辞任したWeWorkのアダム・ニューマン前CEO。
Kelly Sullivan/Getty Images for the WeWork Creator Awards
- Business Insiderは、WeWorkの社員と経営幹部(退職者を含む)、パートナー企業に取材し、社内の実態に関する情報を入手した。
- WeWorkは多様性のある包摂的な社風を掲げていたが、実際はきわめて男性優位の、差別的な文化がまん延していた。
- 過大な評価の背景にサウジ王族とのつながりを指摘する声も出ている。
酒と麻薬、音楽、セックス、そして糞尿が混じり合い、従業員が「なんてこった(Oh, my god)キャンプ」と呼んだ、WeWork(ウィーワーク)の野外イベント。年に一度のそのお祭り騒ぎにとどまらず、同社ではことあるごとにパーティーがくり返されていた。
CEOだったアダム・ニューマン氏(2019年9月に辞任)は、あるパーティの盛況ぶりについて、「役員たちと朝まで飲み明かして、オフィスの窓を割ってやったよ」と自慢げに語っていたことを複数の従業員が覚えている。
ニューマン氏の発言を聞いていた、入社間もないある従業員は心の内をこう語った。
「あんたたちはロックスターじゃないだろう?あんたたちがぶっ散らかしたのを片づける人たちがいるんだぞ?なかにはイカしてると思った人もいたかもしれないが、たちの悪いヤツらだと思った人もたくさんいたはずだ。本当に大人げない行為だよ」
ニューマン氏の代理人はBusiness Insiderの取材に対し、窓ガラスを壊したことは認めたものの、事故に過ぎないと説明した。
「朝までにはすっかり片づけるつもりで掃除しましたし、実際、割れたガラスの破片で怪我をした人もいませんでした」
2017年に行われたWeWork「サマーキャンプ」の様子。
出典:WeWork YouTube Official Channel
実は、こうしたパーティーの雰囲気を味わったのは、WeWorkの社員だけではなかった。ニューヨーク本社で毎年行われていたハロウィンパーティーの乱れっぷりは有名で、同社はチケットをソーシャルメディアで一般に宣伝・販売していた。他の拠点ではいまもコワーキング入居者限定のハロウィンパーティーが開かれている。
ハロウィンで顔を黒く塗りたくった白人男性
2015年開催のWeWork「サミット」の様子。
WeWork/vimeo
入社1週目でパーティー文化を体験したある女性従業員はこう語った。
「最初に参加した本社でのミーティングで、テキーラをショットで回し飲みするシーンがあって。なんて素敵な会社だろう!って思いました」
しかし、彼女がうんざりさせられるまでにそう時間はかからなかった。コワーキングで行われるイベントのたびに、酔っ払った入居者たちが彼女の尻をつかんだり、ゲロを吐いた酔っぱらいの後始末を彼女やチームの仲間が押しつけられたり、最悪の経験をしたからだ。
2018年に行われたWeWork「グローバルサミット」の模様。
出典:Event Marketer/YouTube
また、2018年のハロウィンの数週間前に行われたミーティングで、社歴の浅いある従業員は衝撃的なシーンに出くわしたという。その場にいた十数人の従業員たちは、ハロウィン当日にどんなコスチュームを着るか話し合っていた。
「同僚の白人男性が、(黒人の)プロバスケットボール選手のジュリアス・アービングの仮装をしたことがあると言い出して、おもむろにスマホを取り出し、自分の顔を真っ黒に塗りたくった画像をみんなに見せるんだ。思わず僕もみんなの顔を見回したよ。誰も何とも思ってないようだったけど」
周囲とぶつかりたくなかった彼はその場では何も言わなかったが、その日から同僚たちとのズレを感じ始めたという。
「君が望むなら世界中のどこへでも連れて行く」とナンパ
シンガポールのWeWorkオフィスで開かれたイベントの模様。2018年1月撮影。
Shutterstock.com
取材に応じてくれた女性従業員、有色人種の従業員たちはみな、多様性のあるインクルーシブ(包摂的)な企業文化をうたうWeWorkで働いていて、自分たちがそこに含まれていると感じたことはないと証言している。
役員室に近い部署で勤務していたある男性は「女性の役割はあまり重要視されていなかった」と語る。
「女性たちはふだんから業務にあまり深入りしないよう、正確に言えば、目に見える形で業務に関わらないよう指示を受けていたんです。例えば、大きな会議の準備に奔走したとしても、そのことをむやみに口にするのは厳禁でした。ときには、あえて会議に参加させておきながら発言を一切許さず、男性ばかり発言して株を上げる、といったこともありました」
彼はWeWorkの体質をこう結論づけた。
「ボーイズクラブ(女性が排除されたり差別されたりする男性優位の職場)のような会社でした。ニューマン氏の幼なじみだという男性社員もたくさんいましたしね」
この男性の証言は、他の女性従業員たちがBusiness Insiderに語ってくれた内容と合致する。ミーティングに参加することをそもそも許されなかったという声は多く、参加できた場合でもメモを取るだけで発言はするなと命じられた女性もいた。
例の「なんてこったキャンプ」で、チームに所属する若い女性従業員を自分のテントに連れ込んだ幹部社員がいたことや、男性社員がセクハラで訴えられたケースが複数あったとの証言も相次いだ。
WeWorkのコワーキング物件で清掃員をしていた男性は、同社のある役員が同僚の女性清掃員をナンパしようとしたことをよく覚えていた。役員は彼女にこう話しかけたという。「もし君が望むなら世界中のどこへでも連れて行ってあげよう」。
続けて男性にはこう言い放った。「清掃員くん、このコはもしかして君のカノジョ?僕が望めばいつだって君をクビにできるんだよ」
ニューヨーク・チェルシー地区にあるWeWork本社オフィス。
出典:WeWork
WeWorkは現在、いくつかの訴訟を抱えている。元幹部社員2人が性差別とセクハラで同社を訴えているのだ。一方は、元人事担当役員のリサ・ブリッジス氏。上席の役員たちの行為に性差別のおそれがあることを指摘すると、会社は彼女に休職を命じた上に懲戒解雇処分を下そうとしたという。
カルチャー担当(社内文化や社風などの形成を担う)役員だったルビー・アナヤ氏も、似たような訴訟を起こしている。同社のビジネスイベント「サミット」の壇上で無理やりキスされそうになったことと、例の「サマーキャンプ」のライブ会場で他の従業員からわいせつ行為を受けたことがその理由だ。
賃金格差の是正を会社に提言したことに加え、上記のハラスメントを行った従業員2人を解雇しないとした会社の決定に異議を唱えたために、アナヤ氏は解雇されている。WeWork側はアナヤ氏の申し立てるような事実は存在しないと反論している。
サウジ王族とのつながり
カショギ氏殺害事件への関与が疑われるサウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子。WeWorkのニューマン氏と密会していたとされる王族は特定されていない。
Bandar Algaloud/Courtesy of Saudi Royal Court/Handout via REUTERS
最大時の470億ドルから急転直下200億ドル以下まで落ち込んだWeWorkの評価額。そうした不透明で実態とかけ離れた評価がまかり通った理由を、ジャーナリストのジャマル・カショギ氏殺害事件(2018年10月にトルコのサウジアラビア総領事館で殺害)とのつながりから説明する関係者もいる。
事件の発生後、敷地内を虎が徘徊するロサンゼルス市内の大邸宅で、サウジアラビアの王族とニューマン氏が密会していたことを、WeWorkの元従業員が証言している。別の元経営幹部からも、この「タイガー・ミーティング」の実在を裏づける発言が聞かれた。
Business Insiderは2019年春、カショギ氏殺害事件はシリコンバレーに影響をもたらすと思うか、ニューマン氏に直接取材して聞いている。彼はその際、サウジアラビアの問題に何かしら関係していることは認めたものの、王族について直接触れるようなコメントはなく、道義的に問題のあるルートから金を受け取ることは今後もないと語った。
ニューマン氏の広報担当は当時、カショギ氏が殺害された直後に開催された投資会議「フューチャー・インベストメント・イニシアチブ」への参加を見合わせることを発表している。とはいえ、ニューマン氏がCEOだった時期のWeWorkの驚くほど高い評価額と現実とのギャップに、サウジとのつながりを思い起こさずにはいられない。
WeWorkはニューマン氏そのものだった
REUTERS/Eduardo Munoz
ニューマン氏が環境対策の観点から、2018年に(イベントや交際費について)食肉への経費支出を禁止したことはよく知られている。
だが、実は自分だけは、ニューヨーク・タイムズスクエアにある経営幹部向けのオフィスでジャイアント・ラムシャンク(骨付きラムスネ肉)を堪能していた。目撃した従業員が社内のSlackに投稿したために発覚したが、そのメッセージはすぐさま削除された。
また、ニューマン氏はやはり環境対策として(社内資料などの)印刷を禁止する宣言を出しているが、元従業員たちによると「実際には従来以上に印刷の量が増えた」という。経費節減を全社に命じておきながら、贅を尽くしたパーティーをくり返し、プライベートジェットを購入していたのと同じ構図だ。
会社の評価額も、環境対策と銘打ったいくつもの取り組みも、「世界を変える」という高邁な理想も、すべては嘘で塗り固められたニューマン氏の妄想にすぎなかった。良くも悪くも、WeWorkはニューマン氏そのものだったのだ。
ニューマン氏はCEO辞任後も最大株主の1人として会社に残ることになったが、彼が運転席に座っていないWeWorkは、名前は同じでも別の会社だ。
際立ったパーティー文化やテキーラの回し飲みといった悪習からの脱却は、多くの人に安堵をもたらすだろうが、カリスマとその異常な情熱を失っては、同社の急激な成長を支えた長時間労働を従業員たちに期待することはできない。
ニューマン氏の辞任で燃え尽き、社会的な疎外感を感じているというある従業員は、WeWorkで過ごした数年の経験から、明確な教訓を1つ得たという。
「もう二度と会社のために自分を犠牲にしない、それが自分の学んだことさ。自分が会社にとって不可欠の人間だなんて絶対考えちゃいけない。アダム(・ニューマン)の身に起こったことを見たら、わかるだろう?」
(翻訳・編集:川村力)