さよなら、ダンジョン駅!? ヤフーが開発する「GPS不要」の位置情報技術がすごい

SCAN

ヤフーが開発中の技術「SCAN」はGPSやWi-Fiなどの信号不要で屋内での現在地を特定できる技術だ。

撮影:小林優多郎

電車の駅構内で出口がわからなくなる。デパートなどの大型店舗で目的の店や陳列棚を見失う。そんなことはないだろうか。

筆者は自他共に認める方向音痴だが、スマートフォンの地図アプリなどのおかげで、見知らぬ土地でも目的地にたどり着けるようになった。しかし、地下や屋内は話が別だ。GPSの電波が届かない・届きにくい場所では正確な現在地はわからず、やっぱり道に迷ってしまう。

そんな屋内迷子にとって救世主となる可能性がある技術をヤフーは開発している。その名も「SCAN(スキャン)」だ。SCANはGPS情報を一切使わず、スマートフォンのカメラで地図を読み取るだけで現在地を特定し、移動後も現在地を教えてくれる技術だ。

SCANの概要解説動画。ヤフー本社内スペースでの実験の様子も確認できる。

出典:ヤフー

ヤフーは、10月1日から4日に台湾・台北市で行われた人間とコンピューターの関わりを研究するHCI(Human Computer Interaction)領域の国際的な会議「MobileHCI 2019」に出展し、このSCANを出展。同会議でデモ部門の最優秀賞にあたる「Best Demo Award」を受賞したという。

世界の最先端技術の集まる会議でも注目される同技術は一体どのようなものなのか。ヤフーでSCANの研究開発を進める鈴木健司氏と西紗記子氏に話を聞いた。

スマホで地図を撮るだけで現在地と向きを特定

SCANのポップ

SCAN技術の紹介ポップ。

前述のようにSCANはGPSなしでも現在地を特定できるのが最大の特徴だ。ざっくりとだが、以下の様なフローになっているという。

  1. 対象の地図をスマートフォンで撮影する
  2. 写真に対し画像処理を行い、正面から撮ったような画像に加工する
  3. 画像から特徴量を抽出し、どの地図か特定する
  4. 撮影した地図の画像と登録された地図の画像から三次元的な位置情報を算出。撮影した場所と向きを特定する

地図をカメラで撮る

ユーザーは対象となる地図を写真で撮る。この時、地図の真正面から撮る必要はない。

位置情報を特定

撮影後1、2秒で、現在地を特定。スマホには撮影した地図の画像が表示され、その上に自分の位置と向きが水色の点で表示される。

SCANを使うフローもいたってシンプルだ。ユーザーは指定された地図をスマートフォンのカメラで撮影するだけ。すると、撮影した地図上に現在地を示す青い点が表示され、自分がどこにいるのか、どの方向を向いているのかがわかる。

その後歩き始めても、スマートフォンのジャイロや加速度センサーなどを活用することで移動量や向きを算出。常に現在地を特定できるといった具合だ。

キーは「地図に対するユーザーの向きと距離」

SCANの仕組み

SCANの仕組み。

フローを文章にするととてもシンプルに見えるが、4番目の「三次元的な位置情報の算出」がSCANの真髄とも言える要素だ。

仮に3番目まででフローを止めたとすると、「地図の場所=現在地」となり、ユーザーが写真撮影時に「どっちを向いているのか」「どのぐらい地図から離れているのか」という情報が抜け落ちてしまう。すると基準点が現実とずれてしまうため、その後いくら正確にスマートフォンのセンサーでユーザーを補足しようと、場所が大きくずれたり、進んでいる方向がまるっきり違ってしまう。

西紗記子氏

ヤフーのエンジニアである西紗記子氏。

ヤフーでエンジニアを務める西氏は、デジタルな画像や動画を人間の目で見たときと同じようにコンピューターが理解するための研究分野であるコンピュータービジョンの研究を進めてきた。SCANの心臓部である「三次元的な位置情報の算出」は西氏の研究が大きく貢献している。

なお、センサー類で移動量を算出するということは、当然誤差も出てくる。そのため、SCANには再キャリブレーション(調整)機能が備わっており、特定の看板や扉などの目印をスマートフォンのカメラで撮影することで再度現在地の特定が可能となっている。

施設側も設置コストが非常に少ない

デモで使われた看板

デモで再キャリブレーション用の目印となった看板。これも特別なものである必要はない。

GPSを使わなくても現在地を特定できる、というのはユーザーの大きなメリットだ。それに加え、SCANは施設管理者の視点でも優れている。そこには、既存のソリューションに比べて「時間的・金銭的コストが少ない」という特徴もある。

例えば、現在アプリストアなどで公開されている屋内地図は、施設の持ち主などが設計図や店舗の情報などを、その地図サービスの求める形で提供する必要があり、準備に時間や手間がかかる。

一方、SCANで必要なのは画像としての地図とその地図が地図上のどこに設置してあるかといった情報、そして再キャリブレーション(調整)用の目印の写真だけだ。

特別なマーカーを新たにデザインに組み込む必要はなく、平面的なものであれば、すでに施設内に掲示してある地図で問題ないため、新しく地図をデザインしたり、ビーコンのような信号を発信する機器を設置する必要もない。

今後は“実装”への取り組みが必要

鈴木健司氏

ヤフーでデザイナーを務める鈴木健司氏。

今回のSCANの開発は、西氏の研究領域であるコンピュータービジョンの研究がある程度進み、同社のデザイナーである鈴木氏と合流したことで、その研究成果を実生活での問題解決に活かせないかと企画につなげたのが誕生のきっかけとなっている。

その際に、発想の基点となったのは地下鉄の駅構内だという。例えば、東京・渋谷駅の周辺は今もさまざまな工事が行われており(2027年度に整備完了予定)、11月には地下鉄の出入口とエレベーターの番号がそれぞれ変更になるなど、ネットなどでは「ダンジョン(迷宮)」などと揶揄(やゆ)されている。

西氏と鈴木氏

写真左から鈴木氏と西氏。

両氏によると、技術としての精度は高いものの、実装段階には至っていないため「実際のサービス展開時期はまったく白紙の状態」だという。

例えば、デモではサンプルデータとの比較評価や三次元的な位置情報の検出はスマートフォン内部で行っているが、多くの事業者や複数の地図などで行う場合には、データの管理面や速度面でクラウドなどでの処理の必要性が想定される。

また、現在は特定のiPhoneでのみ動作しているが、より多種多様なカメラセンサーの仕様を持つAndroidスマートフォンへの最適化も必要とされるだろう。

しかし、筆者のような方向音痴でなくても、ダンジョンと言われるような駅構内などの正確なガイドは、日常で活用する人や今後も増える訪日外国人にとっては、いますぐにでもほしい機能と言える。今後の開発状況に注目したい。

(文、撮影・小林優多郎)

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