宇宙で肉を「印刷」…どんな場所でも食料は生産できる

肉の細胞を乗せた宇宙船「ソユーズMS-15」が、国際宇宙ステーションに向けて発射された。

肉の細胞を乗せた宇宙船「ソユーズMS-15」が、国際宇宙ステーションに向けて発射された。

CC Yuzhny/Rocosmos

  • 国際宇宙ステーションに滞在中のロシア人宇宙飛行士によって、3Dプリンターを用いた肉の「印刷」が、初めて行われた。
  • 9月25日、イスラエルのフードテック・スタートアップ、アレフ・ファームズは、ロケットに牛の細胞が入った容器を積み込んだ。
  • 国際宇宙ステーションに到着した牛の細胞は、3Dプリンターにセットされ、薄いステーキ肉へと成形された。
  • この実験により、地球上の極限環境でも、肉が製造できる可能性が示された。

宇宙食はそれほどおいしくないことで知られているが、最新のテクノロジーにより宇宙飛行士の食事はゆっくりと、だが革命的に変わりつつある。初期の宇宙飛行士は、歯磨きペーストのようなチューブ入りの食品を、絞り出して食べていた。今ではアイスクリームや新鮮な果物を食べ、食事の味付けには液体の塩やコショウが使われる。

だが、微小重力に耐えられる食べ物の種類には限界がある。例えば、パンくずのような破片が生じるものは、宇宙船の電気システムやエアフィルターを詰まらせてしまうため、危険だとされている。また、何らかの事情で食料の補給ができなかった場合に備え、長期にわたって保存できるものでなくてはならない。

そこでテック企業は、宇宙船の中で食べ物を生成する実験をしている。

9月下旬、イスラエルのフードテック・スタートアップ、アレフ・ファームズ(Aleph Farms)は、宇宙で肉を「印刷」することに初めて成功した。ただ、肉を製造すること自体は初めてというわけではない。同社は2018年12月から実験室でステーキ肉を製造してきた。今回の実験では、どんなに厳しい環境でも肉が製造できる可能性が示された。

宇宙飛行士が肉の細胞を3Dプリンターに投入

2018年12月、国際宇宙ステーションでの宇宙飛行士オレグ・コノネンコ(Oleg Kononenko)氏。この時3Dバイオプリンターを用いた初めての実験が行われ、マウスの甲状腺細胞等がプリントされた。

2018年12月、国際宇宙ステーションでの宇宙飛行士オレグ・コノネンコ(Oleg Kononenko)氏。この時3Dバイオプリンターを用いた初めての実験が行われ、マウスの甲状腺細胞等がプリントされた。

3D Bioprinting Solutions

実験室で肉を製造するには、牛から採取した細胞を牛の体内環境を模倣した「スープ」に浸す。すると、それが成長して薄いステーキ肉の一片のようになる。

そうしてできたステーキを味わった人は、少し物足りなかったようだが、実験の目的は牛肉の歯ごたえや風味を再現することにあった。

「我々は筋肉繊維や血管など、完全に組織化された肉を作る能力を持っている唯一の企業だ」と、アレフ・ファームズのCEO兼共同創立者、ディディエ・トゥビア(Didier Toubia)氏は2018年、Business Insiderに語った

今回、宇宙で肉を製造するために、アレフ・ファームズは、プロセスを若干変更する必要があった。

まず、牛の細胞と培養液を容器に入れて密閉して、カザフスタンにあるソユーズに積み込んだ。そして9月25日、地球から約400キロメートル上空を周回する国際宇宙ステーション(ISS)のロシア側モジュールに向けて出発した。

ロシア人宇宙飛行士、オレグ・コノネンコ氏。

ロシア人宇宙飛行士、オレグ・コノネンコ氏。

3D Bioprinting Solutions

ISSに到着したバイアルは、ロシア人宇宙飛行士によって、ロシアの企業、3D・バイオプリンティング・ソリューションが開発した磁気プリンターにセットされた。プリンターは細胞を生成し、筋肉組織(つまり「肉」)が製造された。こうしてできた肉のサンプルは、宇宙飛行士が食べることなく、10月3日に地球に戻ってきた。

「この実験により、これまで考えていたことがまさに証明された」と3D・バイオプリンティング・ソリューションのプロジェクトマネージャー、グレゴリー・シャルノブ(Grigoriy Shalunov)氏はBusiness Insiderに語った。将来的には深宇宙へのミッションや月や火星での最初のコロニーのために、タンパク源を供給していきたいという。

宇宙で人工的に食料が生産されたのは、今回の実験が初めてではない。2015年、国際宇宙ステーションでロメインレタスが栽培された。NASAは現在、月を周回する宇宙ステーション「ゲートウェイ」の開発を提案しており、そこではレタス、イチゴ、ニンジン、ジャガイモなどの栽培ができる「スペース・ガーデン」の設置が検討されている。

地球上のどこでも、肉が生産できる可能性が示された

微小重力の環境でも3Dプリントで肉が製造できるということは、宇宙飛行士にとってよいニュースであるだけではない。地球上の極限環境、特に水や土地がほとんどない場所でも肉が製造できる可能性を示している。

アレフ・ファームズが製造した、牛を殺さなくてもいいステーキ。

アレフ・ファームズが製造した、牛を殺さなくてもいいステーキ。

Afik Gabay

約1キログラムのステーキ肉(一般的にスーパーで売られている厚切り肉)を生産するのに、通常、最大約2万リットルの水が必要となる。だが培養肉の場合、従来の生産方法に比べて水も土地も10分の1で済み、製造に要する期間も短い。また、調理時間もほんの数分であるため、アレフ・ファームは自社で製造した肉を「ミニッツ・ステーキ」と呼んでいる。

天然資源を保全しながら多くの食料を生産する必要性は、かつてないほど切迫している。国連の気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change:IPCC)の最新の報告書によると、土地などの資源を必要とする畜産を含む食料産業から排出される温室効果ガスは、全世界の37%を占めるという。

今回の宇宙での実験は食料問題に対する回答だと、アレフ・ファームズはBusiness Insiderへのコメントで述べた。

「アメリカ、ロシア、アラブ諸国とイスラエルが紛争を乗り越え、気候変動と食料不足の問題に科学の力でともに取り組む時が来た」と同社は言う。

「我々は皆、同じ地球に生きているのだから」

[原文:Astronauts just printed meat in space for the first time — and it could change the way we grow food on Earth

(翻訳:仲田文子、編集:Toshihiko Inoue)

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