64歳になった米マイクロソフトの共同創業者ビル・ゲイツ。
REUTERS/Rick Wilking
- Business Insiderは2016年にビル・ゲイツに単独インタビューを行った。
- 当時はその一部を記事として掲載したが、ゲイツが10月28日に64歳を迎えた記念に、未公開だったインタビューの重要部分を新たに公開しよう。
ビル・ゲイツにインタビューするために与えられた時間は20分きっかりだった。
あれは2016年の春、ゲイツ財団のクリーンエネルギーを中心とする年次報告書発表に際して、プレスの取材に対応するため、ゲイツはニューヨークにいた。
時刻は午後2時。マンハッタンのミッドタウンにある超高級ホテルでゲイツに会った。タイムキーパー役の側近も一緒で、私は二人と握手をした。
実際に会ってみると、よくメディアで言われる通り、オタクっぽくて、気持ちが良いほど礼儀正しくて、非常に知的な人だった。
中国では慈善事業を行う層がどれだけ少ないか(経済全体の0.1%以下)とか、エネルギー市場がどれほど巨大か(年間3兆ドル)とか、慈善活動によって5歳までに子どもが死亡する子どもの率が33%から5%以下に下がったとか、世界開発に関する統計をすらすら口にした。
還暦を迎えたばかり(当時)のゲイツと話して、まず驚かされたのはそのことだった。
彼はあまりにも多くのことについて、百科事典的ともいえる知識を持ち合わせている。10代のうちに『世界大百科事典』を全巻読破したエピソードどおり、さまざまな領域の知識を相互作用させる方法が頭に入っているのだ。
そのまま本にして出版できるゲイツの語り口
2019年9月、「国連気候行動サミット2019」で講演した際のビル・ゲイツ。
REUTERS/Lucas Jackson
全文なので長くはなるが、「クリーンエネルギーにおいて、いま最も面白いことは何でしょうか?」という、私からの最初の質問に対するゲイツの回答を紹介しよう。
クリーンエネルギーの開発はその大半が初期段階にあります。
一番直接的な道は、ソーラー発電と風力発電のコストを(例えば)3分の1に減らして、そこに素晴らしい蓄電の手法が登場すれば、1日24時間どころか、もっと長時間風が吹かなくても、安定的にエネルギーを獲得することができるようになります。
でもエネルギーの貯蔵は難しい。だから、これは保証された道とは言えないですね。
実際、この100年間、バッテリーはそうしたエネルギー安定供給を可能にするほどには十分に改良されてきていません。私は多くのバッテリー会社に投資していますし、もちろん私が関わっていない会社もたくさんありますが、どの会社もすごく苦労していますね。
高高度のジェット気流発電など、現時点でははっきりしていない道にもっと目を向ける必要があるでしょう。ただし、その実現に必要な(例えば凧ひものような)素材の研究はまだ基礎段階にとどまっています。
そこは政府が役割を果たせる部分で、後押しによって研究開発がうまくいけば、年間3兆ドルのエネルギー市場なので、リターンはかなり大きくなるでしょうね。
ほかに目を向けるべき道としては、原子力発電を十分に安価かつ安全にして、広く活用できるようにする方法も考えられます。実現すればスケールアップも可能になります。
もしくは、石炭のような炭化水素資源を燃やすときに出る二酸化炭素(CO2)を捕集、抽出する技術(=二酸化炭素回収貯留、CCS)を確立し、さらには初期投資やコストの削減に成功できれば、それはもう一つの道になるかもしれません。
こうした選択肢は10以上挙げることができるし、すでに数多くの研究が進んでいます。いずれは本当に大きな資本をもつ企業数社が、その可能性を試して、スケールアップに挑戦することになると思います。
自動車の進化と同じで、多くの人は電気自動車や蒸気自動車が本流になると思っていた。でも実際は、ダークホースともいえる内燃機関が勝った。ペンシルベニア、次いでテキサスで大量の原油が発見されたこともあって、電気自動車や蒸気自動車が歴史において大した注目に値しないものとされてしまうほどに、内燃機関の圧勝でした。
まず気づいたのは、ゲイツの口から出てくるのが、そのまま本にして出版できるような文章だということ。まるで頭の中から日曜日の新聞の論説が出てくるみたいな感じだ。
それだけではない。彼のコメントのなかに、いったいどれだけ多くの情報が編み込まれていることか。それはまさにゲイツが類まれな才能の持ち主である証しといえる。
ゲイツは話のなかで、クリーンエネルギー分野における最先端テクノロジーの競争状況を俯瞰した上で、変化はいかにして起きるのか、イノベーションとは何なのかについて、誰もがたやすく理解できるよう教訓を示してくれた。
ゲイツは「エキスパート・ゼネラリスト」
Windows 95発売時のビル・ゲイツ。当時40歳。
REUTERS
シアトルの青年だったゲイツが若いころに丸飲みした百科事典のことを思い出す。「百科事典(encyclopedia)」という言葉の語源は古代ギリシャ語で「enkuklios paideia」、つまり教育全般を意味する。まさにその語源のごとく、あらゆることが他のあらゆることとどうつながっているのかを、彼はよく理解しているように感じられた。
ゲイツは、テキサス大学の心理学者アート・マークマンが「エキスパート・ゼネラリスト」と呼ぶ才能の、言ってみれば“億万長者バージョン”だ。
エキスパート・ゼネラリストとは、たくさんのことをほんの少しずつ知っているのではなく、たくさんのことをたくさん知っている人を指す。パブロ・ピカソがアフリカンアートにのめり込んでキュビスムを生んだように。
ゲイツはエネルギーや素材についてだけでなく、そのほか何千ものことがらについて勉強している。彼は交差する知識のエヴァンジェリスト(=わかりやすく伝え、啓蒙する役割を果たす人)で、本人のブログによると、「ビッグバンから生命の最初の兆し、今日の複雑な社会に至るまでの宇宙の物語」を伝えようとしている。
知識をぶら下げる結び目をたくさん持っている人
Windows XP発売の2カ月前、2001年8月24日。当時45歳。
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月並みな言い方だが、ゲイツとその仲間たちのおかげで、私たちは情報世界に生きている。
いまや、シリやアレクサに何か特定の事柄についてたずねると、スマホを見る必要すらなく、答えを教えてくれる時代になった。しかし、ゲイツが持っているのはそうした単なる情報以上のもの、つまり広大な「知識」だ。
人間の学習についての研究によると、すでに自分が知っていることに新たに知ったことを結びつけようとする「同化(elaboration)」と呼ばれるプロセスのおかげで、知れば知るほどより容易に新しい知識を見つけ、記憶できるようになる。
だから、そうした(知識をぶら下げる)結び目をすでにたくさんもっているゲイツのような人にとっては、材料科学であれ何であれ、識見を得てそれを(記憶に)定着させるなど、たやすいことなのかもしれない。複利のようなものだ。
以前、ゲイツはこう話していた。
「学べば学ぶほど、その知識が当てはまる枠組み、構造が見えてくるようになります」
[翻訳・編集:Miwako Ozawa]