スピッツァー宇宙望遠鏡の赤外線カメラで、2006年に撮影された天の川銀河の中心部。
NASA, JPL-Caltech, Susan Stolovy (SSC/Caltech) et al.
- 天の川銀河(銀河系)の中心部を赤外線でとらえた画像を、NASAが再び公開した。
- その画像にはかつてないほどの精密さで銀河系中心部が描かれているが、もうすぐ打ち上げられるNASAのジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)では、より高精度の画像が撮影できる。
- JWSTが搭載する高性能の赤外線カメラにより、銀河の中心部にある超大質量ブラックホールの降着円盤の姿さえ撮影できる可能性がある。降着円盤とは、ブラックホールの周りで、熱を帯びた物質が渦巻き、円盤状になった部分のこと。
今後撮影される銀河中心部の画像は、天の川銀河がどのように形成され、発達していったのかという疑問を解明する手掛かりとなるだろう。
天の川銀河(銀河系)の中心部には、太陽の400万倍の重さのブラックホールがあり、その周りを何百万もの星が強烈な紫外線やX線にさらされながら周回している。
その様子は塵やガスに遮られ、すべてを見るのは困難だ。だが2006年に、NASAのスピッツァー宇宙望遠鏡が、赤外線センサーによって塵やガスをすり抜けて、これまでにない画像を写し出した。NASAはその画像(上の画像)を10月9日(現地時間)に再公開し、新たなプロジェクトでは、これまでよりもずっと精密な観測ができるようになると強調した。
そのプロジェクトとは、2021年に打ち上げが予定されているジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(James Webb Space Telescope:JWST)のこと。JWSTは銀河を撮影するためのより高性能な赤外線カメラを備え、地球から150万キロメートル(月と地球の距離の約4倍)の地点を周回しながら、薄暗い星の細かなディテールまで、スピッツァー以上の精度でとらえることができる。
「JWSTから送られるたった1枚の画像でさえ、これまで得た銀河中心部の画像の中で最高品質のものになるだろう」と、JWSTの画像装置を担当する天文学者のルーラント・ヴァン・デル・マレル(Roeland van der Marel)氏は、プレスリリースで述べた。
これらの画像は、科学者にとって最大の疑問、銀河がどのように形成され、時間とともにどう発達していったのか、について解明するためのヒントとなるだろう。
スピッツァーはこれまで見たこともない銀河系中心部の姿をとらえた
スピッツァーが撮影した画像は銀河系中心部をとらえた小さな画像の集まりで、波長の長さが可視光線の10倍の赤外線を用いている。地球と銀河系中心部は2万6000光年離れ、その間には宇宙塵の雲が広がり、可視光線を遮っている。だがスピッツァーのカメラは赤外線によって宇宙塵の雲をすり抜けて撮影できる。
この画像では、冷たく古い星の端は青く、巨大な若い星は熱く燃えて赤く写っている。画像の端から端までは900光年の距離がある。
画像中央の明るい星が集まった水平の筋は、銀河面を示している。銀河系中心部に見える明るく白いスポットには、熱く巨大な星が集まっている。
スピッツァーがとらえた銀河系中心部のもうひとつのスナップショット。
NASA/JPL-Caltech
銀河系中心部には超大質量ブラックホールがある。ブラックホールがあらゆる物質を飲み込む領域からほんの数光年しか離れていない位置に、小さな星が形成されていることがわかっている。これまでは不可能だと考えられてきた環境でどのように星が形成されるのか、その手がかりをJWSTが提供してくれるだろうと期待されている。
一方、銀河面の周辺では、宇宙塵が渦巻いている。この宇宙塵は、質量の大きな星からの荷電粒子の流れ、すなわち「恒星風」によって形作られていると、科学者は考えている。
ブラックホールのより詳細な姿の撮影が、JWSTで可能に
ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)。
NASA/Chris Gunn
次世代の宇宙望遠鏡JWSTはすでに完成し、2021年3月30日の発射に向けて、ノースロップ・グラマン社(Northrop Grumman)のカリフォルニア工場で、長期にわたるテストが行われている。
最初の恒星と銀河がどのように形成されたのか、惑星はどのようにして生まれたのか、そして宇宙のどこかに生命が存在するのかといったことを明らかにするために、JWSTは宇宙の歴史のすべての段階について調査を行う。幅6.4メートル、折り畳み式のベリリウム製の主鏡を備えたJWSTによって、はるか彼方にある銀河を詳細に観測し、我々の銀河系に届く極めてかすかな信号もとらえられるようになるだろう。
また、JWSTは新しい赤外線テクノロジーを備えており、我々の銀河系中心部にある「いて座A*(いてざエー・スター:Sgr A*)」と呼ばれる超大質量ブラックホールの、これまで見たことのない画像が撮影されるだろう。
ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)が宇宙で赤外線を検出している想像図。
NASA
ブラックホールの引力は極めて強く、光すら逃れられないため、撮影は不可能だ。だが「引き返せない地点(point of no return)」のすぐ外側から、熱く燃える物質が高速で回転しながらブラックホールに吸い込まれていく様子は見ることができる。
その様子をイベント・ホライズン・テレスコープ(Event Horizon Telescope; EHT)のチームが4月に撮影し、史上初のブラックホールをとらえた写真となった。「いて座A*」についても、JWSTを用いて同様に撮影されることが期待されている。
「いて座A*を取り巻く降着円盤を、JWSTで観測できれば『ホームラン』だ」と、JWSTに携わる天文学者、トルステン・ビューカー(Torsten Böker)氏はプレスリリースで述べた。
初めて撮影されたブラックホール。
Event Horizon Telescope Collaboration
JWSTでの撮影が進むと、どのようにして銀河やその中心部のブラックホールが形成されたのかという疑問を解くヒントが得られるだろう。古くから言われている「鶏が先か、卵が先か」というジレンマも含めて。
「ブラックホールが先にできて、その周りに星ができたのか?それとも星が集まり、衝突してブラックホールができたのか?これらの疑問に我々は答えていきたい」と、JWSTに携わるもう1人の科学者、ジェイ・アンダーソン(Jay Anderson)氏は述べた。
また、すべての銀河はその中心部にブラックホールがあると考えられており、それぞれのブラックホールの質量は、それを取り巻く星の質量の合計と関連性があると調査で示されている。だがその理由はまだ解明されていない。その手がかりを探すことも、JWSTで行う調査のもう一つの目的となっている。
ブラックホールの動画撮影に取り組むチームも
ブラックホールを初めて撮影したEHT国際チームも、銀河系中心部に望遠鏡を向ける計画だ。今度は動画を撮影するために。
「ブラックホールが発達していく姿を、リアルタイムで観測できる」と、EHT国際チームを率いる天文学者、シェップ・ドールマン(Shep Doeleman)氏は、以前Business Insiderに語っている。「ブラックホールが銀河とともにどのように発達するのか観測できる。ブラックホールの周りの光の軌道ではなく物質の軌道を見ることで、アインシュタインの重力をまったく異なる方法で調査することもできる」
ドールマン氏は今後5年以内に、精度は低いかもしれないが最初の動画を作成し、公開したいという。いずれはJWSTのような宇宙に配置された望遠鏡が持つ極めて精密なレンズの力も借りて、研究を進めたいと同氏は述べた。
「興味深く、不思議なことが、銀河の中心部では数多く起こっている」とJWSTの赤外線カメラの開発を担当するマルシア・リーク(Marcia Rieke)氏は、プレスリリースで述べた。
「我々の銀河系では何が起こっているのか、突き止めたい」
(翻訳:仲田文子、編集:Toshihiko Inoue)