「まだまだ氷山の一角ちゃうか」嘆くOB。関電「原発マネー」問題、深まる闇と出回る告発文

八木誠

関西電力会長の八木誠氏。高浜原発をめぐる金品授受問題をめぐり、辞任を発表した(写真は2011年10月のもの)。

Shutterstock/Toru Hanai

関西電力の役員ら20人が計約3億2000万円分の金品を受け取っていた問題は、日増しに原発事業をめぐる闇の深さが浮き彫りになり、呆れと驚きをもって受け止められている。ようやく10月9日、八木誠会長と岩根茂樹社長が辞任を発表、関係していた役員らと共に責任を取る形になった。

関西電力という企業の不正を明らかにするには、まずは今回問題になっている高浜町元助役との関係をめぐる実態の解明が急務だ。どれだけの幹部、社員が関わり、いつから、なぜ、どのように始まったのか、疑問は無数にある。

一方、他の電力会社や自治体、政界などでも、「原発マネー」の授受やその還流があったのではないかという疑いがあり、そうした報道も出始めている。

情報開示に極めて後ろ向きな企業

筆者は電力大手による原発の再稼働や廃炉、推進派と反対派の声、東京電力福島第1原発事故の現場などを取材してきた。その中で、関電に関するスキャンダルを耳にしたことは一度や二度ではない。

今回の金品受領問題が明るみに出る以前から、関電にまつわる告発文や怪文書はたびたび出回っていた。

ただ、一連の騒動で浮き彫りになったように、関電は情報開示に極めて後ろ向きで、対応は後手に回り、問題は先送りにされる傾向にある。

2018年、金品受領問題の報告書を取りまとめていたにもかかわらず、上層部だけにその事実をとどめ、表向きは「コンプライアンス上の重大な違反0件」としていたことが全てを物語っている。

本稿では、今回の件とは別の「黒いうわさ」の一端を示す。

「これほど頻繁に告発文や怪文書が出回る会社なんて異常だ」

社内事情をよく知る関電OBは、今回の金銭問題が表面化した古巣の醜態にあ然としつつ、表面化していない多くの火種がくすぶっていることを示唆した。

「まだまだ氷山の一角ちゃうか」

火種とは、今回の金品の授受をめぐる問題以外の「疑わしき」事案だ。筆者が関電を取材していた期間だけで、少なくとも2件はあった。

意図的な工事遅延で特定業者に金?

大阪湾

関電を巡っては複数の告発状が出回っている。そのうちの一つが大阪府のLNG基地工事をめぐるもので、地元漁連などと不適切な関係が糾弾されていた。

Shutterstock/cowardlion

1つは、2015年ごろから出回っていた「関西電力社員による、不祥事(傷害事件、背任行為)に関する隠蔽について」と題された告発文だ。

「皆さんの力で関西電力の隠蔽体質を暴いていただき、関西電力が本当に社会から信頼される企業として再生する機会を作っていただきたいと思います」

と締め括られる2ページの書面には、大阪府堺市のLNG(液化天然ガス)基地のタンク工事で、幹部Aが地元漁協などとの太いパイプを笠に着て横暴な振る舞いをしている、というものだった。

告発文や追加取材によると、Aは1960年ごろ関電に入社し、文書が出回っていた当時は70歳近かった。LNG基地の用地買収などに当たる中で、遅くとも2000年代以降、大阪府漁連や地元漁協の有力者と親密な関係を築くようになっていた。LNGのタンク工事やタンカーの入船には漁業関係者の協力が不可欠とされ、その窓口となるAは次第に関電内で余人をもって替え難い存在となっていった。

文書から一部その行状を抜粋する(固有名詞は加工)。

「工事を遅らせることによって、漁業関係者が経営する企業であるB社、C社に継続的に仕事を発注でき、漁業者へ金が落ちることになるので、Aが意図的にそういった構図を築き上げてきた。特にC社へは資材置き場の管理業務を委託し、年間7億円程度が流れており、既に トータルで約50億円がC社へ流れている」

「工事が遅れた原因は、Aの「漁業(※原文ママ)や地元が怒っている」という虚言によるものであることがわかっていながら、関西電力はAに対して注意や告訴することなく放置」

「Aに対しては報復(漁連を盾にした業務妨害)を恐れて、罪を犯しても処分することができず野放し状態であり、もはや関西電力の自社による浄化作用は崩壊している」

Aは他にも、同僚への傷害事件を起こしたものの揉み消されたことや、工事の関連業者から便宜が図られていた疑惑が、詳細につづられている。

飲酒で3件の逮捕事件

飲酒

2017年にも飲酒に関する不祥事が。

Shutterstock/moomsabuy

もう1件は「京都電力部長」名の2017年11月28日付「飲酒に関する注意喚起について」という文書。

それによれば、

「当社電力流通部門の社員が飲酒に起因する不祥事を起こし、逮捕される事件が3件発生しました。かなりの量の飲酒をしており、社会的に絶対に許されない行為を起こしてしまいました」

と記され、

「飲酒運転、暴力、痴漢、盗撮等、社会的に許されない行為は絶対にしない」

といった社員向けの注意書きがされていた。事件を踏まえ、こう指摘している。

「当社のこれまで築き上げてきた社会からの信頼を失うことになってしまいます」

関電には当時、「京都電力部」や「和歌山電力部」など各地に電力部があった。

「俺がおらんと困るだろ」

LNGの告発文について当時筆者が取材をしたところ、現場を取り仕切る責任者の1人は「こうした文書が出回っている以上、何とかしないといけない。世に出てしまうと、まさに恥さらしになる」と話し、大筋で内容を認めた。

書面で告発されているAについては、「常に高圧的で、『俺がおらんと困るだろ』と人につらく当たる。みな萎縮してしまって物を言えない。はたから見れば異常。周囲に当たり散らして手に負えない」と評した。

地元漁協と親密な関係を築いたAを怒らせると、タンク工事の遅れにつながるとの懸念から、関電は火力事業本部などを中心にAの擁護に動いたという。責任者は、この件が当時の経営幹部の耳に入っていたことも明かした。

LNG工事と飲酒逮捕をめぐる疑惑も、本来なら社内で速やかに調査をし、いずれも事実ならば、即刻公表すべき事案だ。

1年前の報告書を今になって公表

高浜原発

以前にも高浜原発に関する不祥事で謝罪を行なっている

Getty Images/Buddhika Weerasinghe

今回高浜原発をめぐる金品受領を内密にし、メディアが報じた途端に急きょ会見して謝罪した経緯や、その最初の会見では情報を小出しにして再び会見することとなった情報開示への消極姿勢を踏まえれば、これら2つの事案も自ら公表するとは考えにくい。10月2日に公表された金品受領問題の「報告書」の日付は、1年以上前の2018年9月11日だった。

本稿はまず「告発文、怪文書が出回っている」という事実を伝える。同一の文書は既に複数の報道機関も入手し、関電側も認識しているようだ。必要に応じ、関電側は内容の真偽について釈明する用意があるだろう。

Business Insider Japanでは、この2つの件について関電に事実関係を確認する質問書を送ったところ、以下のような回答を得た。

1つ目の告発状については、

「ご指摘の点については、既に適切に対処しています。なお、具体的な内容については、プライバシーに関わるもので、回答を差し控えさせていただきます」

2つ目の文書については、

「社内の発信文書に関する、詳細については回答を差し控えさせていただきます」

としている。

うみを出し切れるのか

八木会長はじめ今回の金品授受に関わった役員たちの辞任は発表されたが、太陽光発電など原発以外の部門でも幹部による不透明な金品の受領が報じられ、徹底した調査を求める声が高まっている。

お金

近年度々起こる企業の金品絡みの不祥事

撮影/今村拓馬

問題は関電以外に波及している。関電は騒動について福井県に謝罪し、県側は遺憾だとしたが、当の県幹部も元助役から金品を受け取っていたと報じられた。

また、高浜原発の不透明な金は、政界へ流れていたとの報道もある。

一方、原発を持つ他の電力大手は、いずれも関電と同様の事例はないと説明している。

関電コンプライアンス

出典:「関西電力グループレポート2019」より

「関西電力グループレポート2019」によると、2019年度は「前例にとらわれず、自ら考え行動する自律的なコンプライアンス推進」を基本方針として、重点テーマに「前例踏襲による不適切事象の防止」「良識ある行動の徹底」などを掲げていた。絵に描いた餅とはまさにこのことだ。

関電は新たに第三者委員会を設置し、再調査に乗り出す。八木・岩根両経営トップは問題発覚後も職に止まるとして批判が強まっていたが、9日、辞任を表明するに至った。岩根氏は第三者委の調査結果が出た後に辞任するとしているが、主体的に徹底究明に臨むことが強く求められる。

今回の一件は降って湧いたというよりも、押し込められていたマグマ溜まりが一気に噴出した形に近い。疑惑が洗いざらいきれいにならない限り、「全てのうみを出し切る」(八木会長)には到底至らないだろう。



佐々岡哲:社会問題や事件を主な対象として取材するライター。大手メディアで関西を中心に記者経験を積み、フリーに転身。

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