左から、グレック・セメンザ博士、ピーター・ラトクリフ博士、ウィリアム・ケーリン博士、
出典:(C) Nobel Media.
10月7日18時30分(日本時間)、2019年度のノーベル医学・生理学賞が発表された。
今年のノーベル医学・生理学賞に輝いたのは、米ハーバード大学教授のウィリアム・ケーリン博士、英オックスフォード大学教授のピーター・ラトクリフ博士、米ジョンズホプキンズ大学教授のグレック・セメンザ博士の3名。
細胞内の分子メカニズムの解明に携わった3名が授賞
ノーベル医学・生理学賞発表の様子。
Nobel Prize/YouTube
私たちの体をつくりあげる約37兆個もの細胞は、酸素がなくては活動することができない。そのため、酸素が不足した際には、何らかの方法で全身に酸素不足を伝える必要がある。
今回のノーベル医学・生理学賞は、酸素濃度の変化に応じて、細胞内の遺伝子の活動を調整するための分子メカニズムの解明に携わった3名の科学者に与えられた。
セメンザ博士は、細胞が酸素不足に陥った際に、細胞内に情報を共有するタンパク質「HIF」と、タンパク質の情報が保存されている遺伝子を発見。
ケーリン博士とラトクリフ博士は、酸素濃度に応じてHIFの量を調整する機構を解き明かした研究が評価された。
激しい運動をした後に酸素が不足して呼吸が苦しくなるように、酸素濃度の変化は私たちの体に直接的な変化をあたえる。ケーリン博士は、がんにまつわる研究の過程で今回の受賞につながる仕組みを突き止めたという。
今回のノーベル賞の授与は、細胞にまつわる基礎研究であると同時に、がんをはじめとした多くの病気に関連がある重要なテーマに対して与えられた。
ノーベル医学・生理学賞は2018年、京都大学の本庶佑教授が受賞。免疫細胞上にがん細胞を排除する仕組みを制御するタンパク質「PD-1」を発見し、がん治療薬「オプジーボ」の開発につながったことが大きく評価された結果だ。日本人の2年連続受賞はならなかった。
日本人候補者が続々の自然科学部門
10月8日、9日には、多くの日本人候補者が控える自然科学部門の発表が続く。
8日に発表されるノーベル物理学賞では、以下の3人をはじめとする日本人が候補者として挙げられている。
- 300億年に1秒程度しかずれない超高精度の時計「光格子時計」の開発者である東京大学の香取秀俊博士
- 温度を下げると電気抵抗がゼロになる「超伝導物質」の概念を覆した「鉄系超伝導物質」の発見者、東京工業大学 元素戦略研究センター センター長の細野秀雄博士
- 宇宙が誕生直後に急膨張したとする「インフレーション理論」の提唱者の一人である東京大学名誉教授の佐藤勝彦博士
また、9日に発表される化学部門では、「CRISPR/CAS9」という技術を用いて生命の設計図であるDNAを自由自在に編集する「ゲノム編集」の爆発的な普及に貢献した、アメリカ・カリフォルニア大学バークレー校教授のジェニファー・ダウドナ博士らが有力候補とされる。
ジェニファー・ダウドナ博士らが開発したCRISPR/CAS9は、簡単かつ低コストでのゲノム編集を可能にして生命科学に革命をもたらした。
Natali_ Mis/Shutterstock.com
一方、パソコンやスマートフォン、電気自動車など、現代社会のあらゆる場面で利用されている「リチウムイオン電池」の開発に尽力した東芝リサーチ・コンサルティングエグゼクティブフェローの水島公一博士と、旭化成名誉フェローの吉野彰博士。最強の永久磁石「ネオジム磁石」を発明した佐川眞人博士など、ノーベル化学賞は日本人受賞候補も豊富だ。
近年のノーベル化学賞は選考分野が多岐にわたっており、授賞の予想が非常に難しい。
2年ぶりの文学賞発表。村上春樹氏、多和田葉子氏が有力候補に
また、村上春樹氏、多和田陽子氏の受賞が期待されるノーベル文学賞は、2年ぶりの発表となる。2018年度は、ノーベル賞選考委員の家族による性的暴行疑惑があり、発表が取りやめになった経緯がある。
10日の発表では、2018年度と2019年度の2年分の結果がまとめて発表される予定だ。
2019年9月23日。国連の気候変動サミットで世界各国の指導者に向けて訴えるグレタ・トゥンベリさん。
REUTERS/Carlo Allegri
イギリスのブックメイカーでは、11日に発表される平和賞に、国連の気候行動サミットで世界の指導者たちを厳しく非難し、環境保護を訴えた、環境活動家グレタ・トゥンベリさんが最有力候補として挙げられている。
今後のノーベル賞の発表日程(すべて日本時間)。
- 物理学賞 10月8日(火)18:45
- 化学賞 10月9日(水)18:45
- 文学賞 10月10日(木)20:00
- 平和賞 10月11日(金)18:00
- 経済学賞 10月14日(月)18:45
(文・三ツ村崇志)