東京・渋谷の109の入り口に生理用ナプキンの壁をつくる ——。
ファッション誌『SPUR(シュプール)』が創刊30周年を記念して展開した広告キャンペーンが反響を呼んでいる。
軽減税率でも対象外。語ることすらタブー視されてきたナプキンに同誌編集長が込めた思いを聞いた。
アガる虹色のナプキン、生理はタブーじゃない
SPURが創刊30周年の広告に選んだテーマは「生理」だ。
撮影:三田理紗子
月刊誌『SPUR(シュプール)』が生理用ナプキンを無料で配るキャンペーンを行ったのは、東京・渋谷のファッションビル「MAGNET by SHIBUYA109」の入り口近く。
開始から4日後の10月10日夕方に訪ねると、「生理用品の無料配布を行なっています。ご自由にお取りください」と女性2人が大きな声で案内していた。5分ほどの間に7人がナプキンを手に取り、うち1人は男性だった。現場にいたスタッフによると、その日は約350人がナプキンを持ち帰ったという。男女比は女性9対男性1ほどで、男性はカップルやファミリーと一緒に訪れることが多かったそう。
無料で配られたナプキン。キャンペーンは10月7日から13日まで行われた。
撮影:三田理紗子
レインボーカラーのナプキンが貼られたボードには、4人組バンドの「CHAI」が「ガラスの天井」を破るイメージで撮影されたという写真が。キャッチコピーは「JUST BE YOURSELF 時代はいつもあなたから変わる」だ。
Twitterには多くの反響が投稿されている。
「パッケージがかわいい〜!こんなパッケージなら持ち運んでも気分上がるね」
「生理用品に無関心だった夫が教えてくれて知った。いろんな変化を我が身で感じる」
「生理のイメージを『タブーからオープンへ』……こういう広告いいね。生理痛を体調不良と言い換えて!と言われることたまにあるけど…全然理解できない。生理痛は生理痛です。生理は自然現象だし、恥ずかしいことじゃない〜!」
「男性に『生理でお腹の調子が悪くて』と言うと『わざわざ理由を言わなくてもいいよ』と言われるときの違和感。誰が悪いわけでもないし、恥ずかしいでもなく失礼でもない。互いに知らないままでいるよりは誠実に語り合いたい派だ」
「世代によって賛否両論あるかもしれないけど、オープンな社会になるのならば、きっともっと性教育もしやすくなるはず。教育から変わらないのなら、社会から変わればいい」
「広告の妙の極み。この場合に、この色使い。しかも、メンズにも見てほしいとの事」
『SPUR』の五十嵐真奈編集長は言う。
「現場でもSNSでも、女性はもちろん、男性からもポジティブな反応をいただけました。嬉しかったですね。生理を体験したことがない方々がどういう感想を持たれるのか、不安も大きかったので」(五十嵐さん)
生理休暇取得は2割、読者の外に伝えたい
生理のつらさを人に言えない、言っても分かってもらえなかったという女性は多い(写真はイメージです)。
GettyImages/PhotoAlto/Frederic Cirou
生理はタブーなのか? 性別や年齢を問わず、考えるきっかけを社会に問題提起することが、今回の広告の狙いだ。
五十嵐さんも以前は「生理は隠さないといけないもの」だと「漠然と」思っていたという。
その最たるものが、女子児童だけを呼び出して生理を教える小学校の授業。大人になってからは婦人科系の病気に悩まされることも増え、同僚や友人の多くが不調を抱えていても言いにくいそうだ。
特に衝撃を受けたのは、今夏の同誌の読者アンケートで、生理休暇を取ったことがある人がわずか2割だったことだという。背景は、福利厚生としての不備、言い出しづらい空気などさまざまだ。
一方で、自身も編集者として生理痛でつらそうにしているモデルとの仕事も経験。生理でもハードワークをこなしたと武勇伝のように話したことはなかったか、これまでを振り返ったそうだ。
こうした後悔や問題意識を元に、SPURではこれまでも生理についての特集を組み、月経カップやナプキン不要のショーツなどを紹介してきた。
「雑誌を買ってくださるのは、基本的に私たちのスタンスに共感してくださる方です。でも生理の問題は、この居心地の良いコミュニティから一歩外に踏み出す必要がある。
生理痛を我慢したり、生理用品を購入して外から見えない袋に入れてもらうのはなぜなのか? 生理用品が人目に触れることを疑問視する人たちと一緒に考えたいと思って企画したのが、今回の広告です」(五十嵐さん)
ナプキンを「半透明」の袋に入れたのも、可視化の試みだ。
なぜ軽減税率の対象外なのか、社会問題もっと取り上げたい
「タンポン税」は世界で議論になっている(写真はイメージです)。
GettyImages/zoranm
生理用品といえば、軽減税率の対象外になったことにも疑問や批判の声が上がっている。8%のまま据え置かれたのは、定期購読の新聞と、飲食品(外食と酒類はのぞく)だった。Twitterには、
「なんでおむつとか生理用品は軽減税率じゃないの?使わないで済ますことは不可能なものなのに」
「生理用品買いに行って、改めてレシート見てやっぱりショック。2%増税って金額的なショックじゃなくて、こういう分け方をした政府に完全失望。女性は切り捨てられた感がすごくて悲しい」
「女性に生まれたら生理用品は絶対に必要だし、月一回のペースで購入しなきゃいけない。軽減税率の対象にならないのはおかしい。それなら女性の賃金格差とか、独身の女性でも安定して稼げるよう改善してから課税しろ!!」
などという声が溢れた。
生理用品はオーストラリア、カナダ、インドなどでは非課税だが、その他多くの国々では生活必需品であるにもかかわらず課税されることから「タンポン税」などと呼ばれ、世界中で議論が巻き起こっている。
消費税19%のドイツでも生理用品は軽減税率の対象外。一方の本は税率7%のため、皮肉と抗議で本の中にタンポンを埋め込んで販売する商品が注目を集めた。
「さまざまな人々が対峙する生きづらさや、出生率の低下という問題を考える上でも、生理用品などに国として働きかけることが、1つの解決策になるかもしれない。当事者の声も含めて議論していくことが必要だと思います。
『SPUR』はこれまでも環境や人権問題などを取材してきましたが、こうした社会問題を取り上げることは、今後さらに強化しようと考えているところです」(五十嵐さん)
広告キャンペーンの前を通り過ぎる人の中には、生理用品だと気づいて目を伏せるような仕草を見せる人もいたそうだ。同誌のキャッチコピーは「機嫌の良いハイモード」だが、女性たちがそうはいられない原因は、社会の側にもあるはずだ。メディアには問題を埋もれさせない責任がある。
(文・竹下郁子、取材協力・三田理紗子)