好きなことを仕事にする方法、いや、しないほうがいい。どちらの議論も活発だ。
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ここのところ、「好きを仕事にしよう」という風潮が強い。「好きを仕事にする方法」とか「好きなことで生きていく」というような本のタイトルや記事の見出しもよく見かけるようになった。
一方で、「好きなことなんて仕事にできない。」という主張もある。
好きなことを仕事にするという権利は一部の既に成功している人たちの「当たり前」で、凡人には無理だとか、実力をつけて初めて好きなことをやる権利があるとか、いろんな議論が生まれている
結局のところ、どうなんだろう。
「好きは仕事にできる」「好きなことなんて仕事にできない」
この2つの主張がなかなか噛み合わず「結局どっちなんだ」と思っている人も多いかもしれない。
噛み合わない理由はおそらく以下2つだ。
- そもそも「好き」には2種類(モノ/コト)があること。
- 「好きなコト」を具体的に分解できていないこと。
就活支援サービスの現場でPRを担う立場から、キャリアについて見聞きし、考えることは多い。考察してみたので、どっちやねんと思っている人は少し参考にしてほしい。
「好きなモノ」と「好きなコト」に分解される“好き”
あなたは「好き」を分解してみたことはあるだろうか?
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「好き」には2種類あって、分解すると、好きなモノと好きなコトだ。
以前、ジャニーズのあるグループが好きだという20代前半の女性がキャリアに悩んでいた。その人は全てのコンサートに行き、グッズをすべて集め、出演する番組は全て録画して観ていた。
だからジャニーズに「携わる」仕事がしたいけど、できるか分からないと。
たしかに彼女のジャニーズというモノに対するエネルギーはあるものの、消費者として関わる限りはそれを直接仕事にすることは難しい。彼女は金を払って好きな「モノ」と触れる権利を買っている。今まで金を払っていたものを介して、急に金をもらうことはたしかに難しい。それはある意味当たり前ではないか。
僕は、仕事は価値の生産活動だと考えている。価値を生産しなければ、当然、お金はもらえない。
一方で僕は、調べるコト、情報を集めるコト、フォロー対象を追いかけるコトに対する彼女のエネルギーを羨ましいと思った。ジャニーズという広義の商品(「モノ」)にフォーカスをあてると、やりたいコトが分からなくなってしまうけど、その対象に対して起こしているコト(アクション)にフォーカスを当ててみると、そこには「仕事」や「生産活動」に繋がる芽があると思う。
消費を生産に転換するヒントを見つける
調べて、情報をそろえて、追いかける —— というアクションが評価される仕事はたくさんある。彼女が大好きな「ジャニーズ」を介して当たり前に毎日行っているそのアクションは、やろうと思っても、できない人はたくさんいる。
消費者としての好きの中にも、生産活動のためのヒントは隠れているのだ。だから、消費者として好きだったことを仕事にしようと思った時、音楽や本、サッカー、スイーツなど名詞で考えるより、「情報を集める」「調べる」「チームで何かする」「人を喜ばせる」など、動詞で考えてみると「好き」に「携われる」可能性は高まるのかもしれない。
意外と、動詞でキャリアを考えるという思考を実践している人は多くないのではないだろうか。
ロックバンドを目指した僕がたどり着いたところ
ロックバンドを通じてやりたかったことはなんだったのか(写真はイメージです)。
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僕も今までいろんなことをやってきた。
一番好きだったのは、ロックバンドをやっているときだった。だから、中学のときは、どうやったらロックバンドをやりながら生きていけるかばかり考えていた。恥ずかしながらもその夢を口にするといろんな人にこう言われた。
「ロックバンドなんて流行らない」「道で空き缶置いてストリートでもするのか」「成功するのは一握りだ」「せっかく勉強したのにもったいない」
次第に、僕は夢を自分の中にしまい込むようになった。そして全く関係のない銀行員という職業に就き、迷いながら何度か転職をし、今の仕事、HR、キャリア分野でのPRの仕事をしている。
最初に就いた仕事も、今の仕事も一見ロックバンドとは全く関係のない仕事だ。しかし、自分の中では「好きなコト」にすごく近づいている感覚がある。
なぜだろうか。
ロックバンドというモノをそのまま夢にすると、実現可能性はたしかに低くなる。
ロックバンドというモノを、分解するという思考が当時頭になかった。ロックンロールはスタイルで、バンドは音楽を届けるための編成で、音楽は音と言葉で構成されている。
体制や事象への問題提起を表現する手法としては、すごくかっこいいものだが、なかなかロックバンドという形でお金をもらいながら続けるのは難しい。一緒にバンドを組んでいた友達は散り散りになって、集まることも難しい。
本当にやりたいことの見つけ方
働くことが今より少しだけ、楽しくなる社会になればいい。
撮影:今村拓馬
しかし、体制や世間、一般論へのカウンター(対抗)のポジションは、何かを変革しようとしている集団に身を置くことで一満たされる。そして、音は使えないけれど、僕はたまたま文章を書くことが好きで、その文章が読んでもらえることが増えた。
今もこうやって、メディアで自分のメッセージを文章に落として届けることができる。文章を出せば、社会がたくさん反応してくれる。ときには誰かの希望になっていることもある。
中学のときにイメージしていた、大観衆の前で楽器をかき鳴らす姿とは程遠いが、そこで実現したかったことには極めて近い。
本当は、メッセージを表現し、社会と繋がるということがやりたくて、たまたま一番最初に出合ったのが楽器だっただけなのだろう。
今の僕の結論はこうだ。
「好き」をそのまま仕事にすることは難しいかもしれないけど、「好きなモノ」と「好きなコト」に分けて考えてみるとすると自分の可能性が見えてくる。「好きなコト」をさらに要素分解すると、その一部だけでも仕事に組み込める可能性は高まる。
好きなモノはあるけれど、やりたいことがわからない人に好きなコトはあるけれど、それで食べていけるかはわからない人は是非一度、そうやって考えてみて欲しい。
「好きを仕事に!」「好きなことなんて仕事にできない!」というゼロサムの二元論を離れて、働くということが今より少しだけ、楽しみになる人が増えればいいと願っている。
寺口浩大:ワンキャリア 経営企画室 PR Director。1988年兵庫県出身。リーマンショック直後に、三井住友銀行で企業再生、M&A関連業務に従事し、デロイトトーマツグループなどを経て現職。現在は経営企画とパブリックリレーションズ全般に関わる。コラム連載、カンファレンス登壇の他、「#就活をもっと自由に」「#ES公開中」などのソーシャルムーブメントも手掛け、経営と連動したコミュニケーションデザインを実践する。