と向き合う

子どもたちに理解を得られない状況で、果たしてスマートガンの普及は進むのだろうか —— 。中村さんは思い悩んだ。

「学生と一緒に銃を造る」ことも、社会通念や倫理観に照らしてどうなのか。

「いわば『ピストルの造り方』を教えているようなもので、使っている材料はプラスチックだとしても、インスパイアされた学生が、やろうと思えば、数百ドルで造れてしまう」(中村さん)

葛藤は膨らんでいった。

そうした折、またも事件は起きた。2018年5月、テキサス州の高校で銃乱射により10人が亡くなった。

「どうして悲劇が繰り返されるのか」

中村さんは出発点に立ち返った。自分も決して好き好んで銃を造っているわけではない。いたずらに命を奪う銃社会をなんとかしたい。「救える命があるはず」との使命感を再び呼び起こし、自らを奮い立たせた。

2019年、仮だった特許を正式に取得し、製造に進む準備が整いつつある。だが、委託先となる大手銃メーカーは相次いで経営が厳しくなっている。それもあってか、中村さんの設計したスマートガンの製造には、色よい返事がない。

「だったら、自ら造ろう」とこの夏、ブルックリンに製造・販売のためのスタートアップのオフィスを開設した。将来的に、年10丁のスマートガンの製造を見込む。

まずは少しずつでも、変化を起こすことが大切だと感じている。

「EV(電気自動車)の世界だって、テスラも最初は非力でした。まして『EVのスポーツカーなんて』と鼻で笑われていた時代もありました」

ビッグ3が幅を利かせる米自動車業界にEVが開けた風穴とその広がりに、スマートガン普及の未来を重ねる。

実現にはハードルがいくつも立ちはだかる。銃所持を擁護する団体「全米ライフル協会」(NRA)からの圧力を感じる一方、守りたい存在の高校生らの理解も得ていく必要がある。国連ワークショップで高校生たちから向けられた非難の声はずっと忘れていない。

それでも今、再び子どもたちが犠牲になることのない社会を目指して、スマートガンの計画を一歩ずつ進めている。


南龍太:東京外国語大学ペルシア語専攻卒。政府系エネルギー機関から経済産業省資源エネルギー庁出向を経て、共同通信社記者。経済部で主にエネルギー分野を担当。現在ニューヨークで移民・外国人、エネルギー、テクノロジーなどを中心に取材。著書に『エネルギー業界大研究』『電子部品業界大研究』。

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