115億光年先にある宇宙の「蜘蛛の巣」を観測!宇宙の進化史解明に向けた新たな一歩

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観測された115億光年先の宇宙のようす。青い部分が水素ガスの領域だ。

出典:理化学研究所

宇宙のはるか彼方から地球に届いた光は、長い年月をかけて地球までたどり着いた光だ。

つまり、遠くから来た光を観測することは、宇宙の過去の姿を見ることと同じである。

この宇宙が誕生してからこれまでの約138億年の歴史を知るには、地球からさまざまな距離に位置する天体を観測すればいいわけだ。

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理化学研究所の梅畑豪紀博士。

撮影:三ツ村崇志

理化学研究所で基礎科学特別研究員を務める梅畑豪紀(うめはた・ひでき)博士らは、みずがめ座の方向にある115億光年先(1光年は光が1年の間に移動する距離)という遠くの宇宙で、複数の銀河をまたぐように広がった大量の水素ガスの存在を確認。10月3日に、アメリカの科学誌「サイエンス」で報告した。

蜘蛛の巣状に広がった水素ガスを世界で初めて観測

宇宙では、約115億年前〜100億年前に恒星(みずから光り輝く星)や超高密度の天体である巨大ブラックホールが活発に生み出されていたと考えられている。つまり、梅畑博士らの観測したのは、星々が活発に生み出され始めた時代の宇宙だ。

ただし、宇宙のあらゆる場所で同じように恒星やブラックホールが誕生していたわけではない。

現在、最も一般的だとされている宇宙の形成モデル(冷たいダークマターモデル)では、この時代、大量の水素ガスが「蜘蛛の巣」のように広がっており、その網目に沿って恒星や銀河、ブラックホールなどの天体が誕生したと考えられている。

宇宙の進化をシミュレーションした動画。最も一般的な宇宙の形成モデルによると、星々が活発に生み出されていた時代には、水素ガスが高密度になった領域が蜘蛛の巣状に分布していたと考えられている。このモデルを「冷たいダークマターモデル」という。

出典:Mark Vogelsberger, Dylan Nelson, Shy Genel, Paul Torrey /Illustris Simulation

宇宙空間をただよう大量の水素ガスは、互いの重力(万有引力)によって引き合い、密集する。密度が高くなればなるほどさらに周囲の水素ガスを引き寄せ、より巨大な天体へと成長を遂げていく。

そのため、蜘蛛の巣状に広がった水素ガスは、結果的に銀河同士を結ぶように分布していくはずだ。

地球の比較的近くの宇宙(最近の宇宙)では、銀河が蜘蛛の巣状に分布していることが知られている。これは、かつて蜘蛛の巣状に広がっていた水素ガスの分布に沿って星々が誕生したことを示唆している。

しかし、こういった間接的な証拠がありながらも、活発に星々が生み出されていた時代の宇宙(遠くにある宇宙)で、実際に水素ガスが蜘蛛の巣状に分布している様子はこれまで観測できていなかった。

今回の梅畑博士らの観測結果は、これまで観測できていなかった蜘蛛の巣状に分布した水素ガスの一部を世界で初めてとらえたものだ。

銀河やブラックホールの光に照らされて観測可能に

Very Large Telescope

今回の最終的な観測に使用した、ヨーロッパ南天天文台の超大型望遠鏡VLT(Very Large Telescope)。VLTは4台の望遠鏡の総称。そのうちの1台に搭載された装置を用いて観測を行った。

出典:ESO/H. Heyer

梅畑博士は、蜘蛛の巣状に広がった水素ガスを観測できた理由を次のように語った。

「これまでにも、蜘蛛の巣状に広がった水素ガスの観測は試みられてきました。ただ、遠く(昔)の宇宙であればどこにでも水素ガスがあるだろうという思い込みがあり、水素ガスから放たれる光が弱い領域を観測していたのではないかと思います。

今回観測した領域は、それまでの観測から成長途中の銀河やブラックホールが無数に存在することが分かっていました。こういった領域であれば、銀河やブラックホールから放たれた紫外線によって周囲の水素ガスが明るく光り、地球からでも観測できると思ったのです」

実際、これまでにも、梅畑博士らが今回の観測に使用したヨーロッパ南天天文台の超大型望遠鏡VLT(Very Large Telescope)を用いて蜘蛛の巣状に広がった水素ガスを観測しようとしていた研究チームもいた。しかし、40時間以上かけて観測を行いながらうまく観測できなかったこともあったという。

今回、梅畑博士らが行った観測では、6つの観測結果を合成して1つの大きな領域の観測結果を得ている。1つの領域の観測にかかった時間は5時間程度だ。

水素ガスが明るく光っていそうな場所を狙えば、たった数時間で観測が可能だという事実は、装置の使用時間が限られている天文学者たちにとって朗報だ。

ブラックホール

ブラックホールの周囲では、ブラックホールの重力によって引き寄せられたちりが圧縮され、高温になることで紫外線などの強い光が放出される。

出典:ESA / V. Beckmann (NASA-GSFC)

宇宙の進化史における重要な1ページ

これまでに考えられてきた天体の進化の過程は、銀河やブラックホールなどを1つずつ観測した結果をもとにしたものが多い。

梅畑博士らの観測結果は、銀河やブラックホールが水素ガスを介して互いに結びつきながら成長していく過程を世界で初めてとらえたものだ。太古の宇宙で複数の天体が影響し合いながら進化していく正確なメカニズムを解き明かすためには、この上なく重要なデータだといえる。

梅畑博士は今後、より広範囲の水素ガスの分布や、今回観測できなかった暗い水素ガスの分布、さらには水素以外の元素の分布などを調べる計画だ。

我々の宇宙は、これまでにどうやって進化してきたのか。

銀河やブラックホールは、それぞれ、進化の過程でどのような役割を果たしてきたのか。

無数の銀河やブラックホールを結ぶ「巨大な蜘蛛の巣」の観測を続けることは、宇宙の歴史に新たな1ページを加えることにつながるはずだ。

(文・三ツ村崇志)

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