【ノーベル化学賞】「電池依存社会」はどうなる? 激しさ増すポスト・リチウムイオン電池開発競争

2019年ノーベル化学賞受賞者

左から、グッドイナフ博士、ウィッティンガム博士、吉野博士。

出典:© Nobel Media 2019. Illustration: Niklas Elmehed

スマートフォンやパソコン、ドローンなどあらゆるところに使われているリチウムイオン電池。現代はまさに「電池依存社会」だ。

10月9日、リチウムイオン電池の基礎研究から開発に携わった米ニューヨーク州立大学教授のスタンリー・ウィッティンガム博士、米テキサス大学教授のジョン・グッドイナフ博士、そして、旭化成名誉フェローの吉野彰博士の3人へのノーベル化学賞の授与が発表された。

気候変動による地球温暖化への対策として有効と考えられている電気自動車の普及や、災害による停電時の緊急電源としての利用、自然エネルギーをさらに活用していくためにも、今後ますます、リチウムイオン電池の活躍が期待される。

その一方で、アカデミアの世界ではポスト・リチウムイオン電池の座を狙った研究開発競争が激しさを増している。

理論限界近くにまで高性能化したリチウムイオン電池

電気自動車の充電風景

ハイブリット車や電気自動車は近年急速に普及している。吉野博士らへのノーベル化学賞の授与も、環境問題に対する意識の高まりが背景にあるといえる。

michelmond / Shutterstock.com

これまでの研究によって、リチウムイオン電池の性能は大きく向上し、スマートフォンやパソコンのバッテリーは長持ちするようになった。しかし、自動車や飛行機をリチウムイオン電池だけで動かすには、実はまだ不安がある。低コスト、安全性も常に要求されている。

電気自動車は一度のフル充電で400km以上の距離を走行できるようになった。開発当初にくらべて走行距離は飛躍的に伸びたものの、この数値はあくまでも特定の条件下での値だ。実際の使用環境次第では、走行距離が短くなりうるうえ、何年も繰り返し使用する中で、リチウムイオン電池の劣化は避けられない。

そう考えると、基本性能としてもう少し長い距離を走行できる方が実用的だ。バッテリーの持ちは長ければ長い方が良い。

単に搭載するリチウムイオン電池の数を増やしたり、大きくしたりすればこの問題は解消できる。しかし、それでは重量が増えて燃費が悪くなるうえ、レアメタルであるリチウムのコストもかさむ。

既存のリチウムイオン電池の性能は、すでに理論的な限界に近いと言われる。リチウムイオン電池の性能をさらに向上させて、電池のもちを長くすることも難しい。

つまり今後、電気自動車や電気を動力源とした飛行機の実用化を進めていくためには、同じ大きさで、より多くの電気を蓄積できる(エネルギー密度の高い)、「次世代蓄電池」の登場が不可欠なのだ。

次世代1:理論的には“最強”の「リチウム空気電池」

試験的に作られたリチウム空気電池

試験的に開発されたリチウム空気電池のパック(写真中央)。直径16mmの丸いリチウム空気電池(写真左)の10個分を1セットとし、10セット重ねて1パックをつくっている。厚さは8mm程度。

提供:NIIMS 久保佳実研究員

次世代電池の候補の一つとして挙げられるのが、「リチウム空気電池」だ。電気を生じさせる化学反応に空気中の酸素を利用する電池だ。

リチウムイオン電池など一般的な電池は、電気を発生させる化学反応の際に、電池の「内部」に含まれる物質を利用する。そのため、電池は化学反応に必要な物質の量だけかさばる。

一方、リチウム空気電池は、プラス極側の化学反応に電池の「外側」にある空気中の酸素を利用するため、その分、体積を小さくすることができる。

リチウム空気電池を研究している物質・材料研究機構(NIMS)の久保佳実博士によると、リチウム空気電池は、同じ重さのリチウムイオン電池とくらべて、理論的に5〜10倍の電気を蓄積することができるという。数ある電池の中でもエネルギー密度の理論値は最高の部類だ。

久保博士によると、現時点では、充放電を繰り返す際に劣化しやすいことが課題として残っているという。また、空気の利用が前提となるため、今後発展が期待される宇宙産業で使用できる場面は限られる。

とはいえ、その高いエネルギー密度は、電気自動車や電気飛行機の電池として非常に魅力的だ。

次世代2:電池の常識を打ち破った「全固体電池」

もう一つ、文字通りすべての部品が固体でできた「全固体電池」も、次世代蓄電池の有力候補だ。

リチウムイオン電池をはじめとした一般的な電池には、「電解液」とよばれる可燃性の液体が含まれている。この液体の中をリチウムイオンが移動することで、電流が生じる。この電解液を固体(固体電解質)に置き換えたのが、全固体電池だ。

全固体電池は、いわば電池の常識を覆した電池である。

リチウムイオン電池の構造

一般的なリチウムイオン電池の構造。プラス極とマイナス極の間にある領域には、可燃性の電解液が含まれている。イオンは電解液中で非常に移動しやすいため、電流が流れやすい。

出典:© Johan Jarnestad/The Royal Swedish Academy of Sciences

電解液は、液漏れによる電池の劣化や発火事故の原因にもなることがある。リチウムイオン電池を飛行機に預けることができないのは、気圧の変化によって電解液が漏れ、発火してしまう懸念があるためだ。

つまり、電解液を固体に置き換えることができれば、リチウムイオン電池に比べて安全性が大きく向上する。

全固体電池は熱にも強く、100度近くでも作動する。リチウムイオン電池の利用可能温度が60度程度であることを考えると、より汎用性の高い実用的な電池として非常に魅力的だ。

全固体電池のエネルギー密度は、リチウム空気電池ほど高くはないとされるが、それでも、プラス極とマイナス極、固体電解質の材質や構造を工夫することで、ポスト・リチウムイオン電池の有力候補といえる。

実際、大学だけではなく、トヨタ自動車をはじめとした自動車メーカーでも、積極的に開発が行われている。

ポスト・リチウムイオン電池の台頭による、新時代の幕開け

このほかにも、リチウムをナトリウムに代替して資源的な問題の解消を狙った「ナトリウムイオン電池」や、最近の研究によってリチウムイオン電池を凌駕するエネルギー密度が確認されはじめた「マグネシウム二次電池」など、ポスト・リチウムイオン電池の座を狙う次世代蓄電池はさまざまだ。

東京理科大学教授で広く蓄電池に関する研究をしている井手本康博士は、こう話す。

「リチウムイオン電池の開発は、ノーベル賞の受賞からも分かるように、日本、アメリカで先導的に行われてきました。次世代蓄電池の研究でも、日本では官学で研究が進んでいます。特に全固体電池には企業もいち早く参入しており、ここ数年はこの分野で世界的にも先導しているトップクラスの研究を展開しています」(井手本博士)

電気自動車や電気飛行機、さらにドローンなど、長持ちしてコンパクト、さらに安くて安全性も高い電池への需要は高い。

リチウムイオン電池の登場によって、電気依存社会ともよべる現代社会が訪れたように、ポスト・リチウムイオン電池の台頭は、新たな社会の幕開けを告げることになるだろう。

(文・三ツ村崇志)

編集部より:初出時、一部表記で、井手博士としておりましたが、正しくは井手本博士です。お詫びして訂正致します。 2019年10月11日 14:38

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