天の川銀河の中心から噴射し、マゼラン雲(天の川銀河の渦巻きの下にある白い雲)に影響を与える大量の放射線(紫色)のイメージ。
James Josephides/ASTRO 3D
- アメリカ航空宇宙局(NASA)のハッブル宇宙望遠鏡が、我々の銀河系の中心にある超大質量ブラックホールの近くで起こった大爆発が約350万年前だったことを明らかにした。
- 銀河系のスケールでは、それは最近のことだ。その頃、人類の祖先はアフリカに住んでいた。
- ビデオは、この爆発がどのようにして私たちの銀河系から20万光年離れたところまで到達した放射を生み出したかを示している。
- 研究者は、爆発は核反応によって引き起こされた可能性が高いと述べている。
- ある研究者は、この発見は天の川銀河が科学者が考えていたよりもはるかに活発であることを示唆しており、銀河系に対する理解を劇的に変えているという。
我々の銀河の中心にある超大質量ブラックホールは、科学者が考えていたほど平穏ではないかもしれない。
新しい研究によると、わずか350万年前、天の川銀河中心のブラックホールは大爆発を引き起こし、コーン状の放射線を発射した。それは銀河系のスケールで最近だった。人間の祖先はその時に地球を歩いていたのだ。
おそらくは核反応によるこの爆発は非常に強力だったので、天の川銀河から20万光年の距離にあるマゼラン雲まで到達した。
マゼラン雲に対する爆発の影響を分析した研究が、まだ査読されていない研究を公開している論文共有サイトarXivに投稿された。
「研究結果は、天の川銀河に対する理解を劇的に変えるだろう」と研究の共著者であるマグダ・グリエルモはプレスリリースで述べた。
「私たちの銀河は、中心がそれほど明るくない不活発な銀河だと常に考えていました。これらの新しい結果は、その進化と性質を完全に再解釈しなければいけない可能性をもたらす」
天の川銀河
NASA/JPL-Caltech
研究チームは、アメリカ航空宇宙局 (NASA) のハッブル宇宙望遠鏡の観測結果を分析し、マゼラン雲の一部が高度に電離していることを明らかにした。
これらの電離ガス雲は、これまでの発見が示唆していた核反応の重要な証拠だ。
ハッブル宇宙望遠鏡は、銀河面の上下5万光年におよぶガンマ線やX線を検出している。2013年に科学者たちは、マゼラン雲の一部に水素のエネルギーレベルの変化を発見していた。研究者たちは、これらの変化を天の川銀河のブラックホールの活動によるものだと推定できたが、今回の新たな発見によって、状況はより明確になった。
爆発は中央のブラックホールの近くの小さな点から2つの円錐状の放射線を発生させ、マゼラン雲の大部分に衝突した。
下のビデオは、ジェームズ・ジョセフィデス(James Josephides)氏によって制作されたもので、紫色の円錐が、マゼラン雲まで到達している様子を示している。
「フレアは灯台の光のようだったに違いない」と、研究チームを率いた天文学者のジョス・ブランド・ホーソーン(Joss Bland-Hawthorn)氏は述べている。
「暗闇で、誰かが灯台を短時間点灯するところを想像してみてほしい」
爆発は約30万年続いたと研究者らは推定している。宇宙のタイムスケールでは、それは短い間だが、人間にとっては、それは空に永遠に固定されているように見えただろう。
人間の祖先は爆発を見たかもしれない
アウストラロピテクス・アナメンシス(Australopithecus anamensis)の顔の復元図。
Associated Press
爆発の時、人間の祖先がアフリカ中にいた。アウストラロピテクスは霊長類で、私たちのように2本の足で歩きましたが、類人猿特有の小さな脳を持っていた。
このグループには、東アフリカに住み、有名な化石「ルーシー」で知られる初期の人類であるアウストラロピテクス・アファレンシス(Australopithecus afarensis)を含んでいた。
彼らは頭上で起こった銀河の爆発に気付いていたかもしれないが、何も影響はなかっただろう。
「彼らは射手座の方向を見上げて、夜空の星よりも明るい、横向きに放たれている光の円錐を見たかもしない」とブランド・ホーソーン(Joss Bland-Hawthorn)氏はThe Conversationに語った。
「この光のショーは、人間のタイムスケールでは静的な光線として認識され、数千年単位では光の強弱があっただろう」
この爆発はブラックホールについて我々が何も知らないことを示している。
銀河系中心部の超大質量ブラックホールのコンピューターシミュレーション画像。
NASA, ESA, and D. Coe, J. Anderson, and R. van der Marel (STScI)
これほどの大規模な爆発を引き起こした原因が何だったのかはまだ不明だ。ブラックホールがどのように進化して銀河にどんな影響を与えるかは「天体物理学の大きな課題だ」と研究者らは論文で結論づけている。
「なぜこの活動が断続的なのかはわからないが、物質がブラックホールに取り込まれる仕組みと関係がある」と、ブランド・ホーソーン氏はThe Conversationで述べている。
「ホットプレート上の水滴のようなものが、その大きさに応じて、激しく跳ね、カオス的に爆発するのかもしれない」
この活動の本質をより深く理解しようと、ブラックホールの最初の写真を撮影した国際的な研究チームは、望遠鏡を我々の銀河系の中心に向けている。チームは今後5年以内に、ブラックホールのビデオ映像を公開する予定だ。
地球はこのようなフレアの危険は少ない。なぜなら我々は銀河の中心から遠く離れたところにいるからだ。
「これは数百万年前に起きた劇的な出来事だ」と、Arc Centre of Excellenceのリサ・ケウリー(Lisa Kewley)氏はリリースで述べている。
「このことは、天の川銀河の中心がこれまで考えられていたよりもはるかに活動的であることを示している。我々がその近くに住んでいないのは運がいい!」
(翻訳、編集:Toshihiko Inoue)