堀江、姫野、中村…ラグビー日本代表支える帝京OB。恩師が語る成長の源

ラグビー日本代表

スコットランド戦後、喜び合う選手たち。背番号2の堀江の右が姫野。左が松田、ヘンドリックツイ。

撮影:志賀由佳

ラグビーW杯で日本が初の決勝トーナメント進出を果たした翌日、帝京大学ラグビー部の岩出雅之監督(61)は満足そうに口を開いた。

「日本は全員が自分たちの強みをより生かして、自信と力強さ、しぶとさを見せた。うちの卒業生?みんな、最高だった」

開幕後の3試合はテレビ観戦したものの、スコットランド戦は初めて会場へ。桜のジャージに身を包み、スタンドから躍動する教え子たちの姿を見届けた。

意識させてきた「ダブルゴール」

帝京ラグビー部岩出監督

帝京大学ラグビーの岩出監督。「過去を自分の支えにしている人間は成功できない」と選手に言い続けてきた。

撮影:志賀由佳

昨季まで大学選手権を9連覇した帝京大OBは、現在の日本代表に実に7選手が名を連ねる。特に堀江翔太(33)、中村亮土(28)、流大(27)、姫野和樹(25)の4人は主力として大活躍。坂手淳史(26)はサモア戦で堀江に代わり先発。ツイヘンドリック(31)、姫野の同級生である松田力也(25)も途中出場ながら貢献している。

ラグビーは高卒選手も多いサッカーや野球と違って、日本人選手のほとんどが大学経由で社会人のトップリーグプレーヤーとなる。過去の日本代表には大学ラグビーの名門校である早慶明及び関西の雄、同志社などの選手が多かった。

新興勢力の帝京が日本代表の最大勢力となることは、ある意味必然的かもしれないが、なぜこんなにも多くの人材を送り出せたのか。

「在学中から、ダブルゴールを意識させてきた。大学選手権優勝というゴールがかなったとしても、卒業後も次がある。人生の次のゴールを意識しろ、大学での成功で満足するなと伝えてきた。よその大学のことはわからないし、代表で活躍する彼らが今も意識しているかはわかりませんが」

過去の栄光で自分を慰めるな

ラグビー代表中村選手

スコットランド戦でパスをつなぐ中村。「ここまで伸びるとは」と岩出監督。選手が想定外の成長を見せることは育成期を指導する者の醍醐味だ。

撮影:志賀由佳

最上は未来にあり——。

監督から聞いたことで心に残ったことを尋ねると、この言葉を挙げる卒業生は多い。壁にぶつかったり、苦しいことがあっても、「大学時代は良かった」と過去の栄光で自分を慰めてはいけない。

逆に、何かが成功してうまくいっても「今が一番幸せ」と満足せず、自分で次のゴールを設定する。大学で心理学を専門に教える指揮官ならではの人生哲学。それが教え子たちの活躍につながっている。

「伝えてきたことが少しでも卒業生の成長し続ける力の土台になっていればうれしい」

そう話す岩出監督を驚かせる飛躍を見せたのは、代表で背番号12をつける中村だ。4試合すべてに先発。アイルランド戦は試合の流れを変えるタックルや、逆転トライにつながる前進を見せ、スコットランド戦は10回のタックルをすべて成功させた。

日本代表合宿に呼ばれたのは、大学3年の終わり。2015年大会へ向かうエディー・ジャパンがスタートした年だ。だが、ヘッドコーチだったエディー・ジョーンズ氏から「ハンドリングがよくない」と言われて帰ってきたという。代表選手が所属するサンウルブズに初めて召集されたのは2018年1月。代表に定着してまだ1年に満たない。

「亮土は本当に伸びた。僕らに見えないところでハンドリングのスキルアップも取り組んだのでしょう。センターという、相手アタックを一発で仕留めなくてはならないあのポジションであれだけシュアな仕事をしている。今まで日本にあんな選手はいなかったのではないか」

と監督も感心する。

将来を考えて慎重に起用

帝京ラグビー部

2013年度大学選手権で5連覇。前列左から2人目が主将を務めた中村、岩出監督。流、坂手らの顔もみえる。

提供:帝京ラグビー部

フォワード第三列で存在感を示す姫野の成長も目覚ましい。密集で手を伸ばして相手の攻撃を封鎖する「ジャッカル」が代名詞。玄人しか知らないような言葉なのに、今や若者たちが「姫野、ジャッカル!」と叫ぶ。

大学1年夏にジャパンに初招集された姫野だったが、合宿初日に左足の第5中足骨を骨折。以来、ほとんどがベンチスタートか途中交代での起用にとどまった。先発して最後までプレーできたのは、4年生の大学選手権。大学4年間のプレータイムは驚くほど短い。

「近い将来、ジャパンを背負っていく選手だと考えていたので、慎重に起用した」(岩出監督)

当時の帝京は姫野の代で8連覇。すでに選手層は厚かったため、無理をさせずに済んだともいえる。

卒業後に加入したトヨタ自動車1年目で、南アフリカを2007年大会で優勝させた名将ジェイク・ホワイトヘッドコーチからキャプテンに指名された。「自分はリーダー向きじゃない」と悩む姫野から、岩出監督は何度か話を聞いたという。

「ぼくに的確なアドバイスなんかできない。ただ、そのことを解決できるか、できないかの結果じゃないぞと話した。努力していくことは重要だけど、今の経験が宝だと話した。そのときの苦しみや悩みは、必ず活きる時が来るぞと話したが、ワールドカップでそれが活かされていると思う。姫野にとって、ジェイク・ホワイトさんの英断は大きかったでしょう」

後輩たちに見せる背中

ラグビー堀江選手

スコットランド戦で安定したスローを見せた堀江。帝京の後輩たちに努力し続ける姿を見せてきた最大のインフルエンサーだ。

撮影:志賀由佳

帝京V9戦士の後輩たちを引っ張るのは、堀江だ。

「相手を上回るコンタクトを見せている。今まで、日本の選手が外国人相手に上回れなかった接点で、あれだけ強みを発揮しボールを運べる。素晴らしいと思う。もともとうちの卒業生のなかでは人物、プレーともに抜きんでていた。(優勝など)いい思いをさせてあげられなかったが、彼が帝京大学にいたことはとても大きい」

初優勝の2年前に卒業し、大学王者になる道筋をつくった。W杯3大会に出場。後輩たちに、未来へ向かって努力する背中を見せ続けてくれた。

「W杯が日本ラグビーの発展のトリガーになってほしいし、彼ら7人が試合の中でいい流れを作るトリガーになってくれることを期待している」

トリガーは、引き金、起動装置の意味を持つ。

「ピンチをチャンスに変えるのが僕の仕事だと思っている」と姫野が言うように、恩師の願いは通じている。

10月20日。再び桜のジャージをまとって、最上の未来を目指す教え子を見守る。

島沢優子:フリーライター。筑波大学卒業後、英国留学など経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。週刊誌やネットニュースで、スポーツ、教育関係をフィールドに執筆。『左手一本のシュート 夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』『部活があぶない』など著書多数。

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