陛下と雅子さま、パレード延期までの「真面目」と「ディテール」のはざま

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十二単の装束を身につけ、即位礼正殿の儀に臨まれる雅子さま。

Reuters/Issei Kato

天皇陛下の即位を祝うパレードの取りやめが決まったのは「即位礼正殿の儀」の4日前、10月18日のことだった。前日に安倍首相が「延期検討」を記者団に明かし、翌日の閣議で決定、11月10日への延期を決めた。

パレード、正式には「祝賀御列の儀」は政府主催だから政府が決定するというのが建前であり、そのような流れになった。とは言え、陛下と雅子さまのお気持ちがあったからこその取りやめ、延期だったに違いない。

第三者が説明する形

その前段として、10月15日にはお二人の台風被害へのお見舞いが、宮内庁の西村泰彦次長から明かされている。その全文を、やや長いが紹介する。

「天皇皇后両陛下には、台風19号による大雨災害で多数の方々が犠牲となり、また、依然として多くの方の安否が不明であること、数多くの方々が被災されていることに大変心を痛めておられます。

亡くなられた方々を心から哀悼されるとともに、ご遺族と被災された方々にお見舞いの気持ちをお持ちでいらっしゃいます。

両陛下には、安否不明の方々が早く見つかること、並びに、一日も早く復旧が進み、被災された方々の生活が早く元に戻ることを心から願っていらっしゃいます。

また、災害対策のために日夜努力している関係者のご労苦に対し、おねぎらいのお気持ちをお持ちでいらっしゃいます」

この文章の出所は、宮内庁ホームページ。「新着情報」を開くと、「台風19号による災害についてのお見舞い(令和元年10月15日発表)」とある。そこを開くと、西村次長が定例会見で天皇皇后両陛下のお気持ちをご紹介したという説明があり、続いてこの文章が書かれている。つまり、会見で次長が読んだ文章なのだろう。

天皇ご夫妻はこんなお気持ちですよ、と第三者が説明する形になっている。その第三者が西村次長という構図だから当然かもしれないが、官僚的な文章だと感じてしまう。総花的なのだ。犠牲者とその家族、行方不明者、被災者、そして関係者。すべての人々を対象に、順番に気持ちを淡々と説明している。

お気持ちはその通りだと思いながらも、事務連絡のように感じるのは私だけだろうか。

お立場上、誰に対しても気遣わなくてはならない。どんな時も全体を見て、同じように振る舞うことが肝要。天皇皇后とはそういうものだとわかりつつ、もう少し違う表現ができたのではないだろうかと思ってしまう。

同じ「新着情報」に、ずいぶんと毛色の違う文章が載っているのだ。

もう一つの「お取りやめ」

洪水被害

2019年10月14日、台風19号で堤防が決壊した長野県千曲川で、救助に当たるレスキュー隊。

Reuters

それは、「上皇后陛下お誕生日の祝賀行事のお取りやめについて(令和元年10月15日発表)」。

10月20日の美智子さまのお誕生日行事を取りやめるというもので、カッコ内の日付が同じだから、西村次長がその日の会見で二つ同時に発表したということだ。お見舞いの気持ちと、お誕生日行事の取りやめ。同じく西村次長という第三者による説明なのに、トーンがずいぶん違う。

お誕生日行事の取りやめの方の文章は長いので、中段だけを引用する。取りやめの理由を説明した箇所だが、それだけで二つの文章の違いはわかっていただけるはずだ。

「今回の台風については、その発生以来、上皇上皇后両陛下とも災害の様子を伝える早朝6時のニュースを始めお昼、夜のニュース等を注視されてきましたが、これまで全国各地の様々な災害被災地をお見舞いになってこられた両陛下にとっても、被災地の広さ、堤防決壊数の多さにおいて他に比較できる災害のご記憶がなく、大変にお心を痛めておられます」

記者、編集者として長く文章に携わる仕事をしてきたが、文章力とはディテール力だと思っている。読む人の頭に情景がはっきりと浮かんでくる文章を書ければ、読む人の気持ちを動かせる。その決め手は、具体的な事実をどう表現するか、すなわちディテールだと思うのだ。

美智子さまのお誕生日行事取りやめの文章は、ディテールに満ちている。上皇さまと美智子さまが、お二人でテレビを見つめ、「これまでに、こんな災害はあったろうか」と語り合う様子まで頭に浮かぶ。メリハリの効いた文章に、心が動かされる。

ディテールに富む美智子さまの言葉

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2019年9月、乳がん摘出手術を終えて退院される上皇后美智子さま。その文章のディテールは豊か。

Reuters/POOL New

どのようにして記者会見の文章が決まっていくかはわからないので、官僚的とメリハリの分かれ目がどこにあるかはわからない。だが一つだけはっきり言えるのは、美智子さまの文章はいつもディテール力にあふれていたということだ。

例えば2002年、68歳のお誕生日にあたっての文章。紀宮さま(当時)の結婚が近づいていることへの感想を宮内記者会から尋ねられ、美智子さまはこんなふうに答えている(一部抜粋)。

「清子の嫁ぐ日が近づくこの頃、子どもたちでにぎやかだった東宮御所の過去の日々がさまざまに思い起こされます。浩宮(東宮)は優しく、よく励ましの言葉をかけてくれました。礼宮(秋篠宮)は、繊細に心配りをしてくれる子どもでしたが、同時に私が真実を見誤ることのないよう、心配して見張っていたらしい節(ふし)もあります。年齢の割に若く見える、と浩宮が言ってくれた夜、『本当は年相応だからね』と礼宮が真顔で訂正に来た時のおかしさを忘れません」

兄と弟、それぞれの性格の違いがわかる。ユーモアが感じられる中、2人の母を思う気持ちが伝わってくる温かな文章。なんというディテール力なのだと感心するばかりだ。

心がけられている「研鑽」

天皇ご夫妻

笑顔を向けられる陛下と雅子さま。「研鑽を積み努力する姿勢が印象的」と筆者は指摘する。

Reuters/Kim Kyung Hoon

もしかすると、陛下と雅子さまは真面目すぎるのではないかしらと思う。

例えばお二人のお好きな言葉に、「研鑽」がある。陛下は即位後朝見の儀の「おことば」で、「自己の研鑽に励むとともに、常に国民を思い」と述べられた。雅子さまは2018年12月、55歳の誕生日にあたっての文書で、「この先の日々」について「研鑽を積みながら努めてまいりたい」と表現された。

即位礼正殿の儀が行われた22日、NHKで放送されたドキュメント番組「天皇ご一家が愛する“那須”」では、「那須平成の森」を散策する際、ガイドにカエデの種類について質問し、メモをするという愛子さまも交えた様子が語られていた。

ご一家あげての努力する姿勢は、ご立派であり好もしくもある。だが、一方でこうも思う。真面目さが、ディテールを奪っているということはないだろうか、と。

陛下と雅子さまは真面目なあまり、ディテールを語ることを「枠から外れる」と感じるのではないだろうか。「ディテール」より「おしなべて全体」を語ることを優先してしまうことはないだろうか。そうだとしたらもったいないと、失礼ながら思ってしまう。

国民はお二人をもっと知りたい。そのためには、「全体」より「具体」が肝心。そう思うからだ。

国民が味方になるから

お二人には、真面目さという肩の力を少しだけ抜いていただけたらと思う。ディテール力のお手本は美智子さま、とは書かない。お二人にはお二人なりのディテールがあるはずだ。

即位礼正殿の儀が始まる午後1時、それまで激しく降っていた雨が上がり、虹も出た。23年前、陛下と雅子さまのご成婚の日も朝から雨だったが、パレード直前に上がった。お二人は「運」も味方につけていると思う。

だから、というのも変だが、お二人らしくディテールを語っていただきたい。運はもちろんだが、味方はそれだけではない。国民が、一番の味方だ。


矢部万紀子:1961年生まれ。コラムニスト。1983年朝日新聞社に入社、「AERA」や経済部、「週刊朝日」などに所属。「週刊朝日」で担当した松本人志著『遺書』『松本』がミリオンセラーに。「AERA」編集長代理、書籍編集部長を務めた後、2011年退社。シニア女性誌「いきいき(現「ハルメク」)」編集長に。2017年に退社し、フリーに。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』。最新刊に『美智子さまという奇跡』。

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