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防災か景観か?台風19号で気づいた災害リスクと持つべき危機感

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専門家は「これまでと同じように安全だと考えてもいい時代は終わった」と話す。

REUTERS/Kevin Coombs

東日本に記録的な大雨をもたらした台風19号の関東直撃により、東京都内では居住地として人気の、世田谷区の二子玉川の住宅地が浸水した。

東急電鉄・二子玉川駅から下流の部分では、景観の保護を訴える住民による反対運動で、多摩川沿いの堤防建設に時間がかかったという経緯がある。一方で、早くから治水対策に取り組んできた善福寺川などでは、大雨による被害は少なかった。

専門家は「東京の水害リスクは高まっている」としており、台風19号は景観と防災のあり方を見直すきっかけになりそうだ。

堤防建設に住民の反対も

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台風19号による大雨で増水した多摩川。

REUTERS/Kim Kyung-Hoon

国土交通省京浜河川事務所によると、二子玉川では、二子橋から上流に向かう約540メートルの区間で堤防が設置されていない。台風19号では、堤防のない部分から水が流入。世田谷区の発表によると、玉川地区で約130件の床上浸水が発生した(10月15日現在、罹災証明書の発行数)。

同河川事務所によると、二子橋から下流の約600メートルの堤防は2014年に完成。

しかし、2010年には工事の差し止めを求める仮処分申請が、東京地裁で申し立てられるなど住民による反対運動もあり、建設が遅れた経緯がある。住民との話し合いは2006年頃に始まったといい、2014年の完成まで約8年もかかった。

堤防の設計中に台風19号が

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二子玉川の赤い点線で囲まれたで、堤防建設が計画されている。

提供:国土交通省京浜河川事務所

続く上流の堤防建設については、2015年から国と区の調整が始まり、2018年からは住民と同河川事務所らが意見を交換する「二子玉川地区水辺地域づくりワーキング」が設置された。

意見交換では、住民から「樹木をできるだけ残してほしい」「家の中がのぞかれないようにしてほい」といった声が上がり、植樹方法や目隠しの方法などを協議してきたという。同河川事務所によると、「上流の堤防については、予定通り意見交換を重ねてきた。計画通りに進んでおり、工事が遅れているということはない」と話す。

2019年6月に5回目の意見交換を行い、堤防の全体像について住民と合意したが、細部の設計を行っている段階で、台風による浸水が発生した。同河川事務所は、「下流部分では、堤防の力で台風による増水に対応できた。今回の浸水被害を受け、上流部の堤防も整備を加速していきたい」としている。

治水工事「悲しいけれど、しょうがない」

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台風19号が接近し、増水した善福寺川。

画像:取材者提供

一方、早くに治水対策が進んだ、善福寺川に目を向けてみよう。

「治水工事で景観が失われていくことを残念に思っていた。でも今回の台風を見て、都市に住む以上、治水工事を進めるのはしょうがないことなんだと思い知った」

杉並区の善福寺川近くのマンションに住むAさん(50)は話す。

杉並区に水源を持つ善福寺川は、蛇行しながら住宅地を流れ、中野区との境界で神田川と合流する川で、過去何度も氾濫してきた。

2005年9月の集中豪雨の際には、杉並区と中野区で1600棟以上が浸水するなど大きな被害が発生したこともあり、東京都では川底を深くしたり、川の水を貯める調節池を設置したりする工事を続けている。2016年8月には、25メートルプール約117杯分の水(約3万5000㎥)の水を貯められる善福寺川調節池が稼働した。

「緑を守りたい、は甘かった」

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善福寺川沿いにある野球場。台風19号が通過し、水が貯められていた。

提供:取材協力者

Aさんは2000年から杉並区に住み始めた。善福寺川沿いに広がる公園が散歩コースで、子どもと一緒にピクニックをしたり、花見をしたりしてきたが、2005年の集中豪雨後に加速した治水工事の影響で、街の姿は大きく変化したという。

「好きだった柳や桜が切られ、公園がなくなってしまった。住民の中には、桜の木に『大切な木を切るのは絶対反対』という紙を貼るなど、工事に反対する人もいました。私も工事には反対でSNSで発信したこともある」(Aさん)

しかし、台風19号で各地の川が氾濫したことを知り、治水に対する考えは変わったという。

「2005年の集中豪雨の時には、マンションのすぐ下まで水が来た。今回の台風では治水工事のおかげで川が氾濫しなかったのかもしれない。思い出の景色がなくなるのは悲しいけれど、行政が早め早めに手を打ったことで街を守った。『都会の緑はやっぱり守りたいよね』などと単純に思っていた自分のこれまでの甘さを感じた」(Aさん)

大きな災害のリスク高まる2000年代以降

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多摩川近くに住む編集部記者の自宅地下室も浸水した。

撮影:伊藤有

関根正人・早稲田大教授(河川工学)はこう警鐘を鳴らす。

「治水技術が高くなり、大きな水害が少なくなるにつれ『景観を守ることも大切だ』という考えが広まった。しかし2000年代以降は、現在の治水技術では対応できない、より大きな災害が発生するリスクが高まってきている。もし台風19号が別のルートを通っていれば、都内で川が氾濫していたかもしれない」

景観と治水のバランスはどう考えるべきなのか?

関根教授はこう説明する。

「住民が『浸水が起きた場合は避難するから堤防はいらない』と希望する場合は、ある程度の考慮は必要だろう。

一方で、治水は次世代への投資でもあるから、今がいいからと言って次の世代がツケを払うのはいけない。こうしたほうがいいと言えない問題だが、気候変動が深刻になっていることから、治水を優先して考えざるを得ないのではないか」

治水工事には、「いつ起こるか分からない災害に、そこまで備える必要があるのか」という意見もある。

一方で台風19号による大雨で、水害対策の大切さが身に染みた人も多いはずだ。これまでは大丈夫だった。しかし、だからと言ってもはや安心はできない。地球規模の気候変動により、これまでにない災害が起こるかもしれない。この危機感抜きで、防災はもはや語れない時代になっている。

(文・横山耕太郎)

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