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「関係改善に前向き」驚くほど寛容な中国紙。ペンス米副大統領演説に

ペンス副大統領

2018年の「米中新冷戦」演説から1年ぶりにペンス副大統領が対中政策を発表。トーンがかなり寛容になったと中国の有力紙も評価している。

Getty Images / Chip Somodevilla

ペンス米副大統領が10月24日、2018年の「米中新冷戦演説」から約1年ぶりに包括的な対中政策を発表した。

中国は公式には「政治的偏見とうそに満ちた演説」と反発したが、中国共産党系有力紙は逆に「関係改善に前向き」と、驚くほど寛容な反応を示した。

11月に予定される「第1段階」の米中通商合意を控え「束の間の休戦で一息ついている」という分析もある。

合意可能な穏健姿勢示す

「米中関係の将来」と題された約50分のペンス演説は、昨年同様、中国を「戦略的競争相手」と定義し、「中国の行動はますます攻撃的になっている」と批判した。

中国の内政・外交の1年を振り返って、香港、台湾問題、少数民族弾圧から知的財産権の「窃盗」、南シナ海、尖閣諸島(中国名 釣魚島)まで、あらゆる領域で対立が激化している現状を網羅した。

その一方、「中国の発展を抑えこむつもりはなく、建設的な関係を求めている」とも述べ、中国との経済関係を切り離す「デカップリング(分離)」を否定した。

ニューヨーク・タイムズが「新冷戦の号砲」と評した、前回2018年10月4日のペンス演説と比べると、

  1. 戦略論は突出させず、具体論を展開
  2. 合意可能な経済・貿易分野では穏健姿勢を出した

という2点が今回の特徴だ。

3回延期されてきた演説

トランプ大統領と習近平

6月に開かれたG20サミットでのトランプ大統領と習近平総書記。11月にはチリで開かれるAPECで米中首脳会談を行い、通商問題で「第1段階の合意」に署名をしたい意向だ。

REUTERS / Kevin Lamarque

米中両国は11月のチリでのアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に合わせた米中首脳会談で、「第1段階」の通商合意の署名を予定している。それが今回の「穏健姿勢」の背景だろう。

演説は当初6月に行われる予定だったが、貿易交渉への波及を考慮し3回延期されてきた。ペンス氏は「対中タカ派」の代表であり、解任されたボルトン元大統領補佐官と並んで「新冷戦派」リーダ―である。

一方、トランプ大統領は再選を最大のプライオリティに、習近平国家主席との「個人的信頼関係」を重視。再選にプラスとなれば人権・民主を度外視しても中国と妥協するだろう。

大統領自身もその温度差を意識しながら、ペンス氏との「役割分担」をしているに違いない。ペンス氏は「中国は違う米大統領を期待している」と、大統領選に向け中国指導部の「顔色をうかがう」ような発言もした。

「より良い未来」への希望表明と評価

香港デモ

数カ月にわたって続く香港のデモ。中国は各国が香港問題について言及することに「内政干渉」と反発する。

Getty Images / Billy H.C. Kwok

北京の公式反応は、いつものようにストレートだった。

華春瑩・外務省報道局長は10月25日の記者会見で、「中国の社会制度や人権、宗教の状況をねじ曲げており、政治的偏見とうそに満ちている」と、強い調子で非難した。非難は主として、香港・台湾問題など「内政干渉」に向けられている。

だが、メディアの反応は全く逆だった。

驚いたのは共産党機関紙「人民日報」系の環球時報の社説「ペンス演説の古い言葉と幾つかの変化」(10月25日付)のトーンである。

「演説は関係改善に比較的前向きな態度を表し、デカップリングを否定して、両国関係の明るい未来を望んでいる」

と評価し、さらに、

「両国の指導者間の個人的な友情を強調し、米中関係が両国により多くの利益をもたらし、より良い関係と未来を達成することへの希望を表明した」

とまで書いた。昨年の「新冷戦演説」の時には全くないトーンで、「ホメゴロシでは」と疑わせたほどだ。

朱建栄・東洋学園大教授は、こう分析する。

「少しほっとしたというのが北京の本音でしょう。特にデカップリングを否定した点です。対中批判は覚悟の上だったから、これ以上の関係悪化は当面はないサインと受け止めている」

1992年以来最低の経済成長

中国港の様子

米中貿易摩擦の激化で、中国は輸出が鈍り、経済成長率も鈍化している。

REUTERS / Aly Song

確かに演説は「デカップリング」を否定した。だが、トランプ政権は2019年5月のファーウェイへの禁輸決定や、次世代移動通信規格「5G」からの中国企業排除など、実際は「デカップリング政策」を次々に打ち出してきた。

その結果、世界のサプライチェーン(部品供給網)が打撃を受け始めている。中国経済は輸出の下落から、第3四半期の国内総生産(GDP)の伸び率は6%と、1992年以降最低の水準に落ち込んだ。

この1年、米中間の懸案には大きな前進はなかった。

その一方、中国経済の減速だけは顕著で、世界経済への波乱要因になり続けている。中国からすればデカップリング否定に対し、「いまさら何を」と反撃して不思議はないが、なぜ低姿勢を続けるのか。

「全面的に対抗する力はない」

ファーウェイ

米中貿易摩擦の煽りをくらったファーウェイだが、中国国内を中心にスマホなどは堅調な売り上げを維持している。

Getty Images / Tomohiro Ohsumi

中国指導部は2018年12月のブエノスアイレスでの首脳会談の直前、アメリカとは「対抗せず、冷戦はせず、漸進的に開放し、国家の核心利益は譲歩しない」の4点からなる柔軟方針を決めた。

中国語では「不対抗、不打冷戦、按照伐開放、国家核心利益不退譲」の21文字からなるため、「21字方針」と呼ばれる。

核心利益を守る「底線」(レッドライン)は設けたが、基調は「全面衝突を回避」にある。背景には「中国には全面的に対抗する力はない」という習氏の認識があるとされる。この秋、大連と武漢で会った中国研究者によると、この方針は今も有効だ。

米中関係は、世界の政治・経済関係と秩序の基調になった。習政権のプライオリティは何よりも、対米関係の安定にある。

香港の大規模デモで噂された武力行使に出ない理由の一つは、武力制圧すれば、世界的な非難を浴び、経済制裁も覚悟しなければならないからである。

資本の海外逃避が「時限爆弾」の債務問題にも飛び火しかねず、習政権が命運をかける「一帯一路」にもブレーキがかかる。一党独裁の正当性は、経済成長による国民生活向上と富裕化によって保証されている。経済の落ち込みによって社会の安定が失われれば、政治の不安定へと連動しかねない。

内政不干渉と多極化訴え

現在の米中関係を表現するなら、「新冷戦」と言うより、米中パワーシフトに伴うアメリカの「対中抑止」と見るほうが正確だろう。米一極支配を維持するため、「追い上げる中国の頭を叩く」という図式だ。先に挙げた環球時報の社説は、米中関係の将来の“理想的な姿”を次のように描いた。

「中国の政治体制はアメリカとは異なる。しかし中米両国には、平和共存と協力Win-Winの十分条件と広範な現実的可能性がある。

21世紀には異なる文明が調和して生きられるはずだ。われわれの世界は豊かで多様でなければならない。この原則こそ最も普遍的である」

「内政不干渉」と「国際秩序の多極化」。これが、中国の目指す国際秩序である。

岡田充(おかだ・たかし):共同通信客員論説委員、桜美林大非常勤講師。共同通信時代、香港、モスクワ、台北各支局長などを歴任。「21世紀中国総研」で「海峡両岸論」を連載中。

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