筆者(男性)が4カ月育休をとってみて気づいたことは、あっという間に「名もなき家事」で1日が終わってしまうということだった(写真はイメージです)。
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いつも何かに追われている気がする。ヌケモレがあるようで落ち着かない。どれだけ綿密に計画を立てても、突発的にやるべきことが降ってきてペースを乱される。断わりたいけれど、自分しかやる人がいないため、やらざるを得ない。
気がつけば、食事する時間もままならず、不規則になったり、食べ損ねたりする。心配とも緊張ともいえない気持ちに支配され、無意識のうちに大きなため息を漏らしている。そして、気づいたら1日が終わっていた……。
このような忙しさのなかに身を置いている方は多いと思います。
ここで1点、質問をさせてください。
「いま頭のなかに浮かんでいる場所はどこでしょうか?」
おそらく多くの方は「職場」を想像したと思います。
しかし、私が育休を4カ月半取得した経験からすると、この状況は「家庭」でも起きているのです。本記事では「名もなき仕事」「名もなき家事」に焦点をあて、日本を疲弊させる慌ただしさの構造について考えてみたいと思います。
「名もなき仕事」に追われ1日が終わる
会議の日程調整や何度も繰り返す同じ説明。職場にも「名もなき仕事」は溢れている(写真はイメージです)。
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2004年から2018年までの14年間、僕は広告会社に勤務していました。その間にマーケティング職からクリエイティブ職への異動はあったものの、クライアント企業のマーケティング戦略を定めた上で、広告表現を考え、実制作に向かっていくという点では、ほぼ同じ流れで仕事をしてきました。
クライアント先で考えるべき課題を共有し、社内でのキックオフ会議を行う。個人作業の時間を取り、方向性としてのコンセプトや具体的なアイデアを考える。実際に手を動かしてキャッチコピーも考えます。
その後、「持ち寄り」と言われるアイデア会議とチームでの合意を経て、提案する企画書の制作へ。プレゼンテーションでの結果次第で、修正や再検討を重ね、テレビCMやグラフィックなどの撮影が始まる。
このように書くと非常にシンプルなのですが、仕事はそれだけではありません。企画・打ち合わせ・プレゼンテーションといった名前がついている仕事に区分できないような細々とした「名もなき仕事」が発生するのです。
例えば、「打ち合わせ時間を決めるために全員のスケジュールを確認して回る仕事」「資料を読みながらアイデアを考えようとしたのに、肝心な資料を会社に置いてきてしまいやる気を削がれる仕事」「クライアントに提案する企画を決める日に限って、チームリーダーが打ち合わせに遅刻してきて、議論してきた内容を最初から説明し直す仕事」など……。
業種や職種の違いはあれど、多くの方がこうした「名もなき仕事」に日々疲弊しているのではないでしょうか。主役級の仕事の間に存在する、調整・擦り合わせ・無駄足といった「名もなき仕事」が慌ただしさや忙しさの元凶で、「気づいたら1日が終わっていた……」という状況を生み出すと実感しています。
心身が蝕まれた膨大な「名もなき家事」
家事にも掃除、料理など名前がつくもの以外のものが膨大にある(写真はイメージです)。
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僕がこの「名もなき仕事」に気づいたのは、2016年に4カ月半の育休を取得して、家事育児に向き合った時でした。この家事育児こそ、炊事・洗濯・掃除などに区分できない「名もなき家事」のオンパレード。
育休取得前に自分が想像していた量をはるかに超える名もなき家事に圧倒され、心と体がじわじわと蝕まれる日々を過ごしました。「育児労働・育児勤務」という言葉の方が適切なのではないかと感じるほどです。
朝起きてから、「水切りカゴに入っている昨夜洗った食器を、水滴の有無を確認しながら所定の位置に戻す家事(命名:リ・ポジショニング)」を行い、洗濯をする際には「タオル掛けにかけてあるタオルを洗うかどうか迷いにおいを嗅いで判断する家事(命名:嗅覚の覚醒)」、夕方の買い物の帰りには「自分で指定した再配達時間に急かされるように帰宅する家事(命名:再配達門限)」……。
これらは、2019年9月に発売した著書『やってもやっても終わらない名もなき家事に名前をつけたらその多さに驚いた。』で紹介した名もなき家事の一部です。
朝から夜まで、延々と生み出される70種類の名もなき家事を記載しています。これらの一つひとつが大変なわけでは決してありませんが、このような名もなき家事が絶え間なく押し寄せてくることで、いつの間にか1日が終わっていくことがつらいのです。
言語化することで意思決定が可能になる
「名もなき仕事」や家事を言語化することで、効率化できるようになる。
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そんな経験をしている時に、僕は気づきました。
忙しさの原因はこの「名もなき○○」で、この構造は仕事でも家庭でも同じなんだと。妻から夫への「こんな遅い時間まで何の仕事があるの?」という質問と、夫から妻への「1日中家にいて何してたの?」という質問は本質的には同じで、お互いが「名もなき仕事」「名もなき家事」の存在を知らないから起きるのだと。
ここに男女の間に横たわる断裂の原因の一端を垣間見たのです。
人は無意識のうちに行動していることが多く、名もなき仕事や名もなき家事はその典型だと思います。無意識がゆえに、チェックリストに入ることもありません。このような状態では、積極的にやらない決断をしたり、後回しにしたりすることができないのです。
そこで重要なのが「名もなき○○」という無意識に意識を傾けて、言語化することです。言語化されることで、チェックリスト化できると、いつやるのか、それともやらないのか、誰かにお願いするのか、という意思決定が可能になります。もちろん、相手に自分が追い込まれている原因である「名もなき仕事」や「名もなき家事」について、説明できるようにもなります。
そこで僕は、まだまだその大変さが市民権を得られておらず、言語化されていない「名もなき家事」に名前をつけることで、家事育児の目が回るほどの忙しさの正体を世の中に提示しようと思ったのです。前出した著書は、発売2週間で6万部を突破するほどの共感を得るに至っています。
ぜひ、自分の身近にある「名もなき仕事」「名もなき家事」を言葉にすることを試してみてください。想像以上の効果があることをお約束します。名もなき家事に名前をつけることで、僕自身が最も家事の効率化という恩恵を受けているように感じています。
梅田悟司:コピーライター。1979年生まれ。上智大学大学院理工学研究科修了。2016年から2017年にかけて、4カ月半におよぶ育児休業を取得。Twitterに投稿した「育休を4カ月取得して感じたこと」が大反響を呼び、累計1200万PVに。直近の仕事に、ジョージア「世界は誰かの仕事でできている。」、リクルート「バイトするなら、タウンワーク。」のコピーライティングや、TBSテレビ「日曜劇場」のコミュニケーション・ディレクターなど。著書にシリーズ累計30万部を超える書籍『「言葉にできる」は武器になる。』ほか。横浜市立大学客員研究員、多摩美術大学非常勤講師。
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