リーダーシップは「仕切る」から「メンバーを生かす」へ。日本航空の機長が語るこれからの組織づくり

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国内線・国際線併せて年間約4400万の乗客の安全を預かる立場にある日本航空のパイロット。平時も非常時も、強力なリーダーシップを発揮することを期待されていることは想像に難くない。航空機のパイロットは、リーダーの資質をどのように捉え、それをどのように磨いているのか。日本航空運航本部の運航訓練審査企画部の定期訓練室室長である荻政二さん、訓練品質マネジメント室室長の京谷裕太さんに話を聞く「リーダーの条件」と「訓練法」。

「リーダーシップ」は機長だけに必要なものではない

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日本航空運航本部運航訓練審査企画部でパイロットの訓練を設計している訓練品質マネジメント室室長の京谷裕太さん(写真・左)、定期訓練室室長の荻政二さん(写真・右)

──「空の安全を守る」パイロットには、日々の業務の中でどのようなリーダーシップが求められているのでしょうか?乗務員とのチームワークなどで、パイロットが求められるリーダーシップについて教えてください。

京谷裕太さん(以下、京谷):航空機では機長はPIC(Pilot in Command)といって、最終意思決定者となります。そして副操縦士が二番目の意思決定者。さらにキャビンクルー(客室乗務員)がいて一つのチームになるわけです。フライトでは、機長がリーダーシップを発揮して全体を統率していると思われがちですし、実際昔はそうだったのですが……。

弊社ではリーダーシップには2種類あるという説明をしています。デジグネイテッドリーダーシップ(designated leadership、指名された者のみが発揮するべきリーダーシップ)とファンクショナルリーダーシップ(functional leadership、役割として発揮するべきリーダーシップ)というもので、機長(PIC)は前者を有しており、副操縦士はじめ他のクルーは後者を有しているという考え方です。

──「リーダーシップ」は、機長だけに求められるものではなく、副操縦士やキャビンクルーにも必要なのですね。

荻政二さん(以下、荻):悩んだときは機長が最終的に意思決定をするけれども、その他のクルーは基本的にはそれぞれが自分の役割(ファンクション)を、リーダーシップを発揮して行っていくことが求められているのです。

京谷:つまり、飛行機を飛ばす際に必要なリーダーシップという意味では、機長、副操縦士、キャビンクルーの、みんなが持っているという答えになると思います。

チームを機能させる「インターパーソナルスキル」

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「機長となる人に求められているのは、全部を仕切るタイプのリーダーシップではなく、チームのメンバーに働いてもらうためのリーダーシップ」と話す荻さん。人を育てるリーダーシップが求められるのは、一般のビジネスマンと同じ。

──パイロットとして採用され、入社したパイロットたちは、将来的に機長になれば最終意思決定者となる「リーダー候補」です。その養成課程では、どのようなことを重視しているのでしょうか。また採用時、どのような資質に注目していらっしゃるのでしょう。

:パイロットは入社して数年間の訓練を経て副操縦士になりますが、その時点で会社からパイロットの役割を果たせると判断されたということになります。飛行機の運航での基本的なアクションはできているということです。

そのうえで今、機長となる人に求められているのは、昔ながらの「全部を仕切る」リーダーシップではなく、チームのメンバーに働いてもらうためのリーダーシップです。人を育てることを兼ねたリーダーシップといいますか。たぶんこれは、どこの企業でも同じではないでしょうか。

京谷:飛行中のコックピットの中にいるパイロットは2人ですが、運航に関わっているチームとしてはキャビンクルーもいますしメカニックもいる。管制官ともやりとりします。人に対するスキル、インターパーソナルスキルを持っていないと、適切な情報を得ることができず、情報がないとより状況に応じた的確な判断もできなくなります

:インターパーソナルスキルは、チームビルディングの意味でも当社において重要視されています。フライトで同乗する副操縦士やキャビンクルーは毎回違います。フライト前に集まって挨拶をして、機長が強面で話しにくい空気を出していたら、ものが言いにくくなるじゃないですか。話しやすいと思ってもらえれば、気付いたことについて迷わず情報を伝えてくれるかもしれない。それが重大な事態を防ぐことに繋がったりするのです。

京谷:そういう意味では、インターパーソナルスキルは安全を高めるためにも必要なスキルだと言うことができますね。

パイロットの仕事は「意思決定が8割」

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「機長の仕事の8割は意思決定」と話す京谷さん。それだけに機長は「人に対するスキルを持っていないと、適切な情報を得ることができず、情報がないとよりよい判断もできなくなる」という。チームを機能させるためのリーダーシップが求められるのだ。

──お二人は機長をされているだけでなく、パイロットの訓練や審査に関わるお仕事もされているとうかがいました。

:航空会社では、パイロットは免許を取った後も毎年数回、訓練と審査を受け続けます。私の担当している部署ではパイロットが毎年受ける訓練を企画しています。

以前の訓練は、定期審査に通ることを目的に技術面に注力するという側面が強かったのですが、近年はパイロットに対して適切なフィードバックをすることで、彼らの意思決定や行動が望ましいものに変容するよう導くためのものに、位置付けが変わってきています。目的はあくまで安全な運航だということが、より明確になっているのです。

──実際にパイロットたちは、どのような訓練を受けているのでしょうか。

:例えばシミュレーターを使った実運航を模した訓練で、目的地の天候が急に悪くなったという命題を与えるとします。いかに最適な解に近づけるかは、パイロット2人のコミュニケーションにかかってきます。適切に意見交換できたか、できなかったか、それはなぜなのか。

セッションの後、指導的に振り返らせるのではなく、ファシリテートすることで彼らの気付きを導きます。問題を過小評価することなく、漏れなく速やかに共有して、安全のために的確に対応できたのかを、パイロット自身が省察し、概念化することで実際の運航の中でも実践できるようになる、その過程を教官がアシストする形をとっています。

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京谷:実のところ、我々パイロットの業務は8割以上が意思決定の連続です。飛行機の操縦に必要な基本的技術はもちろん大切なのですが、今は自動操縦の進化も目覚ましい。そんななかで、何より重要なのは意思決定になります。一つの運航でも、天候やほかの飛行機、国ごとの決まりごとなど、いろんな不確定要素が入ってきますよね。ルールに則った柔軟で最適な意思決定の連続なのです。

:身近な例を挙げると、目の前にある雲に突っ込むと、客室のお客様へのサービスを中断する程度の揺れなのか、それとも全然揺れないのか?高度を変える必要があるのか?コックピットの中には機長と副操縦士がいますが、2人の間で意見が分かれるかもしれない。そういった異なっているかもしれない2人の認識をすり合わせたうえで、客室の状況も考慮しつつ、管制官ともやりとりをして、雲を避けるのか、どのくらい避けるのかといったことを決めていく。意思決定の連続というのはそういうことですね。


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■クラリス・ジャパンと「Claris Engage 2020」について

絶対的なリーダーシップを発揮する立場というイメージが強い航空機のパイロット。だが、テクノロジーの進化で働く環境が変化する中で、求められるスキルも、リーダーシップのあり方も変わってきている。安全運航のための技術はもちろんだが、今、より求められるようになっているのがインターパーソナルスキル、コミュニケーションのためのスキルだという。こうした目的の変化に応じて、パイロットの訓練も日々、アップデートされている。

日本航空のパイロットが訓練で利用するワークプレイス・イノベーション・プラットフォームを提供するクラリス・ジャパンは、2020年11月11〜13日の3日間、「Claris Engage 2020 TOKYO」を開催する。Claris Enagage にはワークプレイスにイノベーションをもたらすためには何が必要か、そのヒントやベストプラクティス、テクニックが集結。 DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進するリーダーシップを発揮する人のためのカンファレンス&展示会イベントだ。

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