2019年9月、イエメン国内某所で展示された同国の武装組織フーシ派のドローンと巡航ミサイル。
Houthi Media Office via REUTERS
「サウジアラビアの石油施設がドローンで攻撃された!」
9月14日にこのニュースが報じられると、メディア各社はこぞって「ドローンで戦争が変わる!」といった記事や番組を発信した。筆者もいくつかの番組や雑誌にコメントを求められ、軍事用のドローンについて解説する機会があった。
その際、「今回の攻撃のすごいところは、ドローンが使われたことですが……」と先方から切り出され、こちらから「いや、今回の件ではそうではなくてですね……」と応える場面が非常に多かった。事件から1カ月以上が過ぎたが、いまでもこうしたちぐはぐなやり取りは続いている。
「ドローン」というパワーワードが、どうもメディア上で迷走しているようだ。
「ドローン攻撃」への根本的な誤解
2019年6月21日、サウジアラビアが首都リヤド近郊の軍事基地で公開したフーシ派のドローン(とされる飛翔体)。
REUTERS/Stephen Kalin
「ドローン」と聞くと、多くの人は、手で持てるサイズでマルチコプター(3つ以上の回転翼をもつヘリ)型のドローンを思い浮かべるだろう。誰でも簡単に空撮ができるとして大人気になった商品だ。価格は概して数万円から数十万円だが、安価なものだと1万円以下でも買える。
そのため、サウジアラビア東部のアブカイクとクライスの石油施設が巡航ミサイルとドローンの攻撃を受けて炎上したこの事件では、この「ドローンが使われた」という点にメディアの関心が集中した。誰でも簡単に買えるドローンが軍事用に使われ、凄まじい破壊力を見せたというイメージに、驚きと恐れがあったのだろう。
しかし、ドローンといってもさまざまな種類があるため、それぞれきっちり分けて議論しなければならない。今回の事件に関しては、そこが一緒くたに語られたことで、ドローンに対しておかしな理解が拡散している印象を、筆者は持っている。ドローンによる攻撃といっても、趣味用のドローンが使われたわけではないのだ。
サウジ攻撃のドローンは巡航ミサイルと大差ない
2019年9月14日、何者かの攻撃を受けて炎上するサウジアラビア東部アブカイクの石油施設。
REUTERS/Stringer
たとえば、今回のサウジ攻撃について言えば、ドローンの使われ方はとくに重要というわけではない。イランが開発した新型の三角翼タイプが使われたが、遠隔操縦されたわけではなく、あらかじめ入力されたプログラムどおりに飛行し、標的に突入しただけだ。
遠隔操縦するためには、操縦者から機体に電波が届かなければならないが、(仮に犯行声明どおりイエメンからの攻撃だったとすれば)アブカイクやクライスまでは1000キロ近い距離があり、衛星通信でも使わないかぎり遠隔操縦は不可能だ。
したがって、サウジ攻撃の際のドローンの使われ方は、巡航ミサイルと何ら変わるところがないと言える。巡航ミサイルとドローンの両方が使われたものの、長射程の巡航ミサイルがあるなら、何もわざわざドローンまで使う必要はなかった。何らかの理由が犯人側にはあるのだろうが、外部から推察したところで、それは憶測の域を出ない。
実は、こうした長距離攻撃の場合、巡航ミサイルのほうがむしろ有利と言える。概して巡航ミサイルのほうがパワーがあり、ペイロード(積載できる重量)がずっと大きい。より多くの爆薬を積めるので、威力がはるかに強力なのだ。
また、ドローンは低空を飛ぶから相手のレーダーに捕捉されにくいという利点が挙げられるが、それは巡航ミサイルもまったく同じだ。それどころか、巡航ミサイルのほとんどはジェット・エンジン推進によって高速で飛ぶのに対し、ドローンはプロペラ推進で低速のものが多いので、仮に飛行中に発見された場合、撃ち落とされやすい。
「戦争を変える」ドローンとはどんなものか
ここまで見てきたように、サウジ攻撃について言えば、ドローンが使用されたことの意味は(軍事的には)さほど大きくない。ただしそれは、いわゆる「長距離自爆用」だったからで、別の種類のドローンは、戦争のかたちを変えるゲームチェンジャーになる可能性がある。
そこで、種類ごとに見ておこう。
▽偵察型ドローン
「ドローン」は、無人機全体の通称だ。軍事の世界ではかなり以前から、対空兵器の訓練用の標的機として無人機が使われてきた。
しかし、現在の最先端のドローンにつながる技術の多くは、もともと戦場で敵を偵察するために開発されたものだ。当初は小型のラジコン機のようなものが多かったが、1990年代に米軍が採用した「RQ-1プレデター」の性能は画期的で、対テロ戦の現場で大きな成果を上げた。
当時すでに、世界中のゲリラ勢力の多くに携帯式の地対空ミサイルが普及し、上空からの偵察任務が危険になっていた。そこで、撃墜されても人的被害が出ない無人偵察機の重要性が高まったわけだ。現在もさまざまな偵察用ドローンが世界各国で開発されている。
▽長距離自爆型ドローン
前述したように、巡航ミサイルと同じように使われ、とくにドローンでなければならないことはない。ただし、有利な点もある。調達の容易さだ。
回転翼(プロペラ)式が多いドローンは、一般的にはジェット・エンジン推進の巡航ミサイルよりかなり安い。巡航ミサイルが1発あたり数千万円から億円単位の価格となるのに比べ、自爆用に使われるドローンの多くは、数十万円からせいぜい数百万円。なかには1000万円以上のものもあるが、それでも巡航ミサイルよりは安価で、予算の限られたテロリストでも手に入れやすい。
その意味で、破壊力は小さいが廉価な自爆型ドローンは、本格的な戦争向けの兵器というよりも、標的を絞ったテロの道具に向いていて、それはそれで脅威となる。
▽短距離自爆型ドローン
短距離自爆型の小型ドローンには、敵の電波発信源を捜索して攻撃するものや、戦場で遠隔操縦によって敵を攻撃するものがある。通常の砲弾に比べてコストパフォーマンスは悪いが、軍事的にはかなり使い勝手がいい兵器と言える。
戦場の上空でロイタリング(徘徊)し、敵を見つけたら遠隔操縦で正確にピンポイント攻撃できる。遮蔽(しゃへい)物の陰に隠れていても、別角度から攻撃可能だ。
この方式のドローンで先行しているのは、対ゲリラ戦に力を入れているイスラエルだが、他にも米露中などいくつかの国が開発している。銃撃戦・砲撃戦の最前線でも使えるし、テロの道具にもなり得る。
イラン国内で(なぜか)展示された米軍のドローン「MQ-1プレデター」。
Tasnim News Agency/Handout via REUTERS
▽攻撃型ドローン
偵察用無人機に武器を積んで攻撃にも使おうというアイデアを最初に実現したのは、米中央情報局(CIA)だ。前出のRQ-1プレデターに対戦車ミサイルを搭載し、2000年代の対テロ戦で実戦投入した(武装した改良型は「MQ-1プレデター」)。現在もアフガニスタンなどの戦場では、米軍の「MQ-9リーパー」などの攻撃型ドローンが広く使われている。
敵が潜むエリアを偵察し、発見したら搭載するミサイルや精密誘導爆弾などで攻撃し、そのまま帰還する。遠く離れた安全な基地からの衛星通信遠隔操縦なので、攻撃側に危険はない。交代制により長時間の運用も可能だ。
妨害電波で通信を遮断されたら使えないので、重装備の正規軍相手より対ゲリラ戦などで威力を発揮する。
いまや世界中の対ゲリラ戦の最前線では、幹部暗殺などのピンポイント空爆作戦において「攻撃側が死なない」時代を迎えつつある。その意味で、この攻撃型ドローンはすでに戦争の姿を(一部)変えつつあると言える。
▽自律型無人戦闘機
現在は開発を中断している米軍の攻撃型ドローン「X-47B」。2013年7月、ニミッツ級空母ジョージ・H・W・ブッシュ艦上にて。
REUTERS/Rich-Joseph Facun
さらに現在、米英仏露中などの主要国は、攻撃型ドローンをより進化させた次世代兵器を研究している。AI(人工知能)技術などを採り入れ、自動操縦化を進めた無人戦闘機だ。遠隔操縦方式のドローンはどうしても電波妨害に弱いが、自動操縦化が進めば、耐性が強化される。
この分野の研究で先行していたアメリカは、「X-47B」の空母への自動離発着や空中給油まで実現させたが、資金的な問題で現在、開発を中断している。他方、ロシアは2019年8月、無人ステルス攻撃機「S-70オホートニクB」の初試験飛行を成功させている。
現代のAI技術ではせいぜい自動飛行・発着までで、攻撃の判断などはどうしても人間に頼らざるを得ない。さらなる技術革新が進めば、将来的には、任務を入力するだけで飛行から索敵・攻撃まですべて自動で遂行する完全自律型「ロボット戦闘機」が誕生するかもしれない。
軍事用ドローンの進化はもともと「操縦者が死なない」ための無人化が出発点だったが、将来はさらに進んで、「人が介在しない戦争」になっていく可能性を秘めている。実現すれば、まさに戦争の世界のゲームチェンジャーとなるだろう。
黒井文太郎(くろい・ぶんたろう):福島県いわき市出身。横浜市立大学国際関係課程卒。『FRIDAY』編集者、フォトジャーナリスト、『軍事研究』特約記者、『ワールド・インテリジェンス』編集長などを経て軍事ジャーナリスト。取材・執筆テーマは安全保障、国際紛争、情報戦、イスラム・テロ、中東情勢、北朝鮮情勢、ロシア問題、中南米問題など。NY、モスクワ、カイロを拠点に紛争地取材多数。