地球に迫る小惑星の想像図。
Vadim Sadovski/Shutterstock
- 大質量の小惑星が6600万年前、現在のメキシコ、ユカタン半島に衝突した。この衝突で恐竜を含む地球上の生物の75%が絶滅した。
- 小惑星の衝突は、大津波と大規模な山火事を引き起こし、大気圏に放出された数十億トンの硫黄が太陽光を遮ぎったことで地球は寒冷化し、多くの陸上生物が死に絶えた。
- 新たな研究で、海洋生物も大きな被害を受けたことが明らかとなった。衝突が引き起こした酸性雨と大気圏からの降下物が「一瞬」にして世界中の海を酸性化させ、当時の海洋生態系は崩壊した。
約6600万年前、直径約10kmの小惑星が現在メキシコのある地域に衝突した。衝撃によって何百マイルにもおよぶ山火事、高さ300mの大津波が発生し、数十億トンもの硫黄が大気圏に放出された。
衝突後1分以内に、チクシュルーブ小惑星は直径160km近い大穴を海底に作り、溶けた岩石と超高温のガスが煮えたぎる噴火口となった。プルームは山のような高さまで盛り上がり気化し、世界中の海に大量の酸性雨を降らせた。
科学者たちは、小惑星の衝突の後に地上で起こったこの破滅的な出来事が、陸上生物の75%を絶滅させた(恐竜を含む)と考えているが、海の生物がどのように絶滅に追いやられたかについては知られていなかった。米国科学アカデミー紀要に掲載された研究報告によると、衝突後に降り注いだ大量の酸性雨が海洋生物を息絶えさせたという。
論文の著者は、小惑星の衝突後、海が急激に酸性化し、このため海の食物連鎖が阻害され大量絶滅が引き起こされたという。
「海は一瞬で酸性化した。そして海洋の生態系を変容させ、百万年単位で影響を及ぼした」と論文の共同著者の一人、ノア・プラナブスキー(Noah Planavsky)氏はニューヨーク・タイムズに説明した。
現在のメキシコ、硫黄の豊富なユカタン半島の浅い海に衝突する小惑星の想像図。
Donald Davis/NASA
小さな貝殻が語る衝突後の出来事
小惑星衝突後の謎に迫るため、科学者たちは採取された衝突前後の岩石や、チクシュルーブ小惑星が衝突した時代に死んだ生物の化石を分析した。
今回、論文の筆頭著者であるマイケル・へネハン(Michael Henehan)氏は、露出したいくつかの粘土層をオランダのグールヘンメルベルク(Geulhemmerberg)の洞窟で発見した。粘土層には衝突直前と直後の両方の岩石が含まれていて、それぞれの層の岩石には、有孔虫(Foraminifera)と呼ばれる微小なプランクトンの化石化した貝殻があった。
へネハン氏と彼のチームは、この貝殻に含まれる化学元素を分析することで、この微生物の死因の手がかりを得た。
オランダ、グールヘンメルベルクの洞窟で発見された有孔虫の貝殻の化石。写真の拡大率は8倍。
Michael J. Henehan
へネハン氏のチームは、ホウ素の同位体(海の酸性度を推定する手がかりとなる)の割合からチクシュルーブ小惑星の衝突後100年から1000年で海が酸性化したことを発見した。へネハン氏はガーディアンに、衝突後の貝殻は「ずっと薄く、石炭化も十分でない」ようだと説明した。
これらのヒントは海中のpH(水素イオン指数)が小惑星衝突の1000年以内に0.25ポイント低下したことを示している(pHスケールでは0を完全な酸性とし、14が完全なアルカリ性となる。通常、海はアルカリ性)。
1000年というのは長い年月のようにも思えるが、地質学的には「一瞬」で海面が酸性化したといえると著者は解説する。この酸性化が多くの微生物を一掃した結果、海洋食物連鎖の崩壊を引き起こし、次いで海洋生物の大量絶滅につながった。
白化した珊瑚。フランス領ポリネシアのタヒチ島。2019年5月。
Luiz Rocha, California Academy of Sciences
「これは、海の酸性化が生態系の崩壊させ得ることを示している」とへネハン氏は話し、「以前から考えられていた説だが、有効な証拠がなかった」と付け加えた。
今、海の酸性化によって生態系が再び崩壊する可能性
論文の著者たちはこの発見が、現在の海の状況を理解する上で重要だという。
人間が排出する二酸化炭素の30%が海に溶け込むという。これにより水中で化学反応が起こり海を酸性化させる。産業革命以来、海洋のpHはすでに0.1ポイント低下、つまり酸性度が30%上昇している。
6600万年前に起こったpHの低下は、過去250年間の観測値のわずか2.5倍だ。スミソニアン協会によると海洋pHは今世紀の終わりまでに、さらに0.3から0.4ポイント低下するという。
「もし0.25(の低下が)大量絶滅を引き起こすのに十分な数値であるならば、憂慮するべきだ」とへネハン氏は話した。
アメリカ海洋大気庁が2017年に撮影したグアムの白化した珊瑚。
David Burdick/NOAA/AP
2012年の研究報告によると海の酸性化は、過去3億年で最も急速に進行しているという。プラナブスキー氏はニューヨーク・タイムズに、この進行の速さは恐竜を絶滅させた小惑星の衝突による酸性化に匹敵すると話している。6600万年前のような大量絶滅は「向こう100年で我々が直面しうる最悪の事態だ」とプラナブスキー氏は話した。
(翻訳:忍足亜輝、編集:Toshihiko Inoue)