低成長時代を生き抜け —— JPモルガンが見る日本の「希望」

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JPモルガンのチーフ株式ストラテジスト阪上亮太氏。『日経ヴェリタス』のストラテジスト・ランキングで2014年から2016年まで3年連続首位に輝くなど、業界の注目を集めている。

BUSINESS INSIDER JAPAN

各国の金融緩和もむなしく、先進国経済は低成長が続く。閉塞感が強まる中、「アメリカ大統領」の既成概念を打ち破る男が現れた。ドナルド・トランプ氏だ。

昨年11月、大統領選で勝利して以来、メディアや市場関係者はトランプ政権発足後の世界を様々な角度から予測しようと試みてきた。

BUSINESS INSIDER JAPANでは、昨年の投資銀行業務で約59億ドル(約6900億円)の世界トップ収益を上げたJPモルガンのチーフ株式ストラテジスト阪上亮太氏に、日本の未来と経済の見通しを尋ねた。

阪上氏のインタビューから見えてきたのは、意外にも日本に残された希望の光だった。

人口減少はチャンスだった!

阪上氏が見出している希望 ― 。そのキーワードは「イノベーション」と「新しい輸出企業」だ。

日本のイノベーションの可能性について阪上氏は、長期的に「十分ある」と見ている。 「日本は人口減少という一番苦しいものに直面しているがゆえに、イノベーションが起こる可能性は、長い目で見てかなりあると思う。企業は成長速度が下がって、経営が厳しくなると、生産性を上げるための投資よりも、ボーナスや賃金を下げたり、リストラを進めることでなんとかしのごうとすることが多く、イノベーションが起こりにくい。日本以外の国ではリストラの余地がまだたくさんあるので、それをやってなんとかごまかしていくという可能性もあるが、リストラもやりつくし、人口も減り続ける日本にはもうできない」

その上でイノベーションが起こりやすい分野として「自動化」を挙げた。 「例えば自動運転なら、日本はタクシーやトラックのドライバーの平均年齢が50歳を超えていて、近い将来、リタイアしていくことが見えているため、自動運転という技術を導入することへの抵抗が非常に少ない。これがもし、アメリカで自動運転網を大々的に整備しようとしたら、必ず業界団体から反対がくる。そのコンフリクトがなくなってきている分、日本はしがらみがなく、イノベーションを起こしやすい」という。

隠れた魅力に気付き始めたマーケット

もう1つのキーワードが「新しい輸出企業」だ。阪上氏は需要の中心が国内で、海外に進出し始めている企業、特に食品、医薬、建設といった業種に注目している。

「日本は人口減少による需要の先細りが見えているため、もともとグローバルプレーヤーでなかった企業も海外へ出ざるを得ず、実際に海外進出という選択を取り始める企業も多い。こうした企業が、海外で思った以上の競争力を発揮して、マーケットシェアを取れたというケースがいくつか出てきている。海外進出によって収益性も大幅に改善されて、「今までは先細りだ、将来の成長がないと思われていた」のが、実はまだ成長が期待できることに気づいた。株価的にも高い評価がつくという流れもある。今後、トランプ政権の政策も手伝って、米国市場の魅力が増せば、米国に進出しようという日本企業が出てくるのは当然。その手法として、現地化〜オーガニックグロースを狙うというのもあれば、買収で一気に市場シェアを取りに行くという選択肢もある」と指摘する。

また、阪上氏は日本のメガバンクが海外へ進出する可能性もあると見ている。「これまでの蓄積を活用して、外に打って出るという流れがさらに強まってもおかしくない」

阪上氏が指摘するように、その兆候はすでに現れている。

膨大な利益余剰金を積み上げてきた日本企業は2016年、海外における企業や事業の買収を加速した。M&A(合併・買収)助言のレコフによると、昨年の日本企業によるM&Aは総額約16兆6100億円と、1999年以来の最高額となった。具体的には、ソフトバンクが半導体設計大手の英アーム・ホールディングスを巨額の3兆3000億円で買収。飲料メーカーのアサヒグループは、旧SABミラーが保有していた中東欧5カ国のビール事業を約8900億円で買収することで合意した。

また、ベンチャーキャピタル(VC)による投資活動も活発だ。金融緩和の下、市場の潤沢な資金は有望なスタートアップへも流れやすくなっている。ベンチャーエンタープライズセンター(VEC)の調査によると、2016年7月〜9月期における投資額は220.6億円で、前年同期比11.4%の増加となった。

手堅い「金融・不動産」

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今週20日(現地時間)に第45代アメリカ合衆国大統領に就任するドナルド・トランプ氏

Getty/Justin Sullivan

とはいえ、2017年の先行きは不透明だ。阪上氏も波乱の年になるという。

「トランプ政権の政策の不透明感は非常に強く、米中関係や反EUの動きがフランス、ドイツでどのように顕在化するかもわからない。原油価格も(昨年12月のOPEC減産を受け)上がっていく見通しだが、実際にはどうなるかわからない。不確実性が非常に大きい年になる」

こうした中、トランプ政権の明るい材料として阪上氏が挙げるのは、所得税や法人税の減税、インフラ投資の拡大、金融機関に対する規制緩和だ。

「(トランプ政権の)政策のインプリケーションの1つはインフレの加速であり、世界の成長の加速。インフレ率が上がり、世界的に金利の上がった環境下では、金融や不動産といったセクターが恩恵を受ける」との見方を示している。

加えて、トランプ政権が米国経済の活性化に注力すると見られることから「米国に関連する、米国でのビジネスが大きいセクター(代表的なものとしては自動車、電機)も金利上昇の恩恵を受けやすい」と言う。ただし、こうした対米輸出関連のセクターは「(輸入関税の引き上げや為替への介入といった)保護主義的な動きが強まれば、悪材料の方が大きくなってしまう」と指摘する。

厳しい「資源関連」

一方、トランプ政権の政策によってもっとも悪影響を受けやすいのは、新興国関連だと阪上氏は見ている。

その理由として、(1)トランプ政権の政策がインフレを志向する中、ドル高・通貨安になると、新興国では景気が悪化する可能性が高いこと、(2)米国の保護主義的な傾向が強まってきた時に、その対象となりやすい中国の需要で潤う他の新興国が悪影響を受けやすいこと、(3)トランプ政権が内向き、自給自足的なエネルギー政策を志向するため、世界的な商品価格に対して下落圧力をかける可能性があることの3点を挙げた。

「日本株の中で言えば、新興国、資源に対するエクスポージャービジネスが大きいセクターがネガティブになりやすい。具体的には商社、石油精製、鉄鋼、非鉄、海運といったところにネガティブな影響が出やすいのではないか」との見方を示している。

フロンティアなき後、続く低成長時代

ビジネスマンとしてのトランプ次期米大統領の手腕に期待を寄せる日本の経済界。日本の未来に希望を見出す阪上氏も、世界的な低成長時代は続くと見ている。

「トランプ政権の誕生で大きく世界が変わったと考えるためには、これまで言われてきた世界の低成長、ニューノーマル(*)といった状況が本当に変わったのだという認識が必要になる。しかし、実際には世界的な低成長時代が続いている。その根本的な原因がフロンティアの消滅だ。これまでは世界のどこかに潜在的な成長市場が存在しいた。戦後の日本・ドイツから始まり、NIES、ASEAN、旧共産圏、BRICKsと成長する国があり、そういった国に対して先進国もビジネスを展開していく……。そして、それが先進国経済にも波及することで世界経済全体が盛り上がるという状況が幸運なことに50年以上続いてきた。ところが、高度成長段階にある国のリストが途切れてしまった。そうなると、世界の成長はだんだんと鈍化していかざるを得ない」

「 低成長を金融緩和で“何とか”しようとしてきたけれど、それも行き詰った。本当の意味で市場の閉塞感が強まってきた中で、トランプ氏が登場した。トランプ政権のやろうとしていることは「民間が投資しないなら国が投資しようという話」である。つまり、アメリカ全体として、財政政策に舵を切るということだ。世界は今、この状況を静観しているが、根本的な低成長の問題を解決できるのかと言えば、怪しい。財政政策に熱心に取り組んでいる間はいいが、それが息切れしてきたら終わりだ、という話にならざるを得ない。だとすると、根本的な低成長の構図は脱却していないというのが現在の世界の姿であり、日本も同様だ」

*ニューノーマル:「リーマンショックから立ち直った後の国際経済は、以前の経済とは別物になっている」という指摘。独アリアンツ首席経済顧問であるモハメド・エラリアン(Mohamed El-Erian)氏が2009年に提唱。

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