中国の習近平主席。2015年3月。
Lintao Zhang/Getty
- 中国の共産党は、ソーシャルメディアの投稿や映画のシーンを定期的にチェックしているようだ。
- 中国政府によると、多くの外国企業は中国の政治に対する誤解や、中国国民への侮辱で怒りを買っている。
- 中国市場は、多くの人々が海外の商品や海外旅行にお金を費やすため、非常に価値が高い。
- これは、ヴェルサーチ、マリオットホテル、NBAなど、中国に進出した外国企業・ビジネスのリストだ。
NBAは中国で嵐に巻きこれている。ヒューストン・ロケッツのGM、ダリル・モレイ(Daryl Morey)が香港での抗議運動への支持をツイートし、中国のNBAファンや政府を怒らせ、大問題に発展したのだ。
NBAは今回、他の欧米ブランドがここ数年ですでに経験した、中国でのビジネスの難しさを知った。
中国共産党は、権力を脅かすようなコンテンツには極めて敏感であり、ソーシャルメディアの投稿、映画のシーン、ニュース報道を定期的にチェックしている。また、中国の政治に関与し、国境を誤って解釈し、国民をいらだたせているとして、複数の外国のブランドや企業を攻撃してきた。
多くのブランドがこれらの問題で中国政府に圧力を受けているが、中国の消費者が世界の小売業に影響力を持っていることを考えれば、驚くことではない。
Bain&Companyによると、景気の減速にもかかわらず、中国本土の消費者は2018年に1700億元(230億ドル)の贅沢品を消費しており、その額は今後も増えていくという。
以下に、中国の怒りを受けた8つのブランドと、彼らがいかに対応したかを紹介しよう。
NBAとヒューストン・ロケッツは、香港での抗議活動を支援するというロケッツGMのツイートから距離を置こうと必死だった。
ロケッツのホームアリーナ、テキサス州ヒューストンのトヨタセンター。
Ronald Martinez/Getty Images
ロケッツのゼネラルマネージャーであるダリル・モレイ(Daryl Morey)は、10月初めに香港の抗議者を支持するツイートをした後、論争を巻き起こした。
中国共産党は香港のデモを繰り返し批判しており、中国のソーシャルメディアや報道機関がデモを大々的に報道することを妨げている。
モレイはすぐにツイートを削除し、自身の政治的見解はロケットやNBAとは関係ないと述べたが、ヒューストンの中国領事館はこのツイートを批判し、中国国営放送局はNBAの試合の放映を中止すると述べた。
ロケットのオーナーであるティルマン・フェルティッタ(Tilman Fertitta)は直ちに、チームは「政治とは無関係」と主張し、モレイの声明からチームとその所有者を引き離した。
バスケットボールは中国で非常に人気があり、昨シーズンは約5億人がライブストリーミングでNBAの試合を観戦した。
NBAはまた、モレイのツイートが「中国にいる多くの友人やファンを深く傷つけ、残念なことである」という声明を発表した。
NBAコミッショナーのアダム・シルバー(Adam Silver)は、モレイの政治的見解を表明する自由を擁護し、リーグとしては選手、従業員、チームオーナーの政治的意見を規制したり裁定したりしないと述べた。
スワロフスキーは、香港での抗議活動の中、香港を国と表現した。
2016年6月、オーストリア、ウィーンのスワロフスキーの店頭のロゴ。
Leonhard Foeger/Reuters
ジュエリーメーカーのスワロフスキーは2019年8月、香港での抗議活動の最中に同社のウェブサイトで香港を国だと表現したことについて謝罪した。
香港は中国の都市だが、独立した憲法と司法制度の下で運営されている。香港市民は、その自治への侵略に抗議している。
フェイスブックで、同社は「中国の国家主権に関する誤解を招くような表現」であったことを謝罪した。
「スワロフスキーは、中国の国家主権と領土の一体性を常に尊重し、中国市場に世界的に統一されたサービスと製品を提供してきた」
ヴェルサーチは、香港を国と記載したTシャツを作った。
ヴェルサーチの最高クリエイティブ責任者、ドナテラ・ヴェルサーチ。
Evan Agostini/Invision via Associated Press
2018年8月、香港を国だと表現したヴェルサーチのTシャツの写真が中国のソーシャルメディアで拡散し、市民の怒りを買った。
シャツには、「パリ、フランス」、「ニューヨーク、アメリカ」、「北京、中国」などと都市名と所属国が記載されていたが、香港の場所には「香港、香港」と書かれていた。
中国の女優であり歌手でもあるヤン・ミーは「中国の領土と主権はいつでも神聖かつ不可侵だ」と述べ、このブランドのアンバサダーを辞任した。
ヴェルサーチはその後、最高クリエイティブ責任者ドナテラ・ヴェルサーチの謝罪のツイートを英語と中国語で掲載した。
「この度の弊社のミスを深く謝罪する。私は中国の国家主権を軽視したことは一度もない。だからこそ、このような不正確さと、それが中国にもたらした苦痛について謝罪したかった」
コーチが、香港と台湾を個別の国として扱った。
TY Lim/Shutterstock
コーチも、2018年5月に香港と台湾を中国とは別の国と扱ったシャツを販売したことについて謝罪した。
中国は台湾は中国の一部であると繰り返し主張し、外国政府や企業にも同様の扱いをするよう要請している。
コーチは8月の声明で、Tシャツのデザインは「深刻な不正確さ」で「即座に全世界の販売店から商品を引き上げた」と述べた。
また、「私たちはこの誤りの重大さを十分に認識しており、深く反省している」と付け加えた。
「コーチは中国の長期的発展に尽力しており、中国人の気持ちを尊重している」
中国のモデルであるリウ・ウェンはコーチとの契約を解除し、Weibo上で「私のブランド選びの失敗で、人々に苦痛を与えたことをお詫びする。私は祖国を愛し、国家の主権を断固として守る」と述べた。
ドルチェ&ガッバーナは、中国人を貶めるような広告を制作し、創設者が差別的であることを示す画像が漏洩した。
ドルチェ&ガッバーナの広告キャンペーンで、イタリア料理を箸で食べる中国人モデルが登場した。
Dolce & Gabbana/Instagram
イタリアのファッションブランドは2018年11月、中国人モデルが箸でイタリア料理を食べようと悪戦苦闘する様子を描いた広告キャンペーンを行ったことや、共同創業者のステファノ・ガッバーナ(Stefano Gabbana)がこのキャンペーンを批判した女性に対する人種差別的な発言のスクリーンショットが公開されたことで、中国人の怒りを買った。
同社は待望の上海でのファッションショーをキャンセルし、「今日の出来事は私たちだけでなく、このイベントを実現するために昼も夜も働いていたすべての人々にとっても非常に残念なこと」と語った。
Bloombergが3月に報じたところによると、中国のECサイトは同社の製品をサイトから撤去しており、同社は中国での販売不振に苦しんでいるという。
カルバン・クラインは、香港、マカオ、台湾をウェブサイトで国として扱った。
2017年5月、メキシコシティのカルバン・クライン。
Henry Romero/Reuters
カルバン・クラインは、8月にWeibo上で、「ウェブサイト上で言語や国についての誤解によって引き起こされたこと」について「深く」謝罪すると述べた。
また、「カルバン・クラインが、中国の主権及び領土の完全性を完全に尊重することを改めて表明する」と付け加えた。
マカオは香港と同様、中国に属する特別行政区だ。
アウディは、台湾、チベット南部、新疆の一部を除いた中国の地図を使用した。
Audi A8。北京、2004年。
REUTERS/Wilson Chu
アウディは2017年3月の年次記者会見で、台湾、チベット南部、新疆ウイグル自治区の一部を除いた中国の地図を用いた。チベットや新疆ウイグルの少数民族は、分離主義者であり、国家安全保障上の脅威であるとみなされている。
環球時報によると、アウディは翌日、「中国人の感情を傷つける誤った地図」と謝罪したという。「これは重大なミスであり、心からお詫びする。これはアウディが学んだ深い教訓だ」と声明は続けた。
マリオットホテルは、顧客に電子メールで送付したアンケートで、香港とマカオと台湾を別々の国として扱った。
2010年5月、上海のマリオットホテル。
Reuters
2018年1月、マリオットホテルは、顧客にメールで送信したアンケートで、香港、マカオ、台湾、チベットを国として扱った。
これに対し、上海市当局は、マリオット・インターナショナル社をサイバーセキュリティーおよび広告法違反の疑いで調査し、同社のウェブサイトとアプリを1週間停止するよう命じた。
マリオット・インターナショナルの最高経営責任者は「中国の主権と領土の一体性を尊重し支持する。大変申し訳ない」と、公式に謝罪した。
カンタス、エール・フランス、エア・カナダ、ブリティッシュ・エアウェイズ、その他多くの航空会社が台湾を国として記載している。
デルタ航空の飛行機。
Shutterstock / Markus Mainka
中国民間航空局は2018年4月、少なくとも36社の外国航空会社に対し、台湾の扱いを中国の領土に変更するよう求める文書を出した。多くの航空会社が、中国国内で罰せられたり、急成長する旅行市場へのアクセスを失うことを恐れて、この要求に従った。
カンタス、エール・フランス、エア・カナダ、ブリティッシュ・エアウェイズ、マレーシア航空などがこれに含まれる。
ユナイテッド航空は、台湾を台湾の通貨を使用する場所として記載した。日本航空と全日空は中国語のサイトに「台湾、中国」という記述を導入しただけだった。
中国の影響はビデオゲームの世界にも及んでいる。ブリザード・エンターテインメント社は10月、香港での抗議運動への支持を表明したプロのeスポーツ選手を1年間追放した。
Blitzchungは、12カ月間、トーナメントへの出場を禁止された。
Invent Global
アメリカのビデオゲーム会社、ブリザード・エンターテインメントは、プロのeスポーツ選手Blitzchungが催涙ガスを防ぐようなガスマスク姿で「香港を解放して、私たちの時代に革命を」と叫んだ後、彼に罰金を科し、1年間の出場停止にした。
ブリザード社はその後、公式チャンネルからインタビューの映像も削除した。
これらのブランドが中国に謝罪している大きな理由は、市民の愛国心と地政学的な問題への敏感さにある。
2019年2月に香港で開催されたシンポジウムでの中国の習近平国家主席。
Kin Cheung/AP
中国市場へのマーケティングに特化した会社であるエマージング・コミュニケーションズUKのマリー・タラック(Marie Tulloch)はThe Daily Beastに次のように語った。
「欧米のデザイナーやマーケティング担当者は自分たちのコンテンツを文化的にチェックすることに慣れていない。他の国々、特に中国では、愛国心やプライドが非常に大きく、消費者にとって大きな問題となる。インターネット世代は、前の世代よりも発言力が強く、何か気に入らなければ意見を述べることにも積極的だ」
(翻訳、編集:Toshihiko Inoue)