撮影:伊藤有
iPad 第7世代モデルを、発売日の10月4日から使っている。
いまやiPadは「Pro」や「mini」を含めれば5種類ものモデルを展開する、アップル製品のなかでもAppleWatchの次に製品ラインナップが多いシリーズだ。
タブレット製品からの実質撤退が相次ぐAndroid勢とは、隔世の感がある。
個人的に、半年ほど前まで2017年発売の「iPad Pro 10.5(LTE版)」を仕事でバリバリ使っていたこともあり、旧iPad Proユーザー目線で、第7世代iPadがアリなのかを実生活で使いながら考えた。
iPad Proを一度は手放した理由
第7世代iPadのパッケージ。最初の開封は何度やってもワクワクしますね。
撮影:伊藤有
第7世代iPadは、「最安のiPad」として注目された第6世代(2018年3月発売)から、実はそれほど大きくは変わっていない。心臓部のSoCは同じA10Fusionだし、カメラ性能も少なくとも解像度の変化はない(※)。大きく変わったのは2点、「SmartKeyboardへの対応」と、「OSがiPadOSになったこと」だ。
(※動画撮影について、従来は240fpsのスローモーション対応だったものが、120fpsになったなどの違いはあるが、ここでは割愛)
1つ前の第6世代は、アップルからすれば「3万円台でペン対応にした、コスパで頑張ったモデル」だった。けれども、個人的には興味を惹かれなかった。
iPad Pro 10.5のSmartKeyboardの「無線接続ではないので充電不要、電波状況も関係なく使える」という利便性がとても気に入っていたからだ。
一方でその後、旧iPad Proは手放してしまった。理由の1つは、iOS12の安定性が(配信当初は)イマイチだったこともあるが、僕の用途で問題があったことが大きかった。
具体的には、(職業的に結構致命的なのですが)Business Insider Japanの記事入稿システム(Webサービス)がうまく動かなかった。一応表示も入力もできるのだが、異常に動作が遅くなる。いわゆる、ブラウザーの互換性問題だ。
それまでは原稿をiPadで書いて、別PCでアップロードするなどしていたが、取材先からiPadで原稿を書くようなケースも増えてきて、この問題が無視できなくなってきた。結果、互換性問題に関してはパーフェクトなLTE対応のWindowsノート(2in1)に乗り換えたというわけだ。
iPadOSとSmartKeyboard対応で「化けた」
ふだんiPhoneを使っていれば、開封直後にiPhoneを近くに置くだけで環境移行が始まる。この一気通貫的な楽チンさはアップル製品のよいところだ。
撮影:伊藤有
Wi-Fiをはじめとする基本的な設定とアプリのダウンロードはあっという間に完了。電源オンから30分以内に実戦投入が可能に。
撮影:伊藤有
そして2週間前に手元にやってきた第7世代iPad。
トータルの印象を10文字で言うと「いや、これ、良いです」。
冒頭書いた通り、アップデートとしては、形が大きく変わったわけでもなく、処理速度が高速化したわけでもない。地味なアップデートだが、旧iPad Proを手放した理由が解消されているうえに、なんといってもかなりコスパが良い。
Windows機からiPadに「出戻り」すると、タブレットに最適化されたアプリの体験の良さ、実質バッテリー駆動時間が長いことの安心感が再確認できた。
特にバッテリー面で重要なのは、バッテリーの「蒸発」が少ないことだ。
iPadの公称バッテリー駆動時間は10時間で、Windows機ならこれより長い機種は珍しくない。ただ、スリープしている間に、「蒸発するかのようにバッテリーが減る」というのが、iPadでは最小限といっていいレベル。これが、仕事道具としての美点だ。
そのほか本機の良いところを、ざっと写真で説明していこう。
1. LTE対応モデルでも5万円を切る価格。SmartKeyboardも使える
出典:アップル
何と言っても、何不自由ない性能でこの価格、というのが大きい。ビジネス用途に欠かせないSmartKeyboard対応、どこでもつながるLTE(絶対外せない)、それでいて最安モデルならLTE版でも5万円を切る。ただし32GBですが。Apple Pencilも、第1世代モデルとはいえちゃんと使える(しかも、手書き時の遅延は、従来の20ミリ秒から9ミリ秒に改善したそうだ。ハードは同じでソフトウェア最適化のみとのこと)。
2. ブラウザーの互換性が本当にデスクトップ並みに
出典:アップル
個人的にはSmartKeyboard対応と並んで大評価したいのがこの点。iPadOSのベータ発表時点でブラウザーがPC水準になるとのアナウンスがあったが、確かに描画エンジンが大幅アップデートされている。
iOS12の問題点だった、互換性問題で一部のWebサービスが動かない問題がほぼ完全に解消していた。操作に対するレスポンスも正常だし、まさにPC水準の互換性といえる。
3.iPadOSの新機能が地味に良い仕事をしている
右側の小さな窓が「スライドオーバー」。これは以前のiOS12でもあったが、窓の下にある横棒部分を上に軽くスワイプすると……。
撮影:伊藤有
このようにタスク切り替えが可能に。以前のiOS12ではあまり使わなかったが、iPadOSになってから、個人的にもっとも多用する機能になった。
撮影:伊藤有
これはユーザーにならないとわからない部分だが、画面の端に小窓を出す「スライドオーバー」がタスク切り替えに対応したことで劇的に使いやすくなった。
こんなことでそんなに?と思うかもしれないが、従来はスライドオーバーするアプリの切り替えができなかったために、画面2分割(スプリットビュー)との違いが分かりづらかった。もっと正直に言えば、僕にはメリットが感じられなかった。
一方、iPadOSでは、Twitterを表示させたり、Onedriveなどのクラウドストレージを参照したり、プレゼン資料をつくりながらメモアプリを参照したりと、かなりヘビーにスライドオーバーを使うようになった。
ちょっとした作業のマルチタスク化が、1歩ならず5歩くらい進んだ感がある。
スクリーンショット機能が機能アップ。Safariを使うと、ブラウザーの全画面スクリーンショットも撮影可能に。Web制作の仕事や資料づくりにも役立ちそうな機能だ。
画面右下からペンをセンターにスワイプすると起動するスクリーンショット機能の高機能化(新機能)も、ホビー向けというよりは、ビジネス向けにかなり使える機能だ。
たとえばブラウザーだと表示領域外の「全画面スクリーンショット」が撮影できたり、複数ページのPDFなども、全ページのスクリーンショットを一発で撮れる。
4. アプリ間の連携は満足できる水準
「ファイル」アプリができて以降、アプリ間のファイルのやりとりは随分簡単になった。iOS12ではあまりその辺の使い込みはしていなかったが、iPadOSでは不自由を感じる点は今のところない。
メッセンジャーやメール添付でPowerPointやExcelが届いても、問題なく編集、別アプリへの受け渡しなどが可能。
Googleドライブなどクラウドストレージ上に保存したファイルの読み出しもできる。
多少注意が必要だったのは、Messenger経由などでのテキストファイルの受け渡し(保存時の文字コード設定をミスすると文字化けしてしまう)。ただし、ファイルを開く際にSafariで開くようにですると、ファイル自体のダウンロードができるので、別アプリで開くことで文字化けは回避できた。
5. ほんの少しベゼルが太いデザイン
撮影:伊藤有
こちらは発売当時にレビューした旧iPad Pro 10.5の写真。指摘している額縁の太さの違い、わかるでしょうか。
撮影:伊藤有
写真ではなかなか気づきにくい点として、画面周囲のベゼルの厚みがある。SmartKeyboardを装着した見た目は、ほぼ旧iPad Pro 10.5。でも、このiPadは「10.2」インチ。少し画面が小さいぶんの差は、特に両サイドのベゼルが太さに顕著に出ている。
10.5では縦表示で使うときにベゼルの薄さで「新しさ」を感じたが、10.2はその辺で少し野暮ったさがある。
それも「LTE版でも5万円で買える」ことの代償だと思えば、帳消しにできるレベルではありますが……。
3つのウィークポイント
ただ、本機は単に「旧世代のチップを使ってシンプルに低価格化に成功した」モデルというわけではない。エントリーモデルなりの割り切りがある。それは主に3つの点。
1つめは、「内蔵メモリー」と「処理性能」だ。iPad Proは4GB以上が標準だが、ベンチマークアプリ「Antutu」でチェックした所、内蔵メモリーは3GB。少し少ない。
第7世代iPadの内蔵メモリー。ベンチマークソフト「Antutu」によると、3GBという表示。
正直なところ「これは心もとないかも?」とは思ったものの、実際に2週間仕事やプライベートで使い倒してみて、メモリー不足に起因しそうな症状は経験していない。
アプリが途中で落ちたことはないし、動作が変に遅くなったりもしていない(iPadOSになったことでメモリー管理の改善などもあっても不思議はない。確認しようがないですが……)。
処理性能に関しては、通常のアプリ利用なら「遅い」と感じることはほぼない。アドビの写真現像アプリ「Lightroom」で複数枚の画像を処理して一挙に書き出し作業をしたときだけは、「ちょっと待つな」という印象はあった。10枚のデジカメ画像(4608x3456ドット)を同設定で補正して、「小 2048px」での書き出しで13秒。100枚の処理なら2分以上かかる計算だ。これが許容範囲かどうかは、一度に処理する枚数次第だろう。
2つめは液晶。これは明確に違う部分だ。iPad Proには、表面のガラスと液晶との距離を大幅に短くして視差を減らす「フルラミネーション」ディスプレイを採用。表示できる色域もP3という広色域対応だった。
気にならない人もいる、という指摘もあるが、ペン先と実際に描かれた線の微妙なズレは感じるといえば感じる。
撮影:伊藤有
第7世代はP3でもフルラミネーションでもない普通の液晶。ただし、色みに関しては、両製品を並べて見ない限りはP3非対応であることはまずわからない。表示品質は十分に高く、大半の人は「この液晶は綺麗だ」と思うレベルだ。視差についても、強くこだわりがある人以外は、ほぼ問題にならないと思う(自分は気にならなかった)。
3つめは、あえて言えばサウンド。iPad Proや、最新のiPhone 11 Proは、スピーカーの音響性能が極めて高くなっている。
iPadのスピーカーはこの部分。スペックシートによると、スリットの箇所がステレオスピーカーになっている。
撮影:伊藤有
公式スペック表より。ステレオスピーカーは本体下部にある。
出典:アップル
それを考えると、iPadのスピーカーは一般的なステレオスピーカーでしかないので、「迫力あるステレオサウンド」とまではいかない。Proシリーズの回り込んでくるような臨場感を期待していると、「ここは価格なりだな」と感じる部分。
その点で、第7世代iPadはある程度はわりきりつつ道具として完成度を考えた、バランスの良い製品というのが2週間使っての感想だ。
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(文、写真・伊藤有)