アメリカでは「親は成人を迎えた子を甘やかしすぎ」との見方が多い。日本はどうだろうか。
撮影:今村拓馬
経済的独立は、子どもが成長して大人になったことを示す指標のひとつ。ピュー・リサーチ・センターの最新調査によると、アメリカでは64%の人たちが、「ひと皮剥ける」その時期を22歳ごろと考えているようだ。
しかし現実は厳しいもので、その年齢までに経済的独立を果たす若者はそんなに多くない。
22歳までに親から経済的独立を果たす若者の数はここ数十年減っていて、1980年には32%いたが、2018年に24%まで減少した。
大多数が「22歳までに経済的独立を」と考えているが、現実とはギャップがある。
出典:Pew Research center
ただし、18〜29歳までに対象を広げてみると、経済的に独立している若者はここ数十年増えても減ってもいない。
ピューの最新調査は、多くの若者が経済的に親に依存していることを強調する結果となった。1年以内に親から何らかの経済的支援を受けた18〜29歳の若者は約45%にのぼった。
実際には、経済的支援を受けている若者はもっと多いのかもしれない。18〜29歳の子どもがいる親への調査では、実にその6割(59%)が1年以内に子どもに何かの経済的支援をしたと答えている。
ピュー・リサーチ・センターの調査概要……(オンライン)2019年6月25日〜7月8日、9834人が対象。(電話)2019年6月25〜30日、1015人が対象。
「成人を迎えた子を甘やかしすぎ」が5割超
調査結果をさらに詳しくみていく。
アメリカでは一般的に、成人を迎えた子どもを親が甘やかしすぎているとの見方が強く、今回の調査でも55%がそのように回答している。逆に、十分に面倒をみていないと答えたのはわずか10%、ちょうどいいくらいの後押しをしていると答えたのは34%だった。
大多数のアメリカ人が「親は成人を迎えた子を甘やかしすぎ」と考えている。
出典:Pew Research center
ただし、この感覚には世代によって大きな開きがみられた。30〜49歳の55%、50〜64歳の64%、65歳以上の65%といずれも大半が、成人を迎えた子どもたちは甘やかされていると答えたのに対し、18〜29歳でそう答えたのは3割にとどまった。
また、子どもを甘やかしているという感覚は白人ほど強く(62%)、黒人(46%)やヒスパニック(38%)との間に有意な差が出た。
親が子どもを甘やかしすぎていると答えた人たちに、具体的にどんな風に甘やかしていると思うか自由記述で回答を求めたところ、最多を占めたのは経済的支援(43%)。以下、子どもの問題を解決しようとしたり、失敗しないよう心配してあげたりすること(37%)、成人を迎えても子どもと一緒に住み続けていること(23%)、娘息子に代わって孫の世話をしてやること(4%)と続いた。
世間の一般論はともかく、実際に18〜29歳の子を持つ親、その子ともに、ちょうどいいサポートを受けていると感じている。
出典:Pew Research center
とはいえ、ここまではあくまで一般論。実際に18〜29歳の娘息子を抱える親たちの考えとはまた異なるところがある。
世間を眺めたときに、成人を迎えた子が甘やかされているという大枠としての見方には61%が同意したものの、自分の家庭でも甘やかしていると答えた親は28%しかいなかった。6割以上がちょうどいいくらいだと答え、十分に面倒をみていないとの回答は8%にとどまった。
成人を迎えた子のほうも同様で、大多数(65%)が親の認識と同じで、ちょうどいいくらいのサポートを受けていると答えた。甘やかされていると答えたのは18%、親がもっと支援してくれてもいいと考えているのは16%だった。
親と子の認識差、男女差、年齢差、そして親の年収差
経済的支援の実態についてもう少しみてみよう。
約6割の親が、過去1年以内に、18〜29歳の我が子に何らかの経済的支援をしたと回答。
出典:Pew Research center
18〜29歳の若者たちに聞くと、1年以内に親からかなり支援を受けた人は24%、それなりに受けた人、ほとんど受けていない人がいずれも21%、まったく受けていない人は34%だった。
上の数字は、親たちに聞いた結果とは多少ズレがあって、かなり支援したと答えた親は29%、それなりは30%、ほとんど支援していない親は25%、まったく支援していないは16%だった。
親から支援を受けておきながら過少申告する子が多いのか、子に渡したお金を過大評価する親が多いのか、そのあたりは不明だ。
経済的支援について、男女差はほとんどみられなかったが、年齢による差は明らかにあった。
大学(場合によってはまだ高校)に通っている人が多い18〜22歳は、当然のことながら、かなり(37%)あるいはそれなりに(26%)親から経済的支援を受けていた。卒業した人が多いと思われる23〜29歳だと、かなり支援を受けたのが16%、それなりが18%と、合わせて3割程度にとどまった。
ちなみに、親から何らかの経済的支援を受けた若者たちのうち、特殊な事情が生じて支援を受けたと答えたのが45%、経常的な支出(生活費)のために支援を受けたのは28%、その両方を兼ねてと答えたのが27%だった。支援した親の認識もほぼ同じだった。
食費や公共料金、ローン返済……
18〜29歳の半分以上が親から経済的支援を受け、その一部を経常的な支出(生活費)に充てた。
出典:Pew Research center
親からの経済的支援は具体的に何に使ったのかを問うと、食費や公共料金のような家計費が60%、授業料など教育費が40%、家賃やローン返済が同じく40%、医療費が35%だった。この内訳についても、支援した親の認識とほぼ重なっていた。
経済的支援の多寡や用途は、親の年収によって異なることも明らかになった。
18〜29歳の子を抱える年収10万ドル(約1080万円)以上の親の35%が、1年以内にかなりの経済的支援を行ったと答えたのに対し、それより収入の低い親では25%だった。
経済的支援の用途として「教育に関わる支出」をあげたのは、年収10万ドル以上の親のおよそ3分の2にのぼり、年収7万5000ドル(約810万円)〜9万9999ドルの親では53%、それ以下の年収の親では50%に届かなかった。
女性のほうが精神的に親を頼りにする傾向
経済的支援が親によるサポートの片輪だとすれば、両輪のもう一方は精神的支援ということになるだろう。
親からの精神的支援に関する認識は、親子、男女の間でズレが生じた。
出典:Pew Research center
まず、子が思うより、親は子に精神的に頼られていると感じているようだ。18〜29歳の若者の50%が、かなり(20%)あるいはそれなりに(30%)親からの精神的サポートを受けていると答えたのに対し、親たちの77%がかなり(36%)あるいはそれなりに(41%)精神的に頼られていると答えた。
また、女性のほうが親の精神的サポートを頼りにしていることもわかった。
18〜29歳の女性の6割(57%)がそれなり以上の精神的支援を受けたと回答したのに対し、男性では4割(42%)にとどまった。親を精神的にまったく頼りにしていないと答えた若者の割合も、女性は2割(19%)なのに対し、男性は3割(31%)にのぼった。
各世代の「生の声」はこれほどまでに異なる
最後に、調査対象から届いた生の声をいくつか紹介しよう。まずは56歳男性。
「社会を生き抜くコストが高くなった昨今、親はいつでも全てを子に分かち与えたいという思いをもっているものだから、より長く子どもを経済的に支えようとするのは当然なんじゃないかな」
続いて20歳の女性。意外に古い価値観だが、素晴らしいことは素晴らしい。
「大学を卒業するとか、ある時期が来たら、就職して実家を離れるのは大事なことだと思います。自分の周りにも、卒業して仕事に就いたのに、家賃も払わず実家で暮らしている人がいるけど、正直に言うなら、親は子どもの独立を後押しすべきだと思っています」
44歳の女性はこう述べている。事態は深刻だ。
「我が家には成人を迎えた子が3人もいます。だって、自分たちの収入だけでは暮らしていけないんだもの。3人ともフルタイムで働いているのに、それでも生活費には足りないの。子どもたちを取り囲む環境がそんなだから、親が頑張るしかないじゃない」
最後に70歳の男性。分かりやすい。
「いまどきの子どもたちは何でもすぐにほしがる。親たちは、自分らの引退後のこともよく考えず、湯水のように金を与える。若者たちはもっと一生懸命汗水たらして働き、出世して収入を増やすことを考えなくちゃいかん。何でももらおうとする根性はよくない」
アメリカも日本も、世代間格差の問題はまだまだ始まったばかりだ。
(文・川村力)