更新世のシベリアの草原の想像図。中央がマンモス。
Mauricio Antón/Wikimedia Commons
- シベリアの北東にある北極海の離島は、世界最後のマンモスの休息地として特定された。
- 新しい研究によると、これらの島のマンモスは、突然絶滅するまでに、北アメリカとヨーロッパのものよりも約7000年長く生き延びた。
- 遺伝分析により、これらのマンモスは、孤立した島で、近親交配によって絶滅した可能性が高いことが明らかになった。 遺伝的多様性が低下し、気候変動などに適応できなくなったからだ。
- 研究では、エジプト人がすでにギザにピラミッドを構築した後、つまり科学者がかつて考えていたよりもはるかに遅く、最後のマンモスが死んだことを示している。
約4000年前、北極圏の離島で、最後のマンモスが死亡した。
マンモス(正しくはケナガマンモス)は、地球の最後の氷河期に9万年近くの間、北半球を支配していたが、その後、気候の変化と人間の狩猟によって絶滅に追いやられた。
科学者たちは、スペインからシベリアまで、至るところにマンモスの骨格と凍った死体を発見した。これまで、この生物は約1万1000年前に完全に姿を消したと理解されていた。
しかし、ロシアとアラスカの間に位置する、海面の上昇によって孤立した小さな2つの島では、少数のマンモスが生き残った。研究者たちは、その1つであるウランゲリ島が最後のマンモスの生息地になったと考えている。これらの大きな牙を持つ巨大な象は、北アメリカやヨーロッパの同種より7000年ほど長生きした後、突然絶滅した。
つまり、種としてのマンモスは、科学者が以前考えていたよりもはるかに長持ちした。最後のマンモスが死んだ時、ギザの大ピラミッドはすでにエジプトに建設されていた。
クォータナリー・サイエンス・レビュー(Quaternary Science Reviews)誌に掲載された新しい研究によると、ウランゲリ島のマンモスは他の場所のマンモスとは違う原因で死んだ。
研究者らは、ウランゲリ島のマンモスは地理的に隔離され、近親交配によって遺伝的多様性を弱めたと主張している。それは極端な気象現象に適応することができず、突然の絶滅を招く可能性があった。
ウランゲリ島のマンモスの牙。
Patrícia Pečnerová
謎が多い、突然の絶滅
ウランゲリ島は、シベリアのチュコトカから北東へ約135km、チュクチ海にあり、約1万年前に大陸から分離した面積約8000平方kmの島だ。ここにやってきたマンモスは、4000年ほど前までは絶滅を免れていたようだ。
研究の著者らによると、骨の放射性炭素年代測定で、ウランゲリ島のマンモスは「かなり突然に」絶滅したことがわかったが、その理由は明らかではなかった。
以前の研究で、同様に隔離されたセントポール島のマンモスは環境要因により死亡したことが分かった。ウランゲリ島から約1600km南のベーリング海にあるその島は、わずか100平方kmだ。DNA、花粉、胞子などの化石を調べた科学者たちは、小さな島で淡水が不足し、マンモスは約5600年前に絶滅した可能性が高いことを発見した。その経過は、セントポール島のマンモスの骨の化石が、絶滅する直前にある種の元素が減少していたことが表している。
リン・バーネットと娘のダニエル(11カ月)は競売に出るマンモスの骨格標本を見ている。
Kirk McKoy/Los Angeles Times/Getty
マンモスの骨の中に手がかりが
そこで、今回の研究では、ウランゲリ島のマンモスの骨から同じ手がかりを探し、この島の個体群が同じ運命をたどったかどうかを調べた。
この島の4000年前のマンモスの骨と歯のコラーゲンを分析し、4万年前にアラスカやシベリアで死亡したマンモスの骨と比較した。
科学者たちは、骨の炭素、窒素、硫黄の減少を探していた。これは、環境の変化によるマンモスの食事の変化を示すものだ。
その結果、ウランゲリ島の化石の組成は、大陸の化石とは異なり、1万年前に氷期が終わって気候が温暖化し、世界中の他のマンモスがほとんど絶滅した時にも変化しなかったことが示された。
ウランゲリ島の川にある大きなマンモスの歯。
Juha Karhu/University of Helsinki
絶滅の直前でさえ、ウランゲリ島のマンモスの骨は、食事や環境のストレスの兆候を示していない。つまり、これらのマンモスは、幸運とは言えないが、気候の変化に影響されない島で、環境条件が変化しないまま死んでしまった。
実際、著者らは、ウランゲリ島は「典型的なマンモスの生態に適したニッチな環境を維持していた。おそらく現在でも」と述べた。
環境の変化でないとしたら、何が彼らを殺したのか
ウランゲリ島のマンモスが水分の不足や気候変動で絶滅した可能性は低いと考えられることから、研究者らは他に考えられる理由を探った。
ウランゲリ島には人間の居住地が1カ所しかなく、そこで海洋哺乳類や鳥の狩猟が行われていたを示す考古学的証拠があるため、人間の狩猟が絶滅につながった可能性は低いと著者らは書いている。さらに、この遺跡はマンモスが絶滅してから数百年後のものだ。
これまでに行われたウランゲリ島のマンモスの遺伝子解析では、近親交配で遺伝的多様性が大きく損なわれていることが明らかになった。
2017年の別の研究では、絶滅するまでに島の個体数が本土にいたときの個体数の43分の1に減少していたことが明らかになった。研究者はまた、マンモスには「有害な」遺伝子変異が蓄積しており、集団が疫病や飢饉、自然災害に耐えられなくなっていたことも示唆した。
極寒のツンドラを歩くケナガマンモスの群れの想像図。
Courtesy of Giant Screen Films/Reuters
原因が何かはまだわかっていないが、最終的に研究者たちは、最も有力なのは「短期的に起きた出来事」だという。
「その集団がすでに遺伝的な劣化によって弱体化していると想像するのは簡単です。異常気象の後に死亡したかもしれない」と、研究の共著者であるエルベ・ボヘレンス(Hervé Bocherens)氏はプレスリリースで述べた。
ボヘレンス氏らの提案の1つは、雪の上に雨が降ることで、マンモスが生存に必要な植物が育たず、さらに雪の上に氷の層ができる、というものだった。
2003年10月、カナダ北部のバンクス島ではこの現象でジャコウウシの群れの25%、2万頭が死亡した。2018年の研究によると、現代のウランゲリ島に生息するトナカイも過去一世紀の間に同様の氷結で1000頭が死んだという。
「この出来事は、動物の個体群に壊滅的な打撃を与える可能性があり、しかもかなり頻繁に起こるようだ」とボヘレンス氏らは結論づけた。
もしかすると、雪に降った雨が最後のマンモスを殺したのかもしれない。
(翻訳、編集:Toshihiko Inoue)