“国内300万加入”ネットフリックスが狙う「次期 日本戦略」……世界1.6億人加入目前も楽観は程遠い

ネットフリックス本社前

撮影:西田宗千佳

10月16日(アメリカ現地時間)、ネットフリックスは、2019年第3四半期(7月~9月)の決算を発表した。

売り上げ・加入者とも過去最高を更新し、好調といえる内容だ。

売上高は52億ドル(5637億円)を突破して、前年同期比31%増。営業利益は10億ドル(1084億円)と、こちらも倍増している。有料加入者数は1億5800万人を超え、このペースでいけば、2019年度中に1億6000万人を超えることが確実な状況まできた。

とはいえ、同社が楽観できる状況にあるか、というとそうではない。

11月には、ディズニーやアップルが新しい動画配信サービスの立ち上げを計画しており、競合状況が変わるからだ。

競合が増える中、ネットフリックスはどうなるのか? そして、日本市場がどう変わるかを考えてみよう。

11月から競合増加で映像配信は「騒がしくなる」

リード・ヘイスティングスCEO

ネットフリックスのリード・ヘイスティングスCEO。書籍『NETFLIX コンテンツ帝国の野望』の中でも、その特異な個性が言葉を重ねて語られている。2019年3月「Netflix Labs Day」にて撮影。

撮影:西田宗千佳

株主向けニュースレターの中で、同社は「競合の新サービスの立ち上げにより、市場は少々騒がしくなるだろう(will be noisy)」と書いている。

netflix-3

四半期決算の概要を説明する「Letter to Shareholders」の競合環境について語った一文。新たに開始する他社新サービスによって、少々騒がしくなるだろう、としている。

出典:ネットフリックス

アップルは11月1日から「Apple TV+」をスタートし、ディズニーは11月12日から「Disney+」をスタートする。両者とも武器は「安さ」だ。Apple TV+は4.99ドル(日本では600円)、Disney+は6.99ドル(こちらは日本でのサービス開始時期は未定)で、ネットフリックスが8.99ドルから(日本では800円から)と、若干安いのだ。


ティム・クックCEOとアメリカの有名人、オプラ・ウィンフリー氏。

AppleTV+を発表した3月のスペシャルイベントでの一コマ。左のティム・クックCEOと抱擁しているのは、アメリカの有名人、オプラ・ウィンフリー氏。

撮影:西田宗千佳

11月になるとアメリカではサービス競争が加熱するだろう……との読みなのだが、ネットフリックスは、実はそこまで競合対策を強く押し出していない。だから「少し騒がしくなる」という表現に留めているのだ。

なぜなら、彼らは「ストリーミングはまだ伸びしろがある」と思っているからだ。

株主向けニュースレターの中で同社は、「全米のテレビ視聴時間のうち、ストリーミングが占める割合は10%以下。(スマートフォンなど)モバイル市場ではもっとずっと低い」と説明している。「映像を見る」という時間の中でストリーミング配信が占めるべき割合はもっと高く、成長できるのであれば、競合とのパイの取り合いは大きな問題ではない……という発想だ。

これは彼らが従来から主張していることで、大きな変化はない。また、ケーブルTVに比べ安価であるということ、1社ですべてのコンテンツ需要を満たせないという事情から、ストリーミング配信は「1社総取り」ではなく、1つの家庭が複数のサービスを利用する「複数社併存」になる。いままでも、ネットフリックスとAmazon、Huluは共存してきた。

「生き残るのか」ではなく「いかに外されないか」の戦い

ただしそろそろ、家庭内での椅子取り合戦は限界だ。すべてのサービスに加入する人はごく少数だ。ネットフリックスの言う「騒がしさ」とは、1社が選ばれる競争ではなく、家庭で契約される「2、3のサービスの中に残れるか」の争いなのだ。これはネットフリックスの言うほどたやすい戦いではない。

勝負のカギは当然コンテンツだ。だからこそ、ネットフリックスは株主向けニュースレターの中で、好調なオリジナル作品の名前を多数挙げ、積極的にアピールしている。その中には、日本で制作され、8月の公開後に話題となった「全裸監督」も含まれる。「全裸監督」は「日本で公開されたものとしては最大級のヒットとなり、特にアジアで大きな成功を収めている」とされている。

勝算あり。「国内300万加入」で衛星放送に並んだ

shutterstock_1174191703

カリフォルニア州ロスガトスのネットフリックスのオフィス。

Shutterstock

ただ、当面混迷するのはあくまで「アメリカ市場」のこと。アメリカ市場はすでに頭打ちで、パイの奪い合いという状況だからだ。ネットフリックスの伸びは、すでに90%以上がアメリカ市場以外でもたらされている。

ネットフリックスが進出している国の中でも伸びが顕著とされているのはインドだ。インドではテレビ以上に、スマートフォンを中心としたモバイルでの視聴が伸びており、特に、第3四半期に低価格なモバイル視聴向け料金プラン導入したことがヒットにつながったという。

image3

チーフ・プロダクトオフィサーのグレッグ・ピーターズ氏。今のポストにつく以前は日本法人の社長をつとめていた。2019年3月「Netflix Labs Day」にて撮影。

撮影:西田宗千佳

では日本はどうか? 今回の発表では特に大きく言及されていないが、9月6日に開催したプレス向けイベント「Netflix HOUSE:TOKYO 2019」にて、同社チーフ・プロダクトオフィサーのグレッグ・ピーターズ氏は、「日本での会員数がざっくりとした数字として、300万人を超えた」と公表している。


実は同社はこれまで、アメリカ以外の特定の国での加入者数をほとんど公表せずにきた。日本も同様で、2015年秋の日本市場参入以降、加入者数については「ノーコメント」を貫いてきた。

そのため、「鳴り物入りの参入だった割に、加入者は少ないのでは」ともささやかれていた。今回「300万」という数字を公開したのは、一定の数が得られたことをアピールすることで、そうした懸念を払拭する狙いがある。

300万という数字は、ネットフリックスの「1億5800万」というユーザー数から見れば非常に少ない数字に思える。だが、こと日本の映像ビジネスで考えると、この数字はかなりのものだ。

有料の衛星放送である「スカパー!」の加入者数が約327万件、「WOWOW」の加入者数が約289万件であることを思えば、その規模感がイメージしやすいと思う。日本は伝統的に「無料の地上波放送」が強く、次に「無料のBS放送」が強い。毎月映像を見るためにお金を払う、という市場はなかなか大きく育ってこなかった。その中での300万という数字は、映像配信市場の成長を実感できる、大きなものだ。

競合サービスも数字を示していないため、ネットフリックスのシェアは正確にはわからない。だが、各種市場調査やコンテンツ提供元からの情報を総合すると、「Amazon Prime Video」が500万から600万の利用者を抱えていてダントツの状況で、そこに日本テレビ系の「Hulu Japan」が続く、と見られている。

現状、ネットフリックスはHulu Japanを抜いて2位になっている可能性も高い。

好調の背景に「通信会社の提携」?今後の決め手は……

KDDIとネットフリックス

KDDIとの提携による、いわゆる「ネトフリプラン」は成功例としてグローバルで語られるようになってきた。

撮影:小林優多郎

では、日本での今後の市場動向はどうか?

ポイントは「いかにお得感と露出を増やすか」にある。おそらく日本は、アメリカほど多数の事業者が併存できる環境にはならない。

アメリカなら3つ、4つとサービスに加入してくれる可能性があるが、日本ではせいぜい1家庭で2つ、というところではないか。そうすると、「よりコンテンツがあって」「よりお得意」なサービスに収斂する可能性が高い。

Amazon Prime Videoが強いのは、通販をお得に使える年額会員サービスである「Amazon Prime」の一部であるからだ。映像配信だけに加入するよりも割安感があり、結果的に利用者が増えている。

kddi

KDDIは9月の新料金発表会のなかでもネットフリックスプランがあることを「ポイントの1つ」としてあげていた。手応えを感じていることのあらわれだろう。

撮影:伊藤有

ネットフリックスが加入を増やした背景には、2018年からKDDIと提携し、携帯電話サービスとバンドルしたプランを用意したことと無関係ではなさそうだ。

KDDI側も「解約率が低く満足度が高い」(同社髙橋誠社長)とコメントしており、ネットフリックスも株主向けニュースレターの中で、「通信事業者とのコラボレーションの成功例」として挙げているほどだ。携帯電話販売店で拡販できること、結果として割安感を演出できることなど、メリットは大きい。

国内ケーブルTV事業の大手であるジュピターテレコムもネットフリックスと提携し、今冬には連携したサービスメニューの提供を開始する。

これまで日本では、日本テレビ系のHulu Japanやフジテレビ系の「フジテレビオンデマンド」などの知名度が高かった。地上波という浸透度の高いメディアを使える上に、地上波のコンテンツを活用できたからだ。だが、特に若者を中心に、テレビの影響力は落ちている。スマホを起点にした「Abema TV」などの無料サービスとの競合もある。

そうすると、ここからの戦いのポイントは「お得さの周知」が重要であり、大手携帯電話事業者とケーブルTV事業者を押さえたのも、ネットフリックスがそうした部分を重視したからではないか……という分析が成り立つ。

(文・西田宗千佳)

ソーシャルメディアでも最新のビジネス情報をいち早く配信中

あわせて読みたい

Popular

BUSINESS INSIDER JAPAN PRESS RELEASE - 取材の依頼などはこちらから送付して下さい

広告のお問い合わせ・媒体資料のお申し込み