電動キックボードなど3社が業界初の「サンドボックス制度」実証へ。「電動」規制緩和の模索続く

glafitの鳴海禎造代表、Luupの岡井大輝代表、mobby rideの日向諒代表

左からglafitの鳴海禎造代表、Luupの岡井大輝代表、mobby rideの日向諒代表。

撮影:三ツ村崇志

国内で電動キックボードや電動バイクなどのパーソナルモビリティー製品・サービスを提供するベンチャー企業3社が10月17日、、2018年6月に施行された生産性向上特別措置法によって定められた「規制のサンドボックス制度」(以下、サンドボックス制度)に基づいた実証実験の認定を得たと、共同発表した。

共同発表したのは、電動バイクベンチャーのglafit、電動キックボードの事業化を進めるLuup、mobby ride。モビリティー分野でサンドボックス制度を活用したプロジェクトは今回が初めてだ。

サンドボックス制度 : 現状の規制では実現が難しい新技術やビジネスモデルを使った事業活動を促進するため、現行法の規制を一時的に止めるなどして、事業を所管する大臣の認定のもと実証実験を行う制度。得られた情報やデータを用いて規制の見直しに繋げていく。

そもそも規制緩和を目指すには、安全性などに関するデータが必要だが、さまざまな規制によって十分な試験ができず、データを集められない場合がある。そこで、規制官庁による認定の下に実証実験を実施。データを集めた上で、規制の見直しや法整備の必要性を議論していくために用意したのが、サンドボックス制度ということになる。

欧米では大流行の電動キックボード

電動キックボードに乗る人

欧米では、電動キックボードが大流行している。

REUTERS/Jeenah Moon

近年、欧米で大流行している電動キックボード。日本でも少しずつ認知は進んでいるものの、日本の法律では電動キックボードなどの電動マイクロモビリティーは、原動機付自転車(いわゆる原付)と同じ区分になるケースが多い

原付扱いということは、なにより免許が必要で、車両そのものにもナンバープレートや、ウィンカーなどが必要になる。また、運転にはヘルメットの着用義務もある。海外での気軽な利用とはまったく異なる現状がある。

電動マイクロモビリティーの目指す区分

今の法律では、電動キックボードなどのモビリティーは原動機付自転車と同じ区分に属している。規制緩和によってこの区分を見直し、自転車と原動機付自転車の間に電動マイクロモビリティーを位置付けたいという。

撮影:三ツ村崇志

glafit、Luup、mobby rideの3社は、電動マイクロモビリティーを自転車と原動機付自転車の間のモビリティーと位置付ける。より生活に使いやすい形で普及させるために、最適な規制緩和や法整備の形を探っていく必要性があると訴えた。今回の実証実験の開始は、そのための第一歩といえる。

実使用環境に限りなく近い環境での「実証」

ドイツの電動キックボード

ドイツ・フランクフルト中央駅前に設置された電動キックボードの駐車スペース。シェア自転車の世界的普及(とその後の撤退)と同様に、各国で始まるサービスの波に、規制の厳しい日本が乗り遅れているのが現状だ。

撮影:大塚淳史

これまでにも、各社は走行実験などを行なってきた。しかしそれはあくまでも私道などの規制に引っかからない範囲でのことだ。一方、今回はサンドボックス制度を活用することで、公道に限りなく近い環境で、制度を所管する官庁の認可を得て実証実験を行える。

実証を実施する地域は各社バラバラだ。

glafitは和歌山県和歌山市、Luupは神奈川県横浜国立大学常盤台キャンパス内、mobby rideは福岡県九州大学伊都キャンパス内となっている。いずれも2019年度内の実施だ。

mobby rideの日向諒代表は次のように話した。

「今回の実証では、公道に限りなく近い環境で実証実験を行うことが最大の目的です。また、機体の安全性や走行性能などはこれまでに実証されてきましたが、例えば海風を受けて機体が錆びて部品が取れやすくなったり、二人乗りや飲酒運転といった我々の想定していない使用方法をする人があらわれたりするかもしれません。

これまで想定してこなかった使われ方を知って、今後どのような形の規制緩和や法整備が必要か議論する材料を得られれば良いと思っています」

3社共同で行われた記者会見

10月17日、glafit、LUUP、mobby rideの3社が、規制のサンドボックス制度の認定を取得した。

撮影:三ツ村崇志

一方で、規制緩和や法整備に向けた道のりは、まだ不透明なままだ。

そもそもサンドボックス制度は、始まってからまだ1年半程度しか経っていない新しい制度。そのため、この制度をきっかけに規制緩和や法整備が行われた例はまだない。

内閣官房の萩原成氏は「実証から実際の規制緩和までの道のりなどは、探り探りで進めていくことになります」と、この実証実験の結果が即座に規制緩和につながる訳ではないことを強調した。

内閣官房の萩原成氏

内閣官房の萩原成氏。

撮影:三ツ村崇志

Luupの岡井大輝代表も、「今回の実証実験では、まずどこがどう安全で、このサービスを使うことでどこまで快適になるかという定量的なデータをとりたい。将来の制度設計を行う上で重要なアクションになるため、その上で規制官庁や自治体としっかと対話を進めていきたい」と話した。

少子高齢化社会に突入するなかで、気軽に使える電動モビリティーの必要性は増す一方、こうした車両が道路を走り始めることで安全性への懸念は確かに残る。

自転車でも原付でもない新しいモビリティーの登場を、日本の社会はどのように受け入れるのか。過渡期のなかで、社会的に納得感を得られる道筋がつくれるかが、規制緩和や法改正の糸口になるのは間違いない。

(文・三ツ村崇志)

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