Windows10Xを搭載する「Surface Neo」。発表会場では触れることはできず、展示の撮影のみが許されていた。
撮影:西田宗千佳
10月2日(現地時間)にニューヨークで開催されたSurfaceの新製品発表会は、筆者が感じる限り、ここ数年でもっとも参加者の熱狂が伝わってくるイベントだった。
最も大きな理由は、2機種の2画面Surfaceである「Surface Neo」「Surface Duo」の発表だ。リークが相次ぐ昨今のIT業界には珍しく、直前に若干のリークがあったことを除くと、詳細が漏れていない大きな発表だった……という事情がある。
けれどもそれだけでなく、2012年6月の初代機発売以降、地道に完成度を上げてきた「Surface」という製品群の完成度の高さが見える発表だったから、という点が大きかった。
発表会の後、米マイクロソフト・コーポレートバイスプレジデントでチーフプロダクトオフィサーのパノス・パネイ氏と日本記者陣の合同取材が開かれた。そこで彼の口から出てきた「Surface進化のポイント」を読み解いてみたい。
米マイクロソフト・コーポレートバイスプレジデントでチーフプロダクトオフィサーのパノス・パネイ氏。Surfaceの産みの親として知られる人物。
撮影:西田宗千佳
出発点は「電話ありき」ではなく、あくまで「Surface」だった
注目の「スマホ実質再参入」になるSurface Duo。OSにはAndroidを採用する。
撮影:西田宗千佳
まず、やはり気になるのは「Surface Duo」「Surface Neo」だ。特にSurface Duoは「電話機能を持つ」タブレット機器であり、しかもOSはAndroidだ。マイクロソフトは2017年に自社OSによるスマートフォン事業(Windows Phone)からは一度撤退している。
左手に持っているのが電話機能のある「Surface Duo」、右手に持っているのがWindows10X搭載の「Surface Neo」。
撮影:西田宗千佳
Surface Duoは実質的に、マイクロソフトの「スマートフォン市場再参入」ということもできる。
だが、パネイ氏はその点に釘を刺す。
パネイ「この製品は“Surface”ビジネスであり、“電話”ビジネスから生まれたものではありません。もちろん電話として使うこともできるわけですが、我々は日本でも世界でも、大きなSurfaceの市場を持っています。Surfaceの市場とは、あなたをより生産的にし、どこでもモダンワークスタイルを実現できる機器の市場です」
Surface Duoでは「電話もできる」が、電話から発想した製品でなく、あくまで「Surface」だという。
撮影:西田宗千佳
Surface Duoは「2画面スマホ」という見方をされる。サムスンの「Galaxy Fold」やファーウェイの「Mate X」など、ハイエンド市場では折りたたみ型のスマートフォンに注目が集まるが、それらは「スマートフォンビジネス」からスタートしたもの。
パネイ氏は、「SurfaceはSurfaceである」として、スマートフォンとして製品を作ろうとしたわけではない、と強調する。
パネイ「現在のマイクロソフトでは、“人”を中心に考えます。顧客が選択したいであろうことから始めるのです。今回(Surface Duoで)Androidを採用したのは、モバイルというフォームファクター、特に2画面において、ベストな選択肢を顧客に提供できると考えたからです。
ご存じの通り、Androidには数百万ものアプリがあり、たくさんの顧客のニーズもそこにある、とわかっています。ですから、グーグルとパートナーシップを組んで推進したのです」
マイクロソフトが「グーグルと組んでAndroidベースの製品を作る」と聞くと我々にとっては驚きに思えるが、現在のマイクロソフトは「クラウドファースト」の会社であり、Office365をはじめとしたサービスの会社でもある。
それらを顧客に快適に使ってもらえるための道具を提供する際に、どのOSを選ぶかは重要なことではなく、あくまで「顧客ニーズ」優先なのだ。
パネイ「Windows10Xは、Surface Neoにとって非常に重要なものです。なぜなら、二画面での体験、アプリを2つのディスプレイ間で移動させつつ使うためには、Windowsそのものを最適化する必要があったからです。
ちょっと考えてみてください。PCの画面をテーブルの上だとします。その上ではものを単に置けばいい。そこに“2つの引き出し”を用意したとします。どちらに何をどう入れるのか、もっといろいろと工夫して使うことができるはずです。
2画面のPCに最適化するとは、同じような考え方なのです。非常に論理的で、使ってみると気持ち良い。生産性も上がります。
我々はこのコンセプトを思いつくのにずいぶんかかったのですが……昨日サティア(ナデラCEO)とも話しました。たぶん3年くらいはかかったはずです。正確には思い出せないのですが。とにかく、長い間準備してきたコンセプトです」
Windows10Xを搭載する「Surface Neo」の2画面の見開きモード。1枚の画面のように左右がつながっている。
撮影:西田宗千佳
ノートPCのように縦開きにし、キーボードを手前に載せて使うことも。上画面は左右2分割表示になっている。
撮影:西田宗千佳
このモードでは、下側の画面の「キーボードで隠れていない部分」をスタンプの選択画面として活用している。よく考えられたユースケースだ。
撮影:西田宗千佳
そしてもちろん、見開き表示は電子書籍リーダーとしても最適だ。
撮影:西田宗千佳
色々な2画面の活用方法があるが、これらは3年以上の時間をかけて作ってきたコンセプトの賜物でもあるという。また、「2画面」に関する考え方を次のようにも語る。
パネイ「これらの製品は、決して“タブレットを2つ持つ”ものではありません。まったく違う体験です。開発者のセンスによって、まったく新しい“使う上での心構え”を生み出すものです。生産性が高く、何よりも使っていて楽しいんですよ」
5G搭載の可能性は「大」、LTEモデルは「モバイルに向いた機器」から
Surface Pro XはeSIMとSIMカードの両方に対応している。
撮影:西田宗千佳
Surface DuoやSurface Neoを5Gに対応させる予定はあるだろうか?
パネイ「5Gはとても重要で、興味をもっています。可能性は非常に高いです」
なお、他のスタッフにもいくつか聞いた話があるので、それも最後に補足として付け加えておこう。
現在、LTEを搭載しているSurfaceは「Surface Pro」と「Surface Go」。今回の新製品では「Surface Pro X」に搭載された。携帯電話網での通信は、本来どのPCにあってもいいものだと筆者は考えている。Surface Laptopなどへの搭載の可能性を訊ねると、マイクロソフト担当者は次のように答えた。
担当者「確かに可能性はある。将来、LaptopなどにLTEモデルが出る可能性はある。しかし現在は、Surface GoやSurface Proのような“よりモバイルに向いた”製品に搭載している。それがニーズに合っていると感じているからだ」
SIMカードは背面のフタをピンで開けて入れる。Surface Pro Xが「よりモバイル向け」だから搭載されている。
撮影:西田宗千佳
マイクロソフトが自作SoC「SQ1」を創った理由
Surface Pro XのためにオリジナルSoC「Microsoft SQ1」を開発。
撮影:西田宗千佳
もうひとつ、今回の発表で驚きだったのは、「Surface Pro X」向けに、マイクロソフトが独自のSoCである「SQ1」を開発したことだ。
技術的にはQualcomm(クアルコム)との共同開発であり、同社のプロセッサー技術を活用したものだ。だから実質的にダブルブランドといえる。それでも、マイクロソフトが自社の製品のためだけにSoCを作る、というのはかなり意外なことだった。
SQ1は、機械学習系も含めた演算能力はとても高いという。
撮影:西田宗千佳
スマホメーカー、特に大手が独自SoCを作るのはもはや珍しくない。アップルは「Aシリーズ」を、ファーウェイは「Kirin」シリーズを、そしてサムスンは「Exynos」を作っている。だが、スマホは数百万・数千万台生産するもので、アップルのように「一気に数億台分」ということもある。
しかし、Surfaceはヒット製品といえど、スマホほどの数にはならない。コストをかけてでもやりたいことがなければ意味がない。QualcommのSoCをあえてそのまま使わなかった理由は何なのだろうか?
パネイ「QualcommのSoCとSQ1は大きく違うものです。我々は、すべてのI/Oのアクセスを“PCが必要とするだけの性能を備えたもの”にしたかったのです。
例えば、Surface Pro Xでは、Surface Connector経由で充電したり他の周辺機器を接続したりします。
2画面分の4Kでのディスプレイ接続も含みます。PCとして一切の妥協がない体験が必要です。そのため、内部構造としてかなりGPUに工夫を加えました。
我々はモバイル向けのものを作るつもりはなく、“PC向け”のものを作りたかったのです。モバイル向けのアーキテクチャからスタートはしましたが、モバイル向けに留めるつもりはありませんでした。“コンピューターのためのもの”を作りたかったのですから」
(文、写真・西田宗千佳)